第43話 エピローグ ~星の海で遊ばせて~

 文化祭が終わり、十月三十一日は、ハロウィン演奏会があった。吹奏楽部、管弦楽部、ピアノ部、コーラス部が、放課後の体育館を貸し切って行う、二時間のコンサートイベントである。生徒の他にも、教員や、近隣住民も聴きに来る。文化祭で誕生したカップルの初デートとしても良いイベントであるが、本来は、文化祭のステージ発表を観られなかった裏方のために開催されたのが始まりである。


 体育館入り口には演奏会の受付があり、ドラキュラや魔女に扮したコーラス部、吹奏楽部の生徒が演奏会のパンフレットを配っていた。表には星空の背景に『starry skies』という筆記体の表題、裏には演奏曲が書かれている。


 しかし、天気は生憎の曇り。


 ぱらぱらと、小雨が降り始めてきていた。


 パンフレットを受け取った柚子は、「今日星、見えないね」と、うきうきした口調で言った。柚子にとっては、星が見えようが、見えまいがどちらでも構わなかった。この小雨が土砂降りに変わって、嵐になったとしても、もう充分幸せだった。隣には詩乃がいて、柚子の目は、詩乃の横顔を見つめていた。詩乃はパンフレットの裏面を見て、こっそり笑った。


「たぶん、見えると思うよ」


 詩乃はそう言うと、柚子の前にパンフレットを持ち上げて、演奏される曲のうちの一つを指さした。柚子はその曲の題名を小さく口に出し、その歌詞を口ずさんだ。有名な英語の曲だから、最初の数センテンスは唇が覚えている。そうしてから柚子は、あっ、と、思い出すことがあって声を上げた。柚子は、じっと、詩乃を見上げた。


 詩乃は、突然柚子に、熱っぽい目で見られて驚き、ドキリとしてしまった。


 観覧席に隣り合って座り、柚子は、詩乃に囁くように訊ねた。


「――じゃあ、月までお願いね」


「え?」


 詩乃は聞き返し、それから、その意味を直感し、顔を真っ赤にしてしまった。体育館の電気が落ち、柚子は柔らかい笑顔を詩乃の肩に乗せた。ステージがぱっと明るくなり、最初の演奏が始まった。

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