#38 静止

 ゲートを潜ると、見知った世界が眼前に広がる。

 ひどく鼻につく匂いに、この邪悪とも言える形容し難い何かが溢れている。

 これが異界。邪神の棲まう場所。

 ニャルラトラホテップはこちらを興味深そうに観察をしている。

 そんなにも私が気になるか?私はお前のことが気にならないが。

 しかし、力を示した今、何か敵意を持って接するのではなく、敬意すらを持って接することこそが正しいと判断した。

 私の判断は間違ってはいないだろう。

 あのゲートには敵意のあるものは、体から何から何まで全て飲み込んでしまう魔法がかけられていた。

 そうでなかったとしても、碌なことにはなっていないだろう。


「ふふふ。久しいな、邪神に魅入られし者よ。欠片を10個集めたな」


 ああそうだ。私は邪神の欠片を10個も集めてしまった。

 何か特典みたいなのってあるのか?

 ないであるならば、何を手にした?称号にあった邪神保有者ロード・オブ・バビロンだとでもいうのか?

 なんかやばげな説明文が書かれてたけど……。

 あの説明文絶対トゥルー・オリジンが即興で作っただろ。

 会ったら文句言ってやろう、そうしよう。


「お前はこれで真の邪神保有者となった!あの女神の苦痛に歪む姿が思い出されるものよ……!幾星霜も見ていなかったからなぁ!」


「それで、なんであんたは私を呼び出したんだよ。結構疲れてるんだけど」


「ははははは!気にするな、邪神に魅入られし者よ!そんな些末なことはどうでも良いのだ!」


 私はどうでもよくねーよ!

 ていうか、こんなキャラだっけ?ニャルラトラホテップってもうちょっと威厳のオーラを纏う的な何かだったと思うんだけど、なんか違うような気がするな。


「ふふふふ、貴様も気づいたか!この私の神化を!ようやくこれで本当の自分が出せるというものよ!実は封印をされていてな。貴様が邪神の欠片を集めなければ、とうにこのまま朽ち果てるのみだったのである!」


「そんな重要なこと黙っててどうする……まぁ、邪神だからね。身勝手のままに振る舞うことこそが邪神みたいなものだから私は気にしないけど…………で、本題はそこじゃないんでしょ」


 ちょっとゆるーい空気になってしまったが、その空気を引き締めて、ここに呼び止めた真なる理由を聞くことにする。

 それによって私の進退は決まるだろうし、何よりもの忠告になるかも知れない。


「静止せよ。今一度奴を倒すには力が足りぬ。あのデススペルとかいう狂人……とんでもない力を持っているようだ。更にあの研究施設で強化されたのかも知れぬ」


「Dr.とは別のものか……どんぐらい強いんだ?」


「途轍もないと言ったであろう?強大な魔力は魔神をも凌ぐほどのものであると私が保証しようではないか!」


 おいおい、まじかよ。

 素の私と戦ってタイマン張れるぐらいには強いんだ。それぐらいのことは予想してたが、なんでまたそんなに強くなっちまうんだ……敵ってやつはこちらの事情なんかを配慮・考慮などしてくれはしないだろうし、しょうがないんだけどさぁ。

 なんかもうちょこっと……あるよね?ほら、神様転生的…………あいつが女神の時点でダメだったな。

 神様転生的なものに頼るのはやめることにしよう。多分この感じは修行フェーズ!ただ我武者羅に力を振るうのではなく、制御をするということ。

 それを自分の魔力コントロールセンスで併せたら……いける、いけるかも知れない!

 圧倒的魔力で解決できるかも……!いやいや、冷静に考えてもみよう。

 私は結構戦闘は頭脳派だった筈だ……そんな脳筋ラッシュなんて考えられるわけがないのは明らかなわけで……と長らく弁明したが、結構パワープレイしてるな私。

 魔力のゴリ押しで勝てるような相手じゃなくなるわけだから、知恵を身につけないといけないな!


「そういうわけなのだ!一旦童心に帰るではないが、今一度修行タイムと参ろうではないか!」


 すげぇノリノリだなぁ、この邪神。一応邪神である筈なんだけど、如何にもこうにもテンションのアップダウンが見出せないでいるのは私だけだろうか……?

 まぁ、それはそれとして修行をできるチャンスなんて、襲撃のあり得ないところじゃないといけないわけで、学園ものだったらすぐに学園に敵が侵入してきたところだ。

 ここは一つ気を引き締めて修行に取り掛かるとするか。

 待ってろよ、デススペル。お前を倒して必ず……必ず裏にいる奴を掴んでやるからな……!











「あの者たちはあのままでよろしいのでしょうか……マスター」


「………………良い。好きにさせるといい」


「しかしながら申し上げますと、あれ以上の進みは危険かと愚申致します…………!」


「良いと言っている。お前は何回も言わないとわからないしつけのなっていない者だったか?」


「…………いえ、かしこまりました。ご命令に背こうなどと思ったわけではございません」


「わかっている…………さぁ、もうすぐだ!決着をつけようではないか!」


(さてさて、わたくしは忠告申しあげましたが、どうなりますかね。本当に使われているのはどちらなのか、はっきりさせませんとキリがありません……これは組織にとって困ることでしょうね。まぁ、それは追々報告することに致しましょう。さぁ、楽しませていただきますよ。魔人マリ…………!)


 片一方は呑気に、片一方は険悪に。

 どちらの行末も知るものはいない。

 なぜなら、今から紡ぎ出される物語であるからだ。

 決着を決定づける日はそう遠くないうちに訪れる。

 己が道を行く者か、それとも己が道を信じる者か……楽しみで胸がワクワクするね!

 おっとっと、いけないいけない。神は基本肩入れなんかしないんだけど、ね?

 皆んなだけの秘密だよ……?

 ここに起きたことはいずれ知られるだろうけど、マリもまた本気で挑みに行くんだ。

 僕も暗躍することにしよう。

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