第五章 残生

#X1 禁書

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 #11 旅路


 のうのうと暮らしていたら、よく分からない。旅の支度とはこんなにも時間のかかるものでめんどくさいものなのだろうか。私は信じられない気持ちになりながら、旅支度を進めていく。新しい研究施設を探すための遠征もとい、ここから離れるための旅なのだが、中々に気が進まない。

 馬車で行くにしても時間はかかるものだし、ここから相当離れていないと、相対する敵にはすぐに割れてしまうだろう。

 そのために日記はあそこに残しておいたのだ。

 さてさて、あの日記が鬼と出るか蛇と出るかは私にも預かり知らぬところだろう。


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 #12 懊悩


 ほとほと悩んでしまう案件が舞い込む。

 もうほとんどの土地は枯れていて、研究に適している水準の大地がなかなかないということが大問題だ。

 こんな事で悩まされるとは、土地の質がいいところの国は残すべきものだったのだ。そう進言したが、却下され滅ぼされてしまった。

 あの頃は純粋に研究を楽しんでいるのみだった。

 なんで非道いことをするのだろうと、とうまきに見ているだけの存在だった。

 年々その忌避感情が薄れていって狂気に満ちた研究をしてきた……そんなことが書きたかったわけではない。今日はもう寝るとしよう。


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 #13 屈曲


 曲がり出した正義の輪は私の中にはもう存在のしないものだ。そのことは重々承知しているのだが、センチな気分になってしまったのは甚だ問題だと言わざるを得ない。

 屈曲していない人生など存在しないのだ。私の研究は屈曲していないだろうか……?

 そんなことを考えると、いつもセンチな気分になってしまう。

 しかし、新しいおもちゃが手に入りさえすれば……!

 これは人間らしくない、邪神の心の私なのだろうね。

 素晴らしくもあり恐ろしくもある。

 私はどうやら体の半分はもう邪神の血で一杯らしい。

 意識もそう遠くないうちに失うだろう。


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 #14 性質


 たまに気象が荒くなってしまうことがある。何かにカッとしてものに当たってしまうことはよくないことだ。

 しかし、どうにも性質が変わってきてしまったと言わざるを得ない。




 研究の成果のことだけを私は見ていればいいのだ。そうだ、私こそが私なのだ!

 ああ、早く新しいおもちゃが届かないものか……。

 脳味噌をいじくり回して研究がしたい。

 脳の謎を解き明かしてみたい!人体の構造がわかりさえすれば、人を操ることなど容易いこと……ははははは!早く来ないものだろうか……。


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 #15 帝国


 帝国の人間の血は邪神の血とほぼ変わらない。

 邪神の従者しかいない国だからなぁ。そこから何匹かこの研究施設に拉致をして、中身を掻っ捌いてみるのだが、なかなかにつまらない。

 人間の構造に価値を見出しこそすれど、邪神の血が混じっているものなど、ほぼ臓器はボロボロで使い物にならない!

 こんなおもちゃはゴミ箱に捨てて仕舞えばいいのだ!

 ゴミ箱を用意させ、他の研究者にそれを捨てさせる。

 私たちは共に研究をする仲間だ……!さぁ、今すぐその人間を捨てて早く屑籠ごと焼却炉へ入れるのだ!

 そうすれば私の研究と共に過ごせる!成果を得るということになるのだ!


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 #16 亡我


 つい我を亡くして逃げ出した研究員の中身を開いていたようだ。

 脳のデーターベースに保管されていた感情は「醜い」「怖い」「逃げたい」とどれもマイナス面のみの感情……わからない。何故理解しようとしないのかわからない。

 理解に及ばないというのは、理解しようとしていないだけの人間の逃げの言葉であり、真に迫られれば理解など容易いことだろうに、何故逃げ出そうとする……?

 理解が追いつかないでいる私に、理解ができない人間もいるのだろう。

 しかし、何も為さなくても見れば判るのだ!

 それこそが楽しいのではないか!

 新しい未知を知ることができるということが素晴らしく、既知を解ることができれば未知の道に繋がるのだから。


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 #17 砂紋


 土の波に揺れる存在は、未知と言い換えれる。砂紋など、伝統的な家にしか存在しないものであろう。

 雨などが触ればいずれ砂紋は起きなくなってしまう。

 そんな研究者の中に波風を立てて私を攻撃してくるものがいる。

 当然露を払うように解剖実験おもちゃいじりを行ったが、こいつの脳味噌は最高だった。「恐怖よりも怒り」「美しいよりも僻み」「できることならこの研究者を殺したい」といった感情ばかりで、溢れていたのだ!

 そんな感情は今までなかったのだ!私を恐怖の対象とすることでしか処理することができなかったブロックルーチンのようにも思われたが、最高の脳味噌玩具箱を見つけたようだ!

 今日1日それをいじくり回して日が明けてしまった……楽しいという感情が渦巻いて、最高に最高に気分のいい日であったのは確かだ。

 思わず、砂に波を立たせたのが幸運だったことであるかのようだ。


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 #18 現状


 今の現状に不満を抱いているわけではない。しかし、カンフル剤も欲しいと思っているところだ。

 ここのところ研究の成果があまり出ず、さるお方を困らせてしまっているような気がするのだ。

 あの頂点に立つお方に何を差し出せばいいのかわからないが、私の身体を欲するわけではないのだろう。

 多分そんなことを言ったら、自分の身がどうなるかわからない。

 破滅を呼び寄せるきっかけとなってしまっては困るからな。

 余計なことは言わないということがこの長年で培われた危機回避能力と言えるだろう。

 現状のおもちゃを新しく新調するために、また新たなおもちゃを求めて国中の人間をかき集める。


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 #19 希望


 希望などありはしない。あるのは絶望と絶対の死のみの研究施設では、毎夜毎夜脳味噌の中身をいじくり回しては生態についての研究を進めていた。

 この頃になると私一人しかこの研究施設にいなかった。

 なんたることだ。

 この研究が成功したら、色々なものを新たに作れるというのに。

 人間の脳波を使って蓄電を行ったり、脳波を用いたタイム測定もできるだろう。

 考えてみるだけで多くの用途があるこの脳味噌は最高のおもちゃだと言い切ることができる!早く研究の成果が出てくれないものか……嗚呼、待ち遠しい待ち遠しい


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 #20 忠告


 さるお方からの指示で、特別な研究をしている。

 最高のおもちゃである狂人の強化版に出会ってから、加速している研究は自分の研究に大きな結果をもたらしてくれた。

 最高のおもちゃはなんでも指示を、言うことを聞き幅がきく。

 私は一人で孤独な研究を進めているが、先が見えないというのも研究の一つであると言えるだろう。

 もう最早この研究において、これ以上の成果が出ないであろうほどのものに、胸を躍らせると同時に、淋しい気持ちにもなるのは何故なのだろうか。

 自分は誰なのか、誰なんだろうかなどわからない。

 悲しみの先にあるのは絶望が希望か……それは誰にもわからないが、誰に解るものでもない。

 私だけの研究というだけで心のどこかでは夢を持っているとも言えるのだ。

 しないものよりやる方のもののほうが生き甲斐にもなろう。

 私の中のクトゥルーフが暴れ出して、たまに波長が乱れてしまうがそんなことはどうでもいい!

 私は長年研究をしたかったのだ!

 この思いは誰にも譲れない。

 誰にやるものでもない、私だけの研究!

 これだけで幸せではないか。

 この想いこそが大事にされて羽ばたくものではないか。

 あはははははははははははは!

 面白い研究ができて満足がいく。

 忠告は無視して研究を進めた。その研究が実を結べば最高に最高で最高なのだから。


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