#43 絡着

 一件絡着ということで……っていうわけにはいかないか。

 目の前にこんな強大な敵が居るんだ。のさばらせるわけにはいかないよな。


「えぇ、逃す訳がありませんねぇ。このデススペルからは逃れられません。最高のデスゲームの始まりです……!」


 この世界史上最悪且つ凶悪な戦いの火蓋は切って落とされた。

 繰り返される絶望と悲しみのテーゼは、揺蕩う海のようである。

 より返しきては弾け、より返し飲み込まれては奔流される。

 最悪のゲームの始まりだ。

 肉弾戦から入ると、相手の動きは素晴らしく早かった。パンチの体制に入るまで無駄な動作など一つもなく、スムーズに行われる。

 最悪の始まりはまだまだ続く。魔力攻撃のほとんどを弾いては返し、魔力を纏わせることもなくその全てを弾き返された。

 邪神になってから間もないが、最悪に強いと言わざるを得ないだろうな。


「こんなものでわたくしを倒せるなどと思わないことですね。力を示すのも良いのですが、簡単に終わってしまってはこのゲームを楽しめなくなってしまうでしょう?」


「ゲームだと?世界の命運を開け戦いがゲームとは恐れ入る。その脳みそを破壊して砕いてミキサーに入れて粉砕してやるよ」


 売り言葉に買い言葉で、話はどんどん進んでいく。自分の中にある魔力はそんなチャチなものではないが今の魔力で倒せるかと言われたら倒せるかどうか厳しいラインだろう。

 この最悪の狂人を倒すには特大の必殺技を使うしか手はないだろうな。

 そうすると強烈な魔力弾が何発も飛んできて、それを弾き返す。

 イタチごっこだと思ってしまうが、今はコツコツと目の前のことを片付けていくしかないだろう。

 全部魔力任せにして仕舞えば楽だが、そんなことを許してくれる相手ではないしな。

 強烈な魔力弾の中に爆発する魔力弾が混ざっていて、それを弾くまいとする前に弾けて被弾してしまう。

 何発かくらい血を吐くが、それでも敵の猛攻は収まることを知らない。

 どんどんと魔力弾が飛び交っていき、最悪な戦いの幕開けでもあった。

 くそっ!こんなに厳しい戦いになろうとは想像だにしていたが、これでも力の差が少しばかりあるとは、どれだけの高みにいるのだろうと困惑をしてしまう。


「くっ……!《魔硝金剛弾ジェネラルゴールデンボム》!」


 煌びやかな魔力弾が飛び、それはまるで宝石箱から溢れるダイヤモンドのように飛んでいく。

 それをすごい速度で撒いていくが、追尾弾のためその動きに追従して奴を追う。

 ヒットすると、崖の方まで奴がぶっ飛び木々を薙ぎ倒していく。

 それを追うようにして素早く走る。

 もう一発喰らわせようとすると、奴からの魔力弾が飛んできた。


「中々に強い一撃でしたが……わたくしの体力をこれで削れるとは思わないことです。

呪禁之輝スペル:シャイニング》」


 一瞬眩い光が差し込んでこちらを迎え撃たんとする攻撃が放たれた。

 輝きを放つとともにこちらに被弾して、体にダメージを加えて更に強烈な打撃を喰らわせられる。

 すると今度はこちらが木々を薙ぎ倒して岩壁に激突する。

 久方ぶりの衝撃に体から血を吐き出してその場に伏せる。

 この場で打開する策はないかと模索する。

 しかし、それを赦してくれるような甘い敵ではない。

 かっ飛ばされ空に上げられ踵落としを貰おうとしたところで、カウンタークロスキックを顔面に入れて空から落下することを防ぐ。

 立体的な戦い方をしていると言えば聞こえはいいが、防戦一方であることは明確だろう。

 体力の消耗は著しくはないが、戦いの中でどんどんと体力が削られていくのは流石にまずい。

 自分の体を弾力のあるものにして、相手の力をバネに攻撃を加えることにした。

 自分の体を自在に変えることこそ、私の真理を超える邪神に許された力。

 本領発揮と言える。

 相手がそれに気づかず攻撃をすると、私は弾力あるものから粘着性のあるものに変えて引っ付けて、体を何百回も回転させてから弾力性の体にして解き放つ。

 地面にクレーターを何個も作っていく。

 激闘というのはまさにこのことを言うだろう。


「成程、真理を超越するものというのはこう言うことをするのですね。体を粘性のものから弾性のものにするなどと言う発想は凡人ができるほどの芸当ではありません。流石の私をしても、何回も喰らうのは得策とは言い難いですねぇ。ですがそれではやりようによっては幾らでも対策できると言うもの……見せてあげましょう。私の呪禁スペルを…………!」


(暗影する光さすことのない地の果て。開闢の印を刻み奉る《呪禁之園スペル:ガーデン》!)


 詠唱をされたかと思うと、花のそのに連れて行かれた。

 ここは穏やかで良い気分だ。どこかのんびりとしていて良い景色であると言うことができる。

 ……まて、なんかおかしくないか?急にこんなところにきて何を…………っ!?

 頭に強い衝撃が走り全身から血が噴き出る。

 幻痛げんつうだな……それほどまでにやつの呪禁は繊細でいて強力かつ凶暴だ。

 絶望を醸し出すそんな光を見せる。

 この花園に隠されたものは、こんな花が広がっている景観の裏には、猛犬が隠れ潜んでいると言うわけだ。

 一気に血を失ったが、体から血液を発生させる体にして血を補う。

 この園を攻略しない限りは一件が絡着したなどとは言えないだろう。

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