#X4 俯瞰

 隠密に長けた存在ではないが、腐っても邪神腐っても神というものだ!

 近づいて見ていても誰も気づくまいて!

 矢張り至高の存在である我々の力よな!

 …………と、調子に乗ってしまっていては見破られるやもしれんし、あまり調子に乗らない様にしようではないか!

 なんか見破られるのも癪だし……。

 諸々込みで見られない様にしている……と理解すれば良いのだ!

 あのデススペルには少し悪いが、見させてもらうぞ!


「物語も佳境に入ってきた……と表現すればいいのかな?もうすぐ始まるよ。因縁の決着とも言えるかな。あそこでこの狂人が話しかけていなければ物語は加速しなかった。そう考えるとあの狂人がマリに話しかけてくれて良かったと言うべきかな?」


「そうとも言えよう!我もあそこまでの力を見抜くにはきっかけが必要であったからな!そう、素晴らしいではないか!なんとも言えないタイミングだったと言えようぞ!」


 まぁ、元々人間界にいた頃から見初めていたのだが、これもあの男のおかげとすることで意味合いを持たせるのも大事だな!

 なんと素晴らしきことか!……と言えばそれで満足なわけではない。意味合いを持たせるというアクションが重要視されるだけのことよ!

 しかして、あの男に勝てるかどうかが今は問題だろう。

 目下目標はあの男の討伐ではなく殲滅であるし、何よりも女神を殺せなければならないからな。世界の害悪とも呼べるあの悪女は人間の心なんて理解する必要も、理解しようとする心も持ち合わせてなどいない。

 まさに最悪の邪神と言えよう…………自分を棚上げしている様な気もするけれどな!




 奴は世界の害悪と呼ばれ始めたのは億年も前か。原初の神と私は同時に誕生したと言ってもいい。少し奴の方が早かったからか、もうその場にはいなかったが。

 それでなんやかんやあって世界が星が幾つも幾つも造られたのだが、その星を管理するものとして存在したのがあの女神。

 自分は手を出さないとうたいながらも、自分の管理する世界に干渉することさえいとわずに、邪智暴虐の限りを尽くした女神の中でも異質の存在よ。

 奴は常にかわいておった。血で血を洗わなければならないさががあった。質の悪い悪戯かとも思えるぐらいにあの女神のしたいことは破壊と混沌。

 世の中はそんなもので満ち溢れているが、それすらをも超える暴虐性。

 まさに破壊の頂点に並ぶ、神の中では物議を醸し出したものだ。

 あの者の対処はどうするのか……と。




 結局出た答えは不干渉を貫くという、老害に近い答えだった。当時まだ数千歳で若かった我はこの結論に納得のいくものではなかった。

 だから人間界で討伐できないか探し始めたのだ。我から干渉し、敬うものには相応の富を。憎悪と激しい嫌悪を覚えるものには相応の報いを。

 我も邪神だ。人間の成すすべきことなどどこにもないと理解はしていたが、納得はしていなかった。

 納得することなど到底できないだろう。理解と納得は双極にある。

 清濁併せ呑むにしても限度が必ずあるだろう。どんな聖人でも許され得ざる物をしてきたと自覚はある。しかし人間の中から探さなければいずれ探知されてその計画もご破産する羽目になる。そうなっては長い長い年月をかけて練った計画がぽしゃってしまうではないか!

 そんな物断じて認めぬ!

 …………おっと、熱が入り過ぎてしまったな。

 先に仕掛けるのはデススペルの方からだな。


「む…………あれは結界。花園に招待し息するものに平等の罰を与える結界だ。あれは彼女の技のはず。あの狂人にも使えるということは、あの狂人は正式に[女神の遣い]ということになるだろうね。狂人のリーダーなんかじゃない。最悪の女神の遣いだ」


「なんとそうであるか。しかしその存在に気づけなかったとなると、元老院の連中も侃侃かんかんになっているだろうな……我々だけの失態ではないが、元老院ら以上の権限を持っている我らでも見抜けぬということはそれだけ隠匿が巧かったのだろう」


「そうみたいだね……しかし困ったことになったな。マリがここで負けて仕舞えば潰えてしまうというのに、こちらから手を出せば逃げ出されてしまう。なんてジレンマなんだろう」


 原初の神は我と一緒に模索していたのだろう。我の預かり知らぬところではあるが、原初も原初で動いていたというわけか。

 流石に我だけの力ではあそこまでの器を用意することは容易ではなかった。あの原初保有者オリジンホルダーは自分で考え抜かなければ見つけ出せないものだ。邪神保有者ロード・オブ・バビロンだってそうだ。

 あの力に耐えることができなければ持つことさえも叶わない。

 こんなところで負けてはいけぬぞ、マリよ。

 あの女神を一発ぶん殴るんだろう?


「…………!!あの結界を破壊したね!流石はマリだよ!」


「安心し切るのは早いぞ!ただ結界を破っただ……け…………む!?結界だけでなく、精神も一緒に攻撃しておったか!精神属性の魔法など、魔力を無駄に消費するだけで意味の無いものと思ってしまうがまさか扱えるとは!多分本人は何も考えずに打っているだろうが、素晴らしいことだぞ、これは!」


 精神属性の魔法は難解で、易々と使える様なものではない。

 自分の属性を知るということは魔法を知るということに他ならないのである。

 自分では分かってはいないが、それを司ることこそが理を継ぐ邪神の中の邪神と言えような!

 これこそが素晴らしい研鑽の末に辿り着いたものだというのは言いようがないぐらいには凄いことだ。それを自覚無しで打つとは、中々に剛毅というものよ!

 本当に成してしまうとは素晴らしいな。

 む!?これで決着……の様だ。もうデススペルに戦う力は残されてはいない。


「出てきたね。敵の親玉、あの忌むべき女神のご登場だ。これは我々も出るべきだろうね」


「いいや、今尻尾を出せば必ずあの女神は存在を抹消させるに違いない。今はまだその時ではないのだ。奴を倒すにはもう引くに引けない状態を作り出すしかないだろう」


「そう……だね。今はまだその時じゃない……か」


 そう、我々はあの女神を倒すために虎視眈々と狙う狩猟だ。

 奴を倒すための絶対の場所をマリは作ってくれるだろう。

 それは確定事項であるし、揺るぎのないものであるだろう。

 今に見ておれよ、女神よ。本来は名すら封じられた禁忌の神よ。

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