富美山まり編

一話 ドリアンファイト

ドリアンファイト――それは東南アジアを起源としたスポーツ。東南アジアにはドリアンファイター養成校なるものがあり、日夜凄腕ドリアンファイターを目指して、生徒たちがしのぎを削っているという。

 そして、かの有名な東南アジア最大級のドリアンファイター養成校が、この高校ドリアン部に挑戦状を叩きつけてきた。

「ということです。生徒会長さん! 私が戦えるように校舎をドリアンまみれにさせてください!」

 お願いします! と手を合わせながら頭を下げるのは肩にかかる程の茶髪をサイドテールにした少女――富美山とみやままりである。

 まりは頭を下げながらチラっと上目づかいで正面の執務机に座る望杉香峯子もちすぎかねこの様子を窺う。

「なにが、ということ、ですの?」

 香峯子はまりが渡したプリントを片手に、呆れた息を漏らす。

「……もしや、なにか問題を起こしたのではなくて?」

 コテン、と首を傾げる香峯子だったが目は笑っていなかった。

「まっさか~」

 頭を上げたまりが明後日の方向を向いて笑い出す。

 シャンデリアの光を反射した香峯子の黄昏色の瞳がキラリと光る。

「なにをやらかしましたの?」

 ポツリと香峯子がそう漏らすと、まりは慌てた様子で執務机に両手をつく。

「信じてくださいよ! 本っ当にないもしていませんってば!」

「それなら、言えるはずですわよね?」

 少し身体を仰け反らした香峯子のジト目がまりを射貫く。

 口を引き結んだまりは目を潤ませながら香峯子の目を見返す。

「……」

「……」

「……」

「……ドリアンカーリング」

 瞬き一つしない香峯子に遂に負けたまりは、泣きそうになりながら、消え入りそうな声で呟く。

「この前ネットにアップしたフレイミングスアローの体勢が……ドリアン神ミメアルバビビヨンに対する真摯さが足りないんだって、ドリアンファイトによる制裁が……はい」

「フレイミングスアローの様子をネット上にアップして、それが東南アジアのドリアンファイターの目に入ってこのような状況になったと?」

「東南アジアだけじゃないんですぅ……世界中のドリアンファイターの目に入っちゃいました……」

「まりさんともあろう方が、一体なにをやってますの……」

 こんなの初めて、と今にも泣き崩れそうなまりと、こめかみを抑える香峯子。

 香峯子はとりあえず問題の動画をインターネット上から完全抹殺をお願いしておこうとだけ胸に決めた。

「動画はどうにでもなりますが、東南アジアが来るのはどうにもなりませんわね」

 半ば投げやりに香峯子が答えると、まりは遂に泣きながら執務机に乗り上げ、香峯子を激しく揺さぶる。

「お願いします見捨てないでくださいぃぃぃぃ! 負けたくないんですぅぅぅぅぅ!」

 その時、バンっ、と生徒会室のドアが開かれる。

「ふっふっふっふ……話は聞かせてもらった。それなら、このあたし。望杉五美もちすぎいつみの出番だぜ!」

 五美が決めポーズをとりながらまりに流し目を向ける。

「そゆときはあたしに頼ってくださいよ」

 パチコン、と星を飛ばす五美をまるで、空から降りてきた神を見るような目でまりが見る。

「ちょうどよかったですわ五美。件の動画の完全抹殺をお願いしますわ」

「りょーかいです」

 五美に頼むと、香峯子はまりのほうを向く。

 まりが期待のまなざしを香峯子に向けるが、「茶番は終わりですわ」と香峯子はズイっと一枚のプリントを突き出す。

 プリントを受け取ったまりはプリントの内容を確認する。

 やがて顔を輝かせたまりが香峯子の両手をガッチリホールド、激しくシェイクする。

「ありがとうございます! これで返り討ちに出来ます!」

「その代わり、掃除はお願いしますわね?」

「もっちろん! キンキラピッカピカにやりますよ!」

 水の上を走れるのではないかと思わせる脚の回転で、ホクホク顔のまりは生徒会室を後にする。

 静寂が訪れた生徒会室でまりを見送った五美が口を開く。

「あたしら出る幕ないんですか?」

 完全抹殺終わりました、と添えて五美が香峯子に目を向ける。

「問題ナッシングですわ。まりさんは百年に一人の、ドリアンファイターの天才と呼ばれている方ですわ。世界的に有名なはずですけれど……まあ、わたくし達が出る幕は無いですわ」

 少し考えた香峯子だったが、既に手は打ってあるため、なんとでもなるだろうの精神で構える。

 じゃあなんであんな茶番をしていたのかと、五美は疑問に思ったが、自分達の出る幕がないのだったらまあいいかと思うことにした。

「動画を完全抹殺する前に解析したんですけど、まあそういうことでしたね」

「それなら心配ありませんわね」

 それでは、と席を立つ香峯子。

「愛斗さんに会いに行ってきますわー!」

 ブロンドに煌めく縦ロールを躍らせながら生徒会室を後にするのだった。

「あ、待ってくださいよー」

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