幸運機械
@yanadamiuchi
幸運機械
2080年冬ごろ、発売された「幸運機械」は、これまでの産業革命をことごとく凌駕するほどのポテンシャルを秘めていた。
まさに革命であった。
話題になったのは、2082年の4月の宝くじである。幸運機械を体に取り付けた男性が、わずか10枚の宝くじで一等をとったことから、事は始まった。
後のインタビューで、当選者が幸運機械を販売する社員だったのは、言わずもがなの話である。当然、幸運機械は、5年分の予約で埋め尽くされた。当時、3000万円ほどと、家庭では少し届きにくい価格だったが、予約が後を絶えず、幸運機械をもつものと持たぬものでは、天地の格差が広がった。
何せ幸運機械を持たないものが起きた不幸は、ほとんどの確率で、幸運機械所有者の幸福になるのだから。幸運機械を持たない旧人類が小銭を落とすと、機械所有者がその金を拾った。もうこの頃には、あらゆる既存の生活フレームにガタがきていた。結局2年後、宝くじは廃止されるに至る。(幸運にも、会社に取り付けてあった幸運機械のお陰で、宝くじの正規社員のほとんどは、すぐに再就職でき、暴動も起きなかった。)それから私の家に幸運機械が届いたのは、さらに2年後の春になる。
この頃には保険会社のほとんどが潰れていた。
何せ、事故件数が大幅に減少していたし、転びもしない。町はとてつもなく平和だった。私の通勤していた保険会社も潰れたが、幸運機械のおかげで、再就職ができた。力仕事の大工だったが、幸運にも不健康が改善されて、実質医療費がチャラになった。それもこれも幸運機械のおかげである。
しかし、幸運機械があるからといって、株や賭け引きで大勝ちすることはなかった。幸運機械発売の瞬間は絶大な効果があったのかもしれないが、(実際あった)全員に幸運が付けている今、大勝ちするということはなかった。ただ、わずかな金額だが必ず勝てた。絶対に負けない。ほんの少しだが、株をしていればお金に困ることはなかった。それでも贅沢をしたいやつは努力した。
富裕層が幸運機械第3世代目を購入してより金持ちになろうとしていた頃、私は宅建を受けようとしていた。
大工で働くよりは、建築物を売った方がよっぽど金になるのだ。なぜ俺が宅地建設取引士になろうとしているのか?それはまさしく、幸運機械様の恩恵を受けるためさ。
一番幸運機械に影響を受けた業はなにかと言われれば、間違いなく建設・不動産業だからだ。
幸運機械の置かれた目の前で工事をすれば、適当に部品を投げてさえいれば勝手に積み上がってビルができていくのだから。この風景を最初に見たやつは、口をあんぐり開けて食い入るようにみた。あまりにも美しいラッキーの連続がその空間で支配していたのだ。世界は全ては、ラッキーによって作られるのだと悟った輩もいた。
起動した機械の近くで釘を投げると、たまたま木材のスイートスポットにハマり、打つべきはずだった場所に、偶然釘が食い込んだ。セメントも適当に流しこめば、偶然そこにあった型に綺麗にならされた状態で固まる。コンクリートは適当に投げれば置いてあるコンクリート同士が勝手にぶつかり合い、干渉を起こしたのちに整列し、綺麗な土台ができた。
あとは設計図通りに見習いが適当に部品を投げまくるだけである。コンクリート、セメント、木材、釘、ネジ、鉄筋を順番通りに大工が土地にむかってぶん投げていった。コンクリートは何回投げても、やはり整列し、土台も偶然その土地に最適なものとなった。
楽しかったのは、通学路にいた小学生と一緒に、工事現場に向かって部品を投げた思い出だ。
子供たちが笑顔で投げた金具たちは、偶然にも、指定場所にかっちりとハマった。子供たちも、綺麗にはまる部品たちが珍しかったのか、夕方になるまで投げるのを手伝ってくれた。
俺たち大工は喜んで、缶コーヒーとグミを子供にあげながら、最近の知らないゲームのことを質問した。一人暮らしの俺にとって、知らないことを聞くのは新鮮で心地が良かった。
「そうたくんは最近何して遊んでいるの?」
「ゴルギアーズっていってね、あのね、わく星のちりを集めてモンスター作って戦わせるの。」
「俺、ジラキンの海王星ばん持ってるよ!」
「でもジラキンよりも、金星型の方が強いよ!
確率と因果率ねじ曲げて殺せるもん。海王、ヘリウム毒系ばっかで弱いじゃん!」
「こら、喧嘩しない。殺すとか言わない。」
「はーいごめんなさいでした。」
「でもヘリウム命令無視して洗脳できるから、確率意味ないし。レベル6以下しゅん殺だもん。俺のにいちゃん全部持ってるし。」
「はぁぁ??!」
「こら現場機械の半径に入らない。運が良ければビルの一部になっちゃうよ?」
「ごめんなさいでしたぁ」
人件費が圧倒的に安くなったと同時に、親方の愛想も良くなった。遊ぶ子供と一緒に働ける時代なんていい時代じゃあないか。子供たちと一緒に働けて、先輩たちも、自然と笑顔が増えた。勤務時間は偶然にも下校時間と重なった。世の中はまさに幸運な時代になったのだ。
「せんちゃん、あんた、宅建はできたかい。」
「おばちゃん。」
「合格したんかい?」
「あーぼちぼちですよ。保険関係今年から出ないそうなので楽そうです。」
「あー保険ね!難しそうよね。あれね。
良かったじゃん〜あんた頑張って合格しなさいよ。」
とは言っても幸運機械の試験範囲も時代に適応せず、コロコロ法律が変わるのだ。一回落ちると次の年の幸運機械の法律を覚えないといけないわけだし...
だるいなぁ...
...........
「にいちゃん今日何投げればいいのー???」
「あぁ、今日は釘をそこらへんに満遍なく投げてくれるかな。でかいのは俺たちがやるから。」
とりあえず、親方が子供に丁寧になったおかげで、少し丸くなったし、その分俺へのあたりも優しくなった。幸運機械よろしく、子供と一緒にいると、心が安らぐのは、今も昔も変わらないらしい。
法令上の制限(幸運機械の取り扱い)
問一
3階建て、延べ面積600㎠、高さ10mの建築物に関する次の記述のうち、建築基準法の規定によれば、正しいものはどれか。(尚、幸運機械の作動範囲は半径30mとし、災害保険に加入していないものとする。)
1.当該建築物には、有効に避雷設備を設けなければならない。
2.当該建築物が木造であり、都市計画区域外に建築する場合は、現場用幸運機械の確認済証の交付を受けなくとも、その建築工事に着手することができる。
3.用途が事務所である当該建築物の用途を変更し、幸運機械の範囲外において、共同住宅を建築する場合は、確認を受ける必要はない。
4.用途が共同住宅である当該建築物の工事を行う場合において、2階の床及びこれを支持する梁に鉄筋を配置する工事を終えた時は、幸運機械ともに中間検査を受ける必要がある。
テスト中、幸運機械は貴重品と共に没収される。機械がなかった頃の、純粋に頑張れた時が懐かしい。
解説は、また今度。
幸運機械 @yanadamiuchi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます