#48 燻煙

 やつの強みはなんと言っても煙の操作性にある様に思える。

 名前にもある通り、スモークを使いこなすスペシャリストであると言うことは自明の理と言えよう。

 その上火炎耐性があり火にも造詣が深いと考えて然るべきだろう。


「そんなに逃げ回ってちゃ当てれるもんも当てられないゼ!飛び回ってネェで、こっちに降りてきナァ!」


 そう言って降りる奴なんざ一人もいやしないだろう。

 なんと言ったって奴は魔法も使える狂人足るに至るものなのだから、流石の邪神と言えど近距離で炎属性の魔法を喰らったら火傷はして当然だとも。

 蹴り技の炎から繰り出される攻撃は、強い火力を纏ってこちらを捉えている。なんて力強い攻撃なんだ……!避けきれることもないにはないが、素早い攻撃に面喰らってしまった。

 だから逃げ続けているわけではないが、不燃性の体を作り出すには少し思考時間が足りない。パターンを見極められて仕舞えばなんてことないただのマジックでしかないのだから、ジリ貧になることは必至。

 であるならば、可及的かきゅう速やかに対処をするのが良いと言える。

 対処と一口に言っても完璧である必要などどこにもない。

 完璧にこなせれば簡単なのだが、そう邪神と言えど完璧ではないのだから。

 不完全なモノにこそ、生物としての枠を当てはめられると言うものだ。

 そんなロジックはさて置いて、どうしたもんかなコイツの攻略法。

 まずは水属性の魔法を使って消火を行ってみるか!


「(彗星と見間違みまごう水流の圧力に、屈して傅くが良い!《彗星流星墜リーサル・スターフォールン》!」


 水力によって発せられたエネルギーは電力すらも賄うことができるほどの力を持つ。

 雨風に石が何年も穿たれたら穴の開く様に、水圧を操ると言うことは水圧でのブレードが作れるというもの。

 水刃に近い発想というのがこの技のコンセプトだ。火を消し去る処か、その体すらも引き裂かんとするこの彗星にお前は耐えられるか!

 見せてみろ、狂人のNo.s足る力を!

 その身で味わうが良いぞ。

 この水をまともに食らって無事な奴がいるのなら見てみたいね!


「グアガァガァがァァァァアアあああァ!!」


 予想的中で、やつの体には傷が出来た。それどころか引き裂いてみせた。水の力を侮る者は誰もいないだろう。

 水刃は水力の有無によって鋭利な刃にもなまくらな刃にもなり得るのだということを念頭に置きながらそのまま果てるがいい!

 …………!?煙、煙か!

 私が切ったと思ったのは煙の体で、この体は囮?!私が逃げ回っている最中に仕掛けた罠だったというわけか!!

 彼奴アイツは何処に…………!


「こっちだぜオイ!《煙火炎脚フーモ・デ・カルツィオ》!」


「ぐぁぁぁぁぁあああ!」


 真面マトモに攻撃を喰らって辺りにクレーターができる。

 やつの脚力は火炎によって噴出されたパワーでもって、こちらをけたりされる。

 中々にきつい一発だった。咄嗟に体を弾性のものにしていなければお陀仏になっていたのは私の方だった……!

 こいつは足に自信があったのか、最初から手は使わずにこちらを攻撃してきていた。

 これはこの攻撃をするための布石に他ならなかったのだ。

 やつの攻撃はこちらを意図も容易く蹴り飛ばすほどの馬鹿力……狂人の身体的能力を少し舐めていた様だ。


「へっへへへ!俺の蹴りを喰らってここまで闘争心を纏っているのはお前さんぐらいなモンだゼェ!誇っても良いぐらいにナァ!邪神ってのは自分の能力にかまけてる様な奴らばかりだと思ってたガ……お前さんの様な奴も居るってことだナァ!早めに対処しないと、お前さんは俺の燻煙で燻製されちまうゼェ!」


 喋りながらもこちらから視線を逸らすことのない様に気をつけていやがる。

 なんて闘い慣れしてる奴なんだ。

 戦闘能力だけ高いだけでは、頭脳戦などのロジカル的戦闘をこなすことなどできないが、こいつはどうやら頭がキレるらしい。

 如何にもこうにも隙という隙が見当たらない敵って言うのは厄介なもんだ。

 こんな一方的にならない戦いは久しぶりだ。奴は自分の思考をも操れる。

 煙を操る貴公子だとでも言いたいのか……!


「成程な……確かにお前の操る煙と炎のコンビネーションは確かなものだ。私ですら不意の一撃を喰らわされて参ったよ。でもな、私は邪神だぜ?たかだか攻撃を一撃喰らっただけで死ぬ様な柔な体はしていないんだ。例え千回と攻撃を喰らおうとも其処にる、在り続ける存在が邪神というものだ。みせてやろう…………これが本物ホンモノの蹴りというものだ」


 弾性のあるものに体を変質させてから、硬性のものにしつつ更に、吸収性のあるものにしてから蹴り付ける。

 吸収性のものにするとどうなるかというと、吸い込まれる様な感覚に陥る。

 硬性の硬いものになってから吸収性のものにされると硬いものがそのまま食い込んでそいつを離さないものとなる。

 私はこの技を《弾性硬性化付与吸収波状攻撃:蹴》…………だとちょっと長いけど、つまりはそういう事になる。

 奴はこの攻撃をまともに食らって土手っ腹に大ダメージを受けた。

 岸壁に当たっても体の部分を残しているとは相当に頑丈と見受けられる。

 だが、ヤツの言葉を借りるならこれでフィーネだ。


「ハハ……ハ。最後に一泡吹かされ……たってワケかァ……!お前との戦い……悪いもんじゃなかった…………ゼ」


 煙を操る貴公子との戦いは終幕を迎えた。

 No.sを差し向けるのは女神のエゴだとも思っていたが、自分から志願しているものもいるとなると、人質を取られただけでは話が見えてこない。

 この後に起こる戦いは謂わば泥沼化している愛に近いものだと推測がされる。

 どんだけ出てくるのか私には分からないまま、それでも前だけ向いて倒していかなければならないというのは、暗闇の荒野を歩いているのに等しい行為であると言える。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る