二話 ドリアンファイター富美山まり

 土曜日、香峯子から校舎をドリアンまみれにする許可を得たまりは、早速校舎にドリアンを擦り付けていた。

「うー、面倒だから部員ほしいよお」

 この高校ドリアン部はまり以外の部員はいない。年中部員を募集しているが、なかなか入部希望者が来ないのだった。本来部活動には最低三人の部員が必要だが、ドリアン部はまり一人だけでも特例で部活動として活動を許可されている。理由としては単純、まりのドリアン部での戦績が凄まじいからだ。

 去年、まりが一年生だったころは、ドリアン部にも三年生が三人、部員数四人で通常の部活動として活動していた。そして、全国ドリアンファイト選手権、ドリアンカーリング全国大会、走りドリアン全国選手権それらの団体戦で優勝。そのいずれもまりの活躍によってだ。ちなみに三年生はあわや校舎を水没させるのかという勢いで泣いて喜んでいた。

 個人戦ではドリアンファイト世界大会、ドリアンカーリング全国大会、走りドリアン全国選手権、ドーリング世界大会など、国内、海外でのドリアン競技個人の部で優勝しまくっていた。

 まりは百年に一人のドリアンファイターの天才と呼ばれて、またそれを自覚しているが、ドリアンファイトだけでなく、全ドリアン競技で圧倒的な強さを誇る。

「なーんでこの高校でドリアン部は盛んじゃないのかな」

 まりの圧倒的強さが全国のドリアン部員の戦意をバッキバキになぎ倒してから焼畑にしたせいで、この高校だけでなく、全国の高校ドリアン部に部員が集まらない。なんなら退部者が続出する現象が起きているのだが、そのことをまりは知らない。

「何名様いらっしゃるのかな」

 校舎一階の教室棟外壁に防御用ドリアンを擦り付けながら、まりは空を見上げる。

 東南アジアと戦うのは明日、学校の全敷地を使うため、そして諸々の準備をするために全部活動が活動を休止、又は他校に練習試合など遠征に行っている。

「それにしても、生徒会長さんには感謝だよね」

 今年入学した一年生にして、速攻で生徒会長に就任した香峯子は全部活動の活動水準を大幅に引き上げるという偉業を成し遂げた。たかが生徒会、全校生徒はそう思っていた。

 去年まではドリアン部は外部の競技用の施設へ練習に行っていたが、香峯子が生徒会長に就任してからは、校内にできたドリアン競技用施設で練習をしていた。

 校内の施設でドリアンファイトはできるのだが、相手は世界の東南アジア、そしてその最高峰の養成校の生徒たちだ。恐らく校内の施設では十分なおもてなしができないであろうことから、まりは校舎全体を使ったドリアンファイトの許可を香峯子へ貰いに行ったのだ。

「これぐらいで大丈夫かな」

 校舎の全ての外壁をドリアンでコーティングし終えたまりは、額の汗を拭いながら満足そうに息を吐く。

「まりちゃーん」

 まりが声の方を向くと、おさげにした赤髪をふわふわっと揺らしながら、たれ目気味の大きな目でまりを捉えた一人の女子生徒――張田燈子はりたとうこが手を振りながら、芝生を突っ切って駆け寄って来ていた。

「おおー、燈子ちゃーん」

 まりも大きく手を振りながら燈子を迎える。

「まりちゃ――んっ」

 そして燈子は持っていたピクニックバスケットからおしぼりを取り出して、それを全力投球。

「わぷっ」

 顔面でおしぼりをキャッチしたまりは、おしぼりで手を拭きながら燈子を待つ。

「まりちゃん! お昼ごはん作って来たよ!」

 辿り着いた燈子が僅かに肩を上下させながら、両手で持ったピクニックバスケットを胸元で掲げる。

「本当に⁉ ありがとう! ちょうどお腹が減ってきてたんだ」

 目を輝かせるまりに、燈子は微笑みながら詰め寄る。

「それじゃあ今から一緒に食べよう! ピクニックだよ」

 身をひるがえした燈子は芝生のど真ん中に、スキップしながら向かう。

 まりはその様子を微笑ましく見守りながら、燈子の後を追う。

 元々ただのグラウンドだったのだが、先月、突如空から飛来せし女子生徒がドデカいクレーターを作り、翌日には綺麗な一面芝生のグラウンドに変わっていたという。

 なるほど、なかなかのダイナミック工事だな、と 同じクラスの環境整備部の浜中はまなかが言っていたのをまりは思い出す。

 芝生に黄色のチェック柄のレジャーシートを敷き終えた燈子がバスケットの中を漁り、ランチボックスを取り出す。

「ほらほら、まりちゃんも早く座ってよ」

 まりは靴を脱ぎ、燈子の靴の隣に置いて腰を下ろすとランチボックスを受け取る。

「今日はね〜、サンドイッチだよ」

 そう言われてランチボックスを開ける。ランチボックスには、長方形のサンドイッチが四切れ、レタスとハム、卵やカツなどだ。

 まりはサンドイッチを一切れ手に取り食べる。

「ねえ、まりちゃん。明日の試合頑張ってね」

 そういえば学校側には東南アジアのドリアンファイターとの練習試合と説明していたなあ、などと思いながら、サンドイッチを飲み込んだまりは燈子に笑顔を向ける。

「ありがとう、燈子ちゃんに応援されると負ける気がしないよ」

 もとより東南アジア勢をけちょんけちょんにするつもりだったまりは、燈子の応援で更にやる気を高める。

「本当⁉ それならもっとまりちゃんを応援するね!」

 いつの間にかハチマキ(まりちゃんファイトと書いてある)を巻いて、ペンライトを持っていた燈子は、「がんばれー」とまりに向かってペンライトを振る。

 内に湧き上がってくる熱を大切に胸の奥へしまったまりは燈子へ抱きつく。

「ありがとぉぉぉ! なんかもう負ける気しないよぉぉ!」

 まりの声が辺りに響き渡る。

 燈子は頬を染めながらまりの腰へ手を回す。

「まりちゃん……恥ずかしいよ……」

 頭を抱きつくまりの肩に押し付けながら燈子は少し微笑む。

「ねえ、燈子ちゃん……」

 さっきのテンションとは一転して、燈子の耳元でまりは囁く。その声には僅かに覚悟が感じられた。

「……なあに?」

 燈子は優しくまりの頭を撫でながら待つ。

「この戦いが終わったら私と……」

 言い淀んだまりは燈子を離して、肩に手を乗せて明るく言う。

「そう、デート! デートしよう!」

 僅かに目を瞠った燈子はまりに精一杯のエールを送る。

「うん、待ってるね。まりちゃん……頑張って」

 まりは耳を赤くしながら残りのサンドイッチを食べ切るとサッと立ち上がる。

「よし! 明日に向けて今日は早く寝るぞー!」

「おー」

 その時はまだ、まりは勘違いしていたのだった。

 百年に一人のドリアンファイターの意味を……。

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