7 葬式をどうするか
僕の先輩は面白い、と言っていいのか分からないが面白い。
僕とは二十も年が離れているから母親と息子くらいの年齢差であるし、納棺師歴十年のベテランだが、上司というより「先輩」と呼んだほうがしっくりくるのが不思議だ。
「私が死んだらぁ、ぜぇったい納棺師呼んで欲しくない。だって、死んだ後に裸見られたくないでしょ! 今日初めて会った納棺師に、ねえ。
家族にもそんな高額なお金使わせたくないし。葬式はぜぇったい、いっちばん安いプランでいい」
そんな事を日頃から言い放ちながらも、納棺師の仕事に誇りを持っている事は確からしい。
どんな矛盾もざっくばらんに飲み込んでしまう、懐の深い、破天荒な気質の人だ。
「まあ家族がねぇー亡くなったらぁ、それなりの立派なお葬式したいけど。
特にうちのワンちゃんには絶対ちゃんとしたいんよ。そろそろいい歳だから、ペット葬探してるんよね」
と言い添えて、急に僕に水を向けた。
「どうなの? 自分の葬式。湯灌頼みたい? てか、自分の家の宗派知ってる?」
「宗派……えっと、どうなんでしょうね。葬式かあ……うーん」
言葉上は曖昧に濁してから、僕は考えてみた。
葬式をどうするか。
僕の両親は健在だがいつか何十年か先には直面する問題だと思う。
だが必死で考えても、霧を掴むように分からなくなる。
分からなくなるので、後輩に同じ問いをぶつけてみた。
後輩は春風を一杯に吸いこんで、鼻を膨らめた。
「俺、
こいつに聞いた僕がバカだったと若干思わなくもない。
「あとは
若いなあ。
自分の年齢は棚に上げて、後輩に苦笑しながら僕はそう評する。
ひとまず僕は、物珍しい葬式だった、と言われるより、豪勢じゃないけどすごく良い葬式だった、と言われるほうがしっくり来るんだなあと自分の価値観を認識できた気がした。
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