#51 虚無
戦いが終わったとともに脱力感、虚無感が襲ってくる。
戦いの後はしんみりするのが通常だが、それでもない虚無感が襲ってきたのだ。
あれは紛れもなくデススペルだと言うことが出来る。
あの時に回収された頭が、まさかこんなところで生かされるとは思いもよらなかった。
クソでばかで頭がおかしくなりそうだ。
「くそっ!こんなことならあの時に女神を逃すんじゃなかった!こんな思いなんて戦いの中でしたくなかったのに!」
どうして?と、頭の中で解けない問いが続く。
自分でもどうしようもない感覚が自分を襲い始めてくるのを感じて、自分ではどうにもならなかったのかとまたどうして?と問いかける。
これはあれだ……解けない難問を目の前にした学者が躍起になって解答を追い求めるなんて高尚なものじゃないことは確かだ。
クソでばかで愚かしい自分には求め続けることすらもできない。
今はそんな気持ちだ。虚無の気持ち。
自分の思いに名前をつけるとしたら暖簾を腕押しするような虚無という感覚だ。
「あらぁ〜!こんなところで邪神様はっけん〜」
悪いが、今はそんな気分じゃないから帰ってくれよ。
私は今はそんな気分じゃない。
しかし「はいそうですか」となるような相手では決してない。
お前の……名前なんて聞かなくてもいいんだ、私は。
「お前は……ここで死ぬ。だから最後ぐらいは笑って死んでくれよ」
「はぁ〜?何を言っているのかさっぱりわからないんだけど〜?私の名前は……」
名前を言い切る前に腕を叩き切る。
魔力をちょこっと応用した技で、光波振動系の光属性の魔力。
それを当てるとあら不思議……でもないが腕を切り落とすぐらいの力になる。
魔力は戦争をする、戦闘をするための力。
そして私はその器に力を流して押し出しているに過ぎない。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁあああああああああがぁあぁぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
腕を切り落とされたらそんぐらいの反応はするかな。
でも私はこんなところでお前みたいなやつを相手取っている暇はないから。
今はお前のことを好きでいてやれないし、元々狂人なんかはごめんだ。
「これがものを殺すというものだ。いい勉強になったな、狂人」
「くそがぁぁぁあぁぁあぁぁあぁぁああああああああああああああ!!!!」
相手のある方の腕を掴むと、そのまま柔術の範囲で相手を投げ飛ばす。
すると地面には軽いクレーターができて血反吐を出す女狂人。
悪いが本当に手加減できるような精神状況じゃないんだ。
私は今ものすごく気が立っている。
私の全神経が逆立っている。
お前は私の身勝手な八つ当たりに付き合ってくれて、ありがとう。
そして同時にさようならだ。
「ま」
「許さなくてもいい。私は自分の信じるべき道をまだ見つけていないかもしれない。先に地獄に行って待っていてくれ。それがどれだけ時間がかかろうとも、必ずそっちへ行く。私はそういうモノだ。だから今はごめん、ごめんよ」
圧縮した魔力を込めて狂人を消し飛ばす。
戦いの後は幸福感に満ち満ちていた私は、初めて虚無感を得て、こんなことになってしまっている。
邪神であるが情けない。
そんな私を許してくれとは言わない。
しかし、私を許すも許さないも貴女しだいだ。
これは邪神の初めての虚無感であり、空虚な年月を過ごしたばかりのものではない。
意味のないものは存在はしないが、意味のあるものも同時に存在するかなどはわからない。
それがわかるのはいつになるのか、邪神として生きる年月が答えてくれるといいんだが、そうにもいかないというのが
「う…………ぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁあぁああああああああああ!!!」
果たして私の瞳を濡らしているのは今降っている雨なのか、それとも涙なのかは分からない。
これがもし本当に涙だとするのならば、私はとんでもない化け物で気が違っているのかもしれない。
私はあんな思いをしてまで戦いとは到底思わない。
しかしそれを環境が許したりしない。
誰も許しを乞いたりなどしない。
誰もが皆糾弾するに違いない。
そう思うと少しだけ心が晴れてくる気もするが、それは気のせいだろう。
私は私足り得るから私なのだと、そう断じてなるものかと心のどうして?という問いかけに応じながら生きていく、生き抜くしかないのだ。
それもこれも女神が裏で手を引き糸を垂らして手足のように操っているのが元凶だ。
私を本当の私にしてくれるのは、もしかしたら戦いの中だけなのかもしれないと思うと、心が沈んだ。
虚無感は未だ心の中で蟠りをつくりそして、自分の存在を否定するものだ。
それが悪いことだというのをわかっていながら辞めないというのは人間としての名残りなのだろうか?
勝手な
嗚呼、過ぎていく。
嗚呼、去っていく。
嗚呼、蝕んでいく。
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