#34 叫喚
根城を移し、あの手この手を使って阻んでくるさるお方とやらがとても気になる。
この移動時間の隙間で考えてみたのだが、当てはまる人物が一人だけいる。
あいつこそがさるお方なのではないだろうか、あの元凶こそがさるお方ではないだろうかという考えが脳裏をよぎるが、そんなことを今考えたところで、なんの判断もできやしないと思考を切り替えリフレッシュする。
ただ私はあのマッドなサイエンティストを葬り去るだけだ。
新たに移された研究施設には研究をするための材料や研究資料が膨大にあると言うことが予想され、益々非人道的な研究が進められていたに違いないと、私の心が震える。
急げ、急ぐぞ……刻一刻と時間だけが刻まれていき、焦る気持ちもややあるが焦ってばかりじゃいいことも掴みにくいだろう。
「落ち着け、私。息を吸って心が摩耗しないように……摩耗したら摩耗した分だけ心が擦り減っていく……。ここで立ち止まっちゃいけないよな」
そんなことを虚空に呟くと、心を落ち着かせ目にも止まらぬ速さで研究施設まで飛ばして行く。
渓谷に隠された研究施設を目視して、慎重に研究施設の内部に忍び込む。
幸い人間の気配はあまりないが、それでも注意してその研究施設の中を進む。
そうすると、脳味噌がホルマリン漬けにされている培養機構が存在した。
……本当に、本当に私を苛立たせるのが得意のようだ。
非道いことをして目に余る酷いことをするような奴は、この世のありとあらゆる拷問にかけないと気が済まない……!
「はははは!ようこそ、私の研究所へ!私はDr.デスレイ……君の命をここで終わらせる役目を持つものだぁ…………!今日はいい日だ。何せ、おもちゃの方からこの研究所にやってくるのだから、クリスマスプレゼントが届いたような気持ちになってくる……!本当にありがとう!君には研究の手伝いをしてもらうことにしたよ、助手くん!さぁ、楽しい研究の時間だ!
目を地走らせて喋るこの男はもうこの世のどこにも魂はないのだと感じた。
正気はなく、瘴気渦巻くこの施設で、奴はその瘴気を心に飼っていた。
どんどんと餌を与え続けられる瘴気は正気を失くさせて、さらに狂気の勢いを増していく。
最低な人間の、最低な研究はここまで人を貶めてしまう。
私は、この
そんなことない。この目の前の男を倒さなければ報われない命が数多く存在するんだ!
「会いたかったよ……Dr.デスレイ。お前には仮があったな……よくも…………よくも!産み出してくれたな、作り出してくれたな!あいつらはお前の
私の言葉を合図に戦闘が始まる。
すると、あたりの研究施設が稼働し始めて、私たちの戦いの始まりを示すように光を浴びせる。
すると、顔馴染みが続々と現れて目の前を阻む。…………なん…………だと?
なんで…………なんで、なんで!
デスイーターやデスカイザーがここに?
嘘だ嘘だ嘘だ!
「よくできているだろう?私が作ったおもちゃたちは!この最高のグラフィックにボディ。仕様も一緒で邪神の欠片を元に構成されている!完璧仕様だ!どうだねどうだね!この素晴らしいおもちゃたちを、壊すことができるかなぁ…………?」
「この……死ねクソが!くそったれめ!早く死んでこの世からいなくなれ!くそがぁぁぁあぁあああああ!」
ヤケクソになりながら、この
プチプチと音を立てるわけでもなく、ただ微塵も残さないまま、ぐちゃぐちゃになって潰れていく。
しかし、ずっとずっとその玩具は現れ続けて私の前に立ち塞がる。
あのマッドサイエンティストを守るようにして配置されるその図を眺めて苛立ちを増幅させながら、バッタバッタと薙ぎ払っていく。
武具はもう召喚してある。
しかし、晴れない心の曇りが覆い被さって私のことを締め付ける。
戦ってきた奴らの顔がどうしても思い出されて戦闘に切り替わる気持ちが湧かない。
「これが私の研究の成果!
《
「うるせぇ!打ち砕け!《
《
灼熱の溶岩が土に流され続けて温度を増していくその様子は、まさに火山が噴火して溶岩流が流れ出ている山道のように、火を辺りに燃え移らせて邪魔者どもを跡形もなく消し炭にして消し去っていく。
葬り去る……この研究所ごと消えてなくなって仕舞えばいい。
この研究所ごとなくして仕舞えばいい。
こんな悲しみを産むような研究施設などあってはならないのだから。
なくてはならない存在などではない、これは巨悪を打ち滅ぼす一番星となるのだ。
だから
ファウストインパクトは、私の魔法力の膨大な溶岩流によって起き、辺り一体を焼け野原にした。
しかし、Dr.デスレイは生きている。まだそこに存在している。
何故存在しているのかわからない。
何故生きているのかわからない。
何故息をしているのかわからない。
早く倒す早く倒す早く倒す早く倒す。
あの訳のわからない存在を消しとばしてやる。
さぁ、見せてみろよ。お前の次の手を。ないならないでその手ごと弾き飛ばしてやるからさ。
「…………私の研究の成果がぁ!!何故消しとばした!何故研究を解ろうとしない!他の研究者もそうだった!「狂気的すぎる」「私にはついていけない」「理解不能だ!」などと
魔力の暴走が始まり、今宵も月が雲に隠れる。こんな夜ばっかりだな。最近は特に夜を見ていてそう思った。
私の心の中みたいに今は曇り模様だ。
目の前の暴走博士をどうにかしようとしないと、多分ここら一帯どころか国を四つ五つ消しとばしてしまうだろう。
止めてやる……止めてやるよ。
見せてみろよ、徒花を咲かせてみせろ。
それを丸ごと握りつぶしてやるからさ。
「魔力…………
辺り一体に滅びの歌が流れ響いて、漆黒の大地へと染め上げる。
最悪の邪神が顕現し、この世界に滅びの歌を運び込んだ。
彼の物の名前はクトゥルーフ。旧支配者の顔であり、トゥルーの名を冠する邪神。
姿を見ただけで発狂し、害悪を夢で振り撒く物。
その物のフィールドに立たされて、こんな状況下にある。
Dr.を突き動かしていたのはクトゥルーフの夢の中の戯言。それを信じ切って自分は世界を救う物なのだと謳われた。そんな物は
第二幕の始まりだ。
「私を顕現させるに至るとは、運のいいものもいた物だ。ニャルラトラホテップの重臣とも呼べるべき存在よ。私は対話を欲さぬ。破壊の限りを尽くして邪神の存在を世に知らしめるとしよう……!」
引きちぎれたような声で笑い、喋り方は常にくぐもっているように聞こえるその存在は、いるだけで恐怖と混沌を振り撒く存在そのものだった。
邪神というだけで全てのものに影響を及ぼすなど、人智を超えた存在であることの証明と言える。
彼の物が腕を振り払うと、あたりは崩壊をし始め、ビルのように高い岩も一瞬にして消し飛ぶ。
最悪が襲ってきた。
最悪の花は咲き乱れることをやめない。辺り一体に咲き乱れては散り、咲き乱れては散り、世界にダメージを与えつつある。
女神はただ指示を与えていない。思考をするものとして、目の前に姿を現しているだけ。
だけ……なんか違うんじゃないかそれ。この世界はただのお遊びなのかもしれないが、私にとっては生き抜く世界だ。
この世界をつぶさせてなるものかよ…………!
「振り絞れ
《
辺り一面に魔力の煌びやかな光が差し込み、辺りを照らしていく。
その魔力のレイザービームとも呼べるものがクトゥルーフの腹を突き破りダメージを与える。
相当なダメージであっただろう。
相当に苦痛を強いられるものでもあっただろう。しかし、それはこの巨悪を斃すのに必要な事でもある。
魔力の煌びやかな光は巡り巡って、地上を照らして敵を討ち取った証明と照明になる。
それは激しい咆哮をこちらに向けて放つが、私は怯みもしない。
こちらも勢いをつけて、心からの咆哮をする。
両者とも魂からの叫喚だった。
叫び嘆き悲しみ憂い。全てを飲み込んだその叫びは一つは途切れもう一つは続いて叫ばれた。
私の、私の勝利だ……!
力尽きてその場に倒れ込むと、雨が降ってきた。顔を掠める雨が冷たく、体の体温を低くしていく。
雨音が耳に入ると、落ち着くような心安らぐような気がして、眠気に襲われてしまう。
嗚呼、なんと美しい雨音の合唱なのだろうか。だんだんと意識が遠のいていき、眠りにつくことになった。
大の字になって仰向けになって開いた風穴を抑えながら、眠りにつく。
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