#46 突飛
高速で駆け抜けていく。
これからはどんな状況下においても敵が襲ってくると考えたら、その場にとどまるという選択肢は潰れるだろう。
なので光の速度で道を駆け抜けているということだ。
まぁ、そんなこんなあって女神の思惑に乗るのは
「しかし、ここは何処だ?」
鬱蒼と生い茂る木々の中に私は居た。
それもジャングルかいっ!と突っ込みを入れたくなるぐらいには嫌な気分になる。
ここは森林のど真ん中であるということが跳躍してわかった。
一面見渡す限りの木に林に森……ここ何処かわがんね。
…………
割とあの戦地から離れたつもりだけど。
あの時に持って帰ったデススペルの生首が気になる。
なぜあのタイミングで現れたのかは想像に易いだろう。
新しく魔改造したデススペルが襲ってくるとかそんなことだろうとか思いながら、それでもあいつともう一回戦うのはちょっとだけ億劫だ。そんなおセンチな気分になりながらも、木に火をつけて野営をする。
走りっぱなしで辺りもすっかり暗く、木には影が落とされている状況だ。
こういう木々に囲まれた時は変に移動して方向がわからなくなるよりもよっぽど良いと判断したんだが、この判断は間違いではないと信じたいな。
これはこれで相手の思う壺になっている様な気もするが…………。
「出会いは突然に、デス!」
素早く相手の踵落としを避けると、地面にはクレーターが出来上がっていた。
あれを受け止めることも考えたが、隕石落下の様に火を纏っている攻撃だったため、躱したほうが正解だと気付かされる。
やはり来たか、刺客が。送り込まれると聞いてはいたが、こんなにも突然だと気が滅入るな。
「どうしたの、デス?最初の挨拶は踵落としと相場が決まっているの、デス!」
間違った英語の使い方をしている日本人の様な気がしてならないんだが、これ訂正したほうがいいか?
いやそもそも、挨拶は踵落としなんて誰に習ったんだよ……!
「挨拶っていうのはな"おはよう"とか"こんにちは"とか"こんばんわ"とかのことを言うんだぞ。その踵落としは誰に習ったんだ?」
「ああそれは女神様、デス!」
鋭い一撃を放ちながら会話を試みる私の図なんだが、結構こいつの攻撃鋭いな。
中々に強いが、私の遊び相手が務まるとも思えない。
それぐらいには私も強くなったつもりだが、それは間違いだと最初から気付かされることになる。
こいつの一撃一撃には殺意がしっかりと込められていて、一発一発が辺りの木を爆発四散させていくことに驚愕の一言だろう。
しかも挨拶は女神式ときたら最悪の一言も添えてあいつに郵送したいぐらいだな。
「自己紹介、デス!No.s fifteenデスラビットとは私のこと、デス!」
No.s、それが新しい敵の名前。番号的には下の方だが、能力的にはどんなものかな。
気になるところだが、思考をしている暇などないな。
猛ラッシュがこちらを襲ってきて、気を抜いたらブン殴られそうだ。
体を粘性のあるものにしてから身を捻って躱し、弾力性のあるものにしてから鞭を振る様に叩きつける。
ただの鞭ではなく、当てる瞬間に硬性のものにしてから……だ!
この攻撃を喰らってまともにしてられたら少しショックだが、どうだ?
出血多量だが、目は死んでおらず此方をしっかりと見据えているな。
闘争本能はありつつもこちらを警戒している様だ。
中々に強いな……この分だと相手を消耗させる戦闘は好ましいものではなさそうだ。
奴は中々のやり手であり、強いと認めざるを得ない様だ。
「いい一撃だった、デス!しかし私を殺し切るにはまだ足りなかった様、デス!戦いこそが生きていると実感させるの、デス…………これこそが本当の殺し合いなの、デス!」
自己治癒術式を展開しながらもこちらを攻撃してくる。速度も早く中々に隙のない動きをしている……!
No.sの恐ろしさとはまさに闘争の中にあるのだと実感させられる。
こいつは強敵な予感しかしないな。
最高の技を持って消滅させなければあいつは止まることを知らないだろう。
何故戦うのかって……あの女神を表舞台に引き摺り出してやらないとダメだろう。
あの邪神、あの神が望んだ結果にはなってないのかもしれないが、それでも私は奴を倒さなければならない。
これを持って打ち砕かなければならない。
No.sを送り込むことなどただの無意味であると証明しなければならない。
「私はもう遠慮しないよ。技で持って叩き潰してやるから覚悟しな」
「最初から手加減など求めていないの、デス!貴様を倒せば
そんな事情もあってこいつらは動いているのか。人質戦法とは
クソッタレのクソ女神が!まじであの女は一回死なないと自分の悪行がわからないらしい。
…………いや、バカにつける薬なんてないか。
この哀れな狂人をもう止まらせてあげないといけないな。
あいつの
「最高の技を最高の形で届けてやる。お前はもう休んでいいんだ」
「休めるわけがないの、デス!私は切迫した状況にあります、デス!その家族の存在までも救えないと言うのなら、あのクソと同じなの、デス!」
嗚呼、そんなのわかっている。わかりきっているさ。
だけどな、私にも負けられない理由はある。あのクソ女を真に黙らせるには倒さなきゃいけない障壁はお前だけじゃないんだ。
こんな夜の寒々とした木の中でしか眠らせてやることはできないが、せめて私の手で葬り去ってやるのが礼儀ってもんだろう。
その礼儀を返してくれなんて言わないから、私はお前を倒すよ。
家族のことは自分ではどうにかできないが、あの邪神たちが解決してくれるだろうさ。
見ているんなら、彼女の思いに答えてやってくれよ、邪神様。邪神しか頼るのがいないからな、私は。
因縁を断ち切れます様に。
(因果の鎖すらをも断ち切り、世から解放せしめんことを欲す。夢現の中で永遠に眠っていくといい。《
彼女の体を十時の傷で持って断ち切る。
断ち切られた彼女の顔はどこか腫れ物を無くしたかの様な爽やかな笑みを浮かべていた。
晴々としたものではないが、それでもこの鎖を断ち切ってやらないことには彼女は立ち上がり続けてもっと悲惨な目に遭っていた。
そんな彼女を救ってやるのは魂の鎖すらも断ち切るこの技で持って消滅させなければ過去永劫に未練を残してしまうだろう。
そんな残酷な運命だけは御免だ。
彼女の迷いや悩み事全て断ち切ってしまうことが彼女の心を解放することに他ならないだろう。
これからは魂を吸収するのではなく、魂の解放をさせないといけない予感が、突き付けられている。
ならば私の答えは精神支配を解いて全てを許してやる慈悲の心だろう。
もうお休みよ、デスラビット。お前の使命は終わったんだ。
うまいこと邪神がなんとかしてくれることを祈って眠ってくれ。
これは私の我儘だけど、どうかこの子の魂を静かに眠らせてやってくれ。
「この暗闇の中から救ってやれるとしたら、それは私には魔力しかないから。だから、この木に誓いを立てるよ。全てのNo.sを解放してやらないと、あの女神に汚染されたままになっちまうからな。私は善人ではないけれど、それぐらいのことはさせてくれ」
虚空にそう言うと、魂に繋がれていた鎖は完全に解けてなくなり、空に消えていく。
この淡い光は彼女の想いからくるものなのか、願いからくる懇願のものなのかはわからないが、それでも前に向かって進まなければならないと言うのは確かな事実として、現実に向き合わせる動力の様なものになっただろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます