#50 熾烈


「早くあいし合おうよ!アンタと私なら殺ってのけれるさ!」


「グラ……少しはしゃぎすぎ」


「良いのさビティ!私たちは殺し合うために生まれてきた存在だよ?だったら存分にその力を振るわないとさぁ!勿体無いでしょ?」


 兎角こいつらは狂っているということが証明された。

 最悪のパレードの幕開けということだ。

 何とも絶望的で希望など何処にもないと言ったところだろう。

 いま言葉での説得はクソの役にも立たない。

 意味のないことをしても時間の無駄だということだろう。身に染みてわかることだ。

 さて、こいつらを二人取って相手するのは少し酷か?

 多対一をしたことは少しだけあるが、あれはマリオネットだったから可能だったことであって、この双子がその枠に当てはまるとは思えない。

 勝手な憶測だが、これは間違いないと言って良いだろう。

 どれも最悪な方向にしかいないのが最高に苦しい。

 おのれ女神と言ったところだろう。


「行くよビティ!《重力磁場強制ゼログラビティ》!」


「最初から……飛ばし過ぎ」


 急に重力に支配されて、その場から動けなくなる……!

 こいつらは重力を自在に操り自分のものとすることができる様だ。

 ビティの方がでかいハンマーを取り出して殴られそうになる。

 しかし体を弾性のものにして跳ね返すと、ハンマーはその地面をゼリーを崩す様にバラバラにごちゃ混ぜになる。

 あれを食らったらひとたまりもないだろう。

 すごい破壊力と攻撃力を備えているのか……!

 まさに重力の支配者であると言うことが出来る。

 すぐに体制を立て直さなければならない。

 判断力が重力のせいで鈍くなる。抜け出そうと思っても抜け出せない。

 パチンコを打っているおっさんの様に沼にハマって動けない状態だ。

 どうしょうもない状況下の中どう動けば良いのか分からなくなってしまう……!

 これは苦しい戦いになりそうだ。

 自力で重力が発生しているところから飛び出て魔力弾を撃つ。

 これは牽制程度にしかならないが、目眩しにはなるだろう。

 発光弾に似た様な形で魔力弾を打ち出すと、ちょうど良い角度に入った。

 アッパーカットをグラの方に入れてから、速攻でビティの方へパンチを送り出す。

 装甲があるのか、グラを殴った反動で自分の拳が血塗れになっている。

 重力で自分の体をコーティングしていてそれを正面から喰らってしまっているのでこんなに拳がダメになるのが早いのか。

 パンチがダメなら蹴りを!

 速攻で倒さないとこっちもキツくなるんでな!

 悪く思うなよ、双子よ。

 …………!?


「今のは良い攻撃だったねぇ!私思わず血反吐を吐いてしまいそうになったよ!」


 攻撃を重力を軽くすることによって避けている。

 ビティがグラの支援をすれば、グラがビティの支援をするというのは自明の理だが、自分をデコイにするのは恐れ入る……!

 抜群の戦闘センスがなければそんなことをやって退けれはしないだろう。

 彼女達の先頭にはお互いがお互いをカバーする様に、良いチームワークができていると言える。

 これほどのカバームーブをするのにはお互いがお互いのことを知り尽くしていて、理解がなければできないものだ。

 こんな作業量をこなすことができるのには脱帽の言葉で表せる。すごいコンビと対決をしているものだ。

 戦いは熾烈になり、時間を優に加速させることになる。

 こちらの攻撃をうまくカバーするので、なかなか攻めあぐねている。

 こんな泥沼の戦いは久しぶりだ。

 最初から戦いに事欠かない世界ではあったが、こんなにも戦いにおいて有利を取られることはあまりなかったはずだ。

 敵の本気度が窺えるというもの。こっちを邪魔な存在だと断定して、しっかりと対処をしているあたり流石女神と言えよう。

 こちらのことを熟知している。

 認めざるを得ない。こいつらはとても強いのだと認めざるを得ない。

 敗色濃厚というわけでもないが、それでも常勝無敗とは言えないものになりつつあった。

 最初から負けの味を知っていればこんなに粘ることもなかっただろうに、勝って勝って切り詰めていたからこその邪神になっただろうに、これは攻略するのが難しいな。

 …………そうだ、を作ればどうだろうか?

 ことわりを捻じ曲げて仕舞えばどうだ?


「厄介な敵だなぁ!本当にもう落ちてよ!アンタとの戦いは面白かったからさぁ!《重力磁場強制》!!」


「グラ……危険!すぐにそいつから離れて!」


 そう、今の私は重力を受けても大丈夫な体に作り変えた。

 創生とも呼べるべき所業にビティ側が気づいたとてももう遅い!

 グラの体を重力を受けても大丈夫な体のまま殴り抜ければそのまま相手へのダメージは行く。

 戦闘では一つのミスや判断不足が命取りとなる。

 正面からの私の腕力を喰らえばタダでは済むまい。

 砂に激突して血を撒き散らすグラを尻目に、次はビティへそのまま攻撃を叩き込む。

 チームの動揺は全体をも動揺させ、判断力を鈍らす。

 蜘蛛の頭が潰れたとて、足は動くがしかし、誰かが頭にならないと挿げ替えることなどできはしない。

 とどめを刺そう。これでこの戦いは終わり…………!?


「ふふふ、とどめなどさせませんよ」


 デス……スペルなのか……?


「随分と派手にやらかしましたねぇ、ビティにグラ。これは始末書ものですよ。勝手に行動した罰は受けてもらいますが、善戦したということは口添えさせてもらいます」


「リー……ダー、申し訳ない」


「アンタが出てこなくても……ワタシは構わなかったんだけど?」


「それは我らが主人が許しません。ここは一度撤退させていただくとしましょう。また、戦える日を心待ちにしていますよ、邪神真理」


 それだけいうと、華麗に去っていくデススペル。

 あいつは生首のまま女神に回収されていたはず。

 復活にはまだ早すぎるだろ。

 私の心に僅かなしこりを残したままこの戦闘は終わりを告げる。

 こちらの意図していなかった終わり方というおまけ付きで。

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