#31 演奏

 不協和音が常に耳元で鳴り響いてこびり着いて離れない感覚に襲われながら、平衡感覚を保って、あの写真を正面で捉える。

 あの写真を前から捉えるとなると、相当の胆力が必要になってはくるが、オリジンを保有したため、どうにかなっているというのが今の状況で、殺されそうになっているのもこの恐怖と絶望が混在する空間の摂理なのであるから仕方がない。

 そう仕方ないと思うが、いやに許すことができない。

 私は私の自分の道を進みたいというのに、その道に進む前の道に簡単に現れてくれちゃって、いい迷惑なんだけど、それ言うと心の中まで覗き見られてるから、まずいんだけど思わずに入られないんだ。


「まぁそう警戒するな……警戒することは悪いことではないが、必要以上にすることは相手を刺激しかけないとも限らないだろう……?」


 老若男女の声が耳にはいてノイズのような音で聴くことができるこの音声は、どのオーケストラにも体験できない絶望のハーモニーといったところ。

 普通の人間がこの這い寄りし混沌の邪神の言葉の一文字目を聞いただけで耳から血を出して、次は目から……最後は心臓が口の中から飛び出てきて死滅するのだから。

 権能の一端に触れたからある程度理解することはできるが、許容するとなると話は別問題だよね。


「ふむふむ。着実に進めておるようだな。邪神の欠片の集めは順調と言ったところだろう。しかし気をつけろよ……次の敵は「本能寺にあり」……それは私の言いたかったセリフだぁ!くぅっ……!言われてしまうとは!」


じゃれあってないで別の話をしよう。次の敵はそんなに強いんだな……?茶化していうようだから、本気を出さないといけないことになるってことだろ?」


「ふふふ、察しがいいのは良いことだぞ。良いことだが、先回りされるということは良くないことなのかもなぁ」


 そういうと、私は邪神の動きを目ですら追いきれずに、瞬間移動で現れたかのように現れた邪神を見て、唖然とする。不協和音が流れてきてノイズが走り、またさらに頭が痛くなる。


「ぐっ……くぅっ!?あぁぁぁぁああああ!」


「お前が今集めた邪神の欠片をおさらいしておくとしよう。邪神:クトァグア。これは先ほど勝ち取った狂人から回収されたものだ。次にデスソルジャーから回収されたのが邪神:ハズダァ……あやつは風の元素を操ることができる。クトァグアは個人的に仲が悪いのだがなぁ。あいつを使うことは何かと許せぬ」


 こいつも個人的な話とかで、心で会話することができるのか。確かに、神格の中で人類に自ら対話しに行こうとする珍しい神格だから、会話や対談をすると言うことは別に普通のことなのかも知れない。

 まさに神格の中では異端とも言える神物ではあると言える。


「そしてデスイーターは邪神:ツゥトァグァ。やつは腹ペコであれば問答無用で信者ですら食ってしまう邪神でな……困った者であるのだが、それでもまだ話は通じる方なのだ、珍しくな。デスカイザーの魔神:タサーイドゥン。やつは邪神と数えられても良いものなのだが、謎に包まれていてな。私でも情報があまり掴めなかったのだ……うーむ、まだこの世の真理に近付いていないとも言える。別惑星の邪神などあまり見向きもしていなかったのだから無理もないだろうが」


 別惑星の邪神?何を言っているのかさっぱりわからない。矢張り邪神というのは度し難く不可解で不可思議な者が多いと言える。

 自分が神格になった今は対等までとはいかなくとも、それらの神格との対談をすることができているのだから、トゥルー・オリジンの神格というのはとても強く食い込んでいるものだと予想することができる。神格の中ではまだまだ末端ではあるのだが、それを強く感じることができるため良しとしよう。

 これで今ある邪神の欠片は全部言い切ったか……?


「そしてこの私、邪神:ニャルラトラホテップ!千の顔を持ち千の名前を持つものだ!貴様に教えた名前もその中の一つであり十であり百であり千でもある……蛇原狂恐じゃはら きょうきょうもその中の一つにあるということを、貴様はもう気づいているだろう?」


 なんとなくはわかっていたが、狂恐先生はこの邪神だったということが、その事実が頭のなかをぐちゃぐちゃに混乱させているというのは自分でもわかっている。

 なんてことだ。俺はあの時からすでに魅入られていたというのか……!


「貴様には素質があった……邪神のかけらを集めるだけの絶望のオーラと同等の希望の光を感じた。だから支援したのだ。私はあまり意味のない支援をすることはしない。誓って言おう!貴様は強くなりそして、あの女神をも超える力を持つということを!そして貴様は超えるのだ、邪神の中の王となれ……そして覇権を握ってくれれば私の願いが叶う。邪神をすべる王となるということは、それだけ強くならなければいけないということなのだ!」


「なんか、最初から訳わかんないが……でも、自分のするべきことはわかった。あの女神は許せない。だから俺はあいつを倒すよ。この世界を作り出したあの元凶を……そしてこの世界をより良くするために王になる。…………それがこの私……マリ・イグジットだ!」


 そういうと、フィアー・ディサポイートことニャルラトホテプは顔無しの顔になって、少し安堵の溜息をつくと、この神界から解き放たれた。

 覆われた土の中で目が覚めた私は、自分の殻を破って出てきて、そこで生を感じた。

 今ここに生きている。現在に至るまで生きているのだ……!

 世界を丸ごと支配するためには、邪神のかけらが必要不可欠だ。そのためには、あのDr.デスレイも倒さなければならない。絶対に許してはいけない。

 神格として、私として許せないから……命を粗末に扱う奴を絶対に許さない。

 デスレイを打ち倒すために私は足を踏み込んで神速で駆けていく。奴の待っている研究所まで目と鼻の先にまで迫っている。デスイーター、お前の無念晴らしてやる。

 そして世界に覆っている闇を祓ってやる!不協和音は今は聞こえない。明日に向っていくためのバラードを今奏で始めたばかりだから、この音をしっかりと演奏し、向っていく。

 さぁ、殺ってやる!

 首を洗って待っているがいい……Dr.!ここから先は私の音だ!

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