第八章 創生
#45 伽噺
「御伽の国とは、本来世界では語られることのない物語」
急に頭に流れ込んでくるこのイメージは、あの女の物とは違う……なんだこれ。私は今何を聞かされているんだ?
一人の少女が暗闇の中に降り立ち、私に向かって喋りかけてくる。
「世界はある一人の人物に委ねられました。そう女神です。その女神は周りから忌むべき存在として誕生しました。あの邪神達と肩を並べるほどの存在です。それはそうでしょう。星を一つ丸ごと作れる存在など平気で存在していいものではないのですから」
星を一つ丸ごとだと?そんなの、本当の神にしかできない芸当じゃないか。
私は邪神になったばかりだけど、そんなことは難しいと断言できるぐらいには世界の創生など難しい物である。
「必死に星を一つ作って満足した女神は、ある手段を用いて人間を狂人を作成しました。それは《反魂の儀》です。魂を別のところから用いて改めて復活させるという暴挙に出たのです。その人間は異世界人となる前に記憶を抹消されました。
身勝手な話だ。私にそんな話をして何になるっていうんだ?理を司る神として、これを知る権利があるというのか?
「質問してもいいか?」
「是非、どうぞ」
「お前は何者なんだ?なんでこんなことをしてまで私に話しかける必要があったんだ?」
「それは…………」
彼女は言い淀んだ後に言葉を紡ぎ出していく。
「それは私が初代の理の神であるから……です。彼女を理として倒すことができなかった無念が貴方に話しかけているのです」
初代の理の神……それが残留思念なんかでこんなに明瞭に話しかけれる物なのか?
神という物は生物の枠組みを外れた存在。それがこんな形でコンタクトをとってくるなんて、不思議なこともある物だ。
「私の話を続けてもよろしいでしょうか?」
「ああ、話を遮って悪かった。あんたの名前は?」
「名前は…………ありません。奪われてしまいました。あの女神に。彼女は私の姉です。そんな姉の暴走を止めようと手を尽くして死んでしまいましたが」
女神は
けど、だからってあの女と戦わないなんていう選択肢には辿り着かない。
私は邪神の中の理を司る神。
多分この少女は神の中で理を司った神だ。邪悪な存在がこんなことでコンタクトするはずもないしな。
「それはもう激しい戦闘を繰り広げました。私の願いを聞き届けるわけもなく、無惨にも戦いで散ってしまった私を残留思念として止まらせているのも計画の内ということでしょう。彼女はこの星だけでなく、他の星すらも支配しようとしている貪欲な神です。彼女は創生の神。ものを作るということにかけてはスペシャリストなのですから、これも計算されたことなのでしょう。
「存在意義を問われて、人間は何も答えることなどできなかった。そうしてあの女は思ったわけだ。"導かなければならない存在である"とそう思い込んだのか」
「はい、彼女は人間はか弱き生き物であるとそう断定づけました。そうすることによって彼女なりのアクションをかけてみたのですが、人間は時に愚かな生き物で、自分の欲を優先して同じ人間同士でも争い始めることに気がついてしまったのです。そこからはとても早かった。人間同士の争いを遠ざけるために侵略者を置いて対処し始めたのです。その存在がどれほど邪悪で良くないモノだったかは想像だにできるでしょう。そんな存在がぽんぽん生まれれば押し返されるのは時間の問題。人間の中で彼女を不振に思う者は沢山おりました。私はそんな人間を率いて彼女との戦いを決めました。しかしそんな戦いに人間を巻き込むわけにはいかず、私は一人で戦闘行為を続けました。戦闘行為と言っても、情報網を潰したりして直接戦闘を避けたのですが、敵のカウンターは激しくて私を簡単に超える戦闘力を持った狂人も数多く存在していました。そこで私は考えたのです。なぜこんな戦闘を繰り広げてしまっているのか。私は欲深き人間との差異はなんなりや……と。理を司っている神が、自分の理に外れたことをしてしまったら神力も弱まります……彼女の狙いはそこでした。簡単に倒されてしまい、他の死んでいった人間に顔向けすることなどできず、こうして
確かに人間を神と神の争いごとに巻き込むわけにはいかないし、それは当然のことだと言えるな。
しかし、それで死んでしまっては元も子もないというものだろう。
この初代理の神は憂いに帯びた表情を浮かべて話を続ける。
「彼女を止めるのは最早邪神の中の邪神『ナイルニャルラトラホテップ』と原初の神『トゥルー・オリジン』と貴方、理の邪神『真理』だけになってしまいました。彼女は強力な手駒を使い十中八九貴方に刺客を送り込んでくるでしょう。しかしめげないでください。貴方は魔力から神になった稀有な存在。そんな貴方を捨て置くことなどできないでしょう。もし貴方が本当に危なくなったら一度だけ、最後の力を振り絞って貴方を助けると誓いましょう。長々と話して申し訳なかったですね邪神真理。貴方と彼女の戦いに決着がつく様に祈っております」
そういうと目の前の少女は消え去り、暗い空間から開放された。
「忌々しい妹です。名前を奪い存在を奪ったというのに、なんという執念深い女なんでしょう!せっかくこの金髪ブロンド碧眼ロリをバカにできると思ったのに興醒めしました!貴方を馬鹿にする機会は取っておくことにしましょう。嗚呼、後この
言葉を喋り終わると同時にぶん殴ろうとするが、デススペルの首から頭を抱えてするりと躱される。
「では、新たな子達を調節して送り込んであげます!こちらから送り込んであげれば、貴方も少しは納得……できないでしょうけど、納得せざるを得ませんよねぇ?まぁ、精々私のところに来るまで死なないといいですね(笑)では、さらば〜」
最悪の邂逅と最悪の別れが同時に来た気分で、最悪すぎる。
クソッタレのクソ女神が!そう毒付かずにはいられなかった。
あの女神を倒すのにまだ敵の存在があるとは、あの理の神はそのことに警鐘を鳴らしていたのだろう。
本当に……損な役回りを演じているようだ。
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