10 先輩

 その日、先輩は口数が少なかった。

 業務終わり。帰りの車の中でその理由が明かされた。


 信号に引っかかって「ちっ」と舌打ちした後、


「私さ、来月でここ辞めるんよね」


「え、」


 思わず運転席の先輩を凝視した。

 先輩は事務所近くの大型量販店の名前を出した。


「そこ受かったんだよね。来月から、そこの社員になる」


「え。めっちゃ急ですね」


「えー? そんな事もないよ。もう社長とか主任には話したし」


 その後の話題は「最近の天気」に移行して、僕は無難に受け答えしながら帰路をやり過ごした。


 ――十年も続けたという納棺師を、そんなにあっさりと?


 僕の胸に心細さと喪失感がわだかまる。


 ずっと面倒を見てくれていた先輩がいなくなる。頭の奥が鈍い痛みを訴えていた。





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