七話 地底人の世界へようこそ
どこだ……ここは……⁉
たしかさっきまで
「わたくしに身を委ねてくださるなんて……嬉しいですわ
どうやら俺は
ってダッメだろ!
慌てて望杉から離れる。助けてくれたのはマジで本当にありがとうだけど久留那さん以外の女の子にこの身を委ねるわけはいかない。
「ありがとう望杉助かった」
「ああんそんな、わたくしは当たり前のことをしたまでですわ。おーほっほっほっほ!」
望杉の高貴な笑いで上からパラパラと砂が落ちてくる。そうだ、久留那さんは無事なのか⁉
「久留那さんは⁉」
「安心してください、無事ですわよ。
「この場には⁉」
「愛斗さんにとっては残念ですが、いませんわよ」
「なんだと……」
久留那さんと離れ離れになってしまっただと……、これは早急に探しに行かなくては!
「わたくしにとっては愛斗さんと二人きりになれたので最高ですわ!」
腕に絡みつく望杉を引きずりながらよくわからない道を俺は進む。
望杉曰く、俺たちが落ちた場所は地底人の道らしい。
「地底人世界の県道ですわね」
そのうち久留那さんに合流できるらしく、危険も特にないとのことだった。良かった……。
「花緖嶺さん達と連絡を取ってみましょうか?」
「頼む!」
食い気味に答えてしまったが、まあ食い気味にもなる。
望杉がスマホで恐らく五美にだろう、電話をかける。流石望杉、スマホも圏外にならないらしい。
「五美、なにしてますの?」
望杉がスピーカーに設定するとスマホから声が聞こえる。
『おー、お嬢さま無事だったんですねー。あたしらは探検してますね』
「花緖嶺さんに替わってくださる?」
『あー、りょーかいです。花緖嶺ー、愛斗君も無事だって』
五美が久留那さんを呼ぶと、この世のものだが、この世のものとは思えぬ程の美しい声音がスマホから聞こえる。
『こんにちは、ごめんなさい
それっきり電話は切れてしまった。
久留那さんに名前を呼ばれてしまった。それと心なしか久留那さんが楽しそうで良かった。来てよかった……地底人の世界。
「わたくし達もデートを再開いたしましょう」
「ツチノコ探してくる」
久留那さん以外とデートする気は無い。俺は望杉から身を躱すとツチノコを探しに地下道をかける。
「ツチノコ探しデートですわね!」
「違う。久留那さん以外とデートはしない」
理解してくれたよな……?
「ようこそ。我ら地底人の世界へ、歓迎するぞ地上人」
そう厳かに言うのは隣町のサラリーマンの羽田さんだった。
「羽田さん、地底人だったんですね⁉」
「そんなことが……⁉」
望杉も驚いている。それもそうか、あの羽田さんが地底人だなんて誰も思わない。
「すまないな、名も知らぬ地上人よ。だが別に君たちに危害を加える気は無い、歓迎させて貰う」
そう言うと羽田さんは指を鳴らす。
すると、地面(地中だけど)が揺れて、俺たちの目の前にあるものが生えてくる。
「そういえばクレーンゲームは地底人の歓迎の挨拶でしたわね」
生えてきたクレーンゲームの筐体に近づいた望杉は中の景品を覗く。
俺も覗きに行くと、望杉が腕を絡めてくる。
「愛斗さん! わたくしあれが欲しいですわ!」
「いや、全部同じぬいぐるみだぞ」
「なかなかお目が高いな! それは我ら地底人のゆるキャラランキング第五十七位のペン太君だ!」
そのペン太君とやらはざっくりいうとヒラメだ、色はショッキングピンクだけどヒラメだ。
これは久留那さんが喜ぶんじゃないか? 俺は早速百円玉を入れてみるが、返却口に落ちてしまう。
「少年よ、プレイ料金は三十二円だ」
「安い⁉」
「良心的ですわね!」
俺は財布の中を確認する。良かった、三十二円あった。
「ちなみに入れるのは一円、十円、十円、十円、一円の順番だ」
俺は羽田さんの言う通りの順番でお金を入れていく。最後に一円を入れた時、筐体から軽快な音楽が流れる。
「愛斗さん、ファイトですわ!」
久留那さんのためだが、俺は頷くとレバーを動かしてアームを操作する。
クレーンゲームに入った羽田さんがペン太君のぬいぐるみを抱えて丸まっている。
羽田さんの上にアームを移動させてボタンを押す。アームが下がって羽田さんを掴んでそのまま穴に落とす。
取り出し口にペン太君を抱えた羽田さんが落ちてくる。
「流石愛斗さんですわ! 二つ同時に取ってしまうなんて!」
「よくやった少年……特別にこのペン太君ペアキーホルダーをあげよう……」
「羽田さん……、ありがとうございます!」
俺はありがたくキーホルダーとぬいぐるみを受け取る。ぬいぐるみは久留那さんにあげよう、もう一つのぬいぐるみはまあ望杉にでもあげよう。
「愛斗さんからのプレゼント! 一生大切にしますわ!」
久留那さん以外に渡すのはちょっとどうかと思ったが、助けられたからこれぐらいはいいだろう。
キーホルダーは……久留那さんに渡して俺も付け……たいけど……。
「愛斗さん?」
「はっ、俺はなにを?」
脳があれ以上考えるのを拒否してしまっていたのか⁉ 今は考えるのをやめておこう。
「さあ先に進むのだ少年少女よ! この先に地底人の街がある。皆歓迎してくれるだろう」
そう言うと羽田さんはスコップを持って俺たちが来た道を進みだす。
「羽田さん……ありがとうございます」
「感謝致しますわ」
羽田さんには感謝しかない。
「愛斗さん、進みましょう」
「ああ、久留那さんを探そう」
「二人なら街にいますわよ」
「よし、急ごう!」
俺と望杉は街に向かって駆けだすのだった。
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