#49 消極

 何故かこの戦いが終わった後、とても消極的な思考に陥ってしまう。

 何故私はあの男を倒さなければならなかったのだろうか。

 倒す必要性は本当にあったのかどうかを。

 何故だか勝利の味が不味く感じる。

 私の心に刻みつけられる。必要性の話で言うと、戦うことが本当に歩んでいく道なのだろうかと思い知らされる。

 意味もないものだと思い知らされる様なそんな感じ……なんだろうな、なんなんだろうな。

 本当にあるべき姿はもっと別にあるんじゃないかと、もっと他に道はあったんじゃないかと欲張ってしまう。

 私は欲張りで、利己的なのかと思わされる……そんな戦いだった。


「後味が悪いってのはこのことを言うのか」


 デススモークは強くて、他人を心から守る様な奴だった。

 デスラビットが死んだのだって納得のいくものではなかったのだろう。

 空間属性を操る女狂人にだって、すごく配慮されたものがあったのだし。

 なんでこんなことになってしまったのかと言うと、全部女神が悪い様な気がしてくる。

 いや、アイツのせいだろう。

 全ての戦いの裏にはあの女の存在が見え隠れしているのだ。

 最悪のプレゼント、最悪の選択を強いられた時私はどうあるべきなのか、どう袖を振るべきこを分からないでいるのは傲慢か怠慢かどちらかだろう。

 せめて七つの大罪の中に入っていないと良いが、私は何と言っても邪神だ。

 そんなことも言っていられないだろうな、本来ならば。

 思考を取りやめたくても取りやめられない。ロジックの沼にハマってしまうのは元人間だからだろうか?

 それとも元来の性格故なのかは定かではない。

 しかし、そんなおセンチな気分になると言うのもまた考える生物としては正しいのかもしれないと結論づけると、私は焚き木に砂を掛けて消してからこの場を離れる。

 もう少し、もう少しでも良いから考える時間をくれたら……期待してはいないが、思うぐらいは自由だろう。

 誰にだって考える権利みたいなのはあるもんだと私は考える。

 そう思いたい。

 そんな思考が私の行動を鈍くさせているのは棚に上げて、ここの樹海を抜け出していく。

 嗚呼、世界はこんなにも美しいのに、この世界はあの女によって掌握されていると言うのがなんとも物悲しい。

 クソッタレの女神だが、こんな世界を作った意味とは一体なんなのだろう。自己満足でないならば一体何になると言うのだろう。

 一面の海に砂浜の綺麗な事綺麗な事。

 これは最高の景色って奴だろうか?


「これが、この世界の海か。やっぱり地球と比べると面積ってどうなるんだろうか」


 意味もなく思考をすることをやめない私は、成程まだまだ人間であると言うことが証明される。

 思考を止めることは、その生物にとっての死そのものであると言うことが出来る。

 この海に魅せられて、変な気分になっているのかもしれないが、何だか不思議な様なことに感じるのは気のせいだろうか。

 そう思いたい。


「ここでまた敵が来て、景観が損なわれて言って……一体何のために戦うのかすらも分からなくなったら、それこそ私にとっての死だな」


 誰が聞いているかも分からない様な、そんな創生について想いを馳せる私は、どちらかと言うと詩人寄り……?であるのだろう。

 少しだけ、ほんの少しだけ……また欲張りな私になってしまっているワケだ。

 …………空間が捩れ曲がって、こちらにくる気配が二つもある。ここも戦闘によってぐちゃぐちゃになってしまうのかと考えると、少年マンガの主人公にでもなった気分だ。

 私は少年マンガの主人公などではないから、多分周りの環境になんか配慮できないけど。てっか、少年マンガの主人公でも景観壊しまくってる奴山ほどいるくない?

 なんかそう思ったら少年マンガの主人公も案外、景観のことなんか気にしていないやつの方が多いのでは?


「やぁやぁ、初めましてで良いよね?邪神さん」


「初めましてだよ……グラ」


「いやぁ!どっかで会った様な、そうでもない様なぁ?」


「紛れもなく初めましてで良いから……グラ」


「そうそう!初めましてだよねぇ!ビティ、何回も同じこと言わないの!私だってそれぐらいは分かってるっての!」


「じゃあ何度も同じこと言わないでよ……」


 双子……で良いのだろうか。

 この強さと、戦闘に対する自信とでも言うべきものがあるのだろうか、こちらを見つめる四つの目ん玉は、品定めでもしているシェフの様な気もする。

 敵……ってことで良いのかな?

 やっぱり消極的な思いではいられない。

 戦いっていうのはもうすでに行われていて、私たちとの間には深い深い溝があるのだから。

 あの時デスラビットを倒した時からずっとそうだ。


「はぁい、邪神さん!ワタシはデスグラ!こっちはデスビティね!」


「どうも……こんばんは」


「そんなこんなで悪いんだけど、貴方には死んでもらうことになってるからさぁ!あの二人の情けないこと情けないこと!戦いっていうのはさぁ、弔い合戦なんかじゃないんだよ!自分たちの意思で殺そうとするやつだっているワケでしょ?」


「詰めが……甘いよね」


「ワタシ達はNo.sじゃなくて、普通に狂人の訓練施設から生まれた哀れな精鋭……そう、君の壊した施設から産まれ出る凶暴な邪神の欠片を埋め込まれたのよ!末端だったけどあの嫌な女が手助けしてくれてさぁ!ほんとラッキーだったわよ!むしろ壊してくれてありがとうって感じ!」


 無邪気な殺人鬼とはこのことを言うのだろう。この双子は全部知っていてこの戦いに参加しているのだ。

 ふざけた話、子どもを徴兵して平気に仕立て上げたあのDr.デスレイが生みの親。

 最初から最後まで私の心を鈍らせる最悪の権化とはアイツのことだ。

 蒔いた種がやっと芽が咲き出てきたのがここと言うワケだろう。

 女神のことを神聖視しているわけでもないが、こいつらは敵ってことで間違い無いだろう。

 最悪っていうのはどれもこれも嫌なタイミングで起きるわけだ。

 だから最高に悪い……本当に嫌な夢を見ている様だよ。

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