#27 静寂

 けたたましく音を立てて骨がこちらに襲いかかってくる。まるで「一緒に踊りましょ?」と尋ねかけているようにも感じて不気味さが増す。デスジョーカーの狙いは神経を削ぎ落とすのと同時に、こちらの体力を削ぎ落とすことを目的としていて、陰湿な殺り口に嫌気がさしそうだ。

 こちらとしては奴を倒さない限り、この骨の踊り子は壊そうとも直り出してこちらに向かって攻撃を仕掛けてくる。最悪の戦い、しかしやらなければいけないということに苛立ちを感じ始めてしまう。

 あいつの狙いはこれもなんだ……精神力・体力共に奪い、嬲り殺してその死体を操ったり、生きたまま操ったりする。


「ほほほひひひ!逃げてばかりでは何にも始まりませんよぉ!避けてんじゃねぇぞこのスカたんが弾け飛ばされたいのかテメェは早く死ね今すぐ死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!……なんて素敵なStepでしょう!見てごらんなさい、この骨のダンサーたちの熱い情熱を迸るパトスを!魅了されるでしょう返事は入りませんともそうでしょう!」


 やはりこいつは狂気的、非常に狂っている存在だと気付かされる。

 何かのネジが抜けたみたいに壊されているのかと思うと、鋭い眼光で睨みつけて絶対に許さないという思いを強くして拳に込める。


「てめぇの思いどりになんかさせてたまるかよ!(惨憺たる権化よ顕現せよ、怨敵に対して神罰と天罰の両方を与えたまえ!)

《召喚:懺悔神サモン:エンジェル・ルンペンテンス》!」


 神々しく見参せしその神は懺悔神エンジェル・ルンペンテンス。

 非情な者に対して、絶対の罰を与えるその神は残虐な行いを一切許さず赦さない。

 破壊を好まず罰を与えるためだけに存在する神は、この道化師ピエロに対して槍を振るう。滅ぼし尽くさんと向かっていく。


「ほほほひゃひゃひゃっ!我を止めることなどできないのですよぉ!ふざけんなお前そんなの反則だ反則まじでぶっ殺し尽くしてやるから覚悟しろよこのドグサレピーマンがよ許せぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ殺すそして殺して殺して殺して殺すからな覚悟しろクソッタレがバカがまじで死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!」


 体に傷をつけては再生を繰り返す者にとって痛みを感じるということは、等しい罰に近いものを感じ取れるだろう。

 デスジョーカーも再生能力を持っていて、こちらと同様の超回復を持っているということは最初にぶん殴って分かった。ならばこそ、その存在を消しとばすためには神の罰、天の罰を与えなければ倒すことはできないと感じた。

 お前の罰はお前自身で受けろ。

 骨のダンサーを傷つけず、あの道化師だけを攻撃して与えるダメージは、奴の一番苦しむ幸福と降伏させる力強さを持ち合わせたこの神の一撃だ。


「ゆっくりと、そして時間をかけて味わうがいい。鋭い痛みと心の根を破壊するその力はお前を滅ぼし尽くさんがために、その神が放つ攻撃によって崩れ去るんだ。怨敵に痛みを、そして神からの天からの罰、両方を浴びてな!」


 道化師の体が崩れ去る。

 ゆっくりとじっくりと憎悪の火は燃やされる。コンポタージュを熱い銅の窯で煮るように、時間をかけながらあいつの体は崩れ去る。

 そうして魂の邪神の欠片が取り出されると、私の目的は達成する。この意味のない道化師との戦いは終わりを告げるんだ。


「我……は負けな……い。負け…………てはいない……負けるわ……けには、いいいいいいかないの…………です………………!ぁぁあああ、アアアアアアアアアアアアアアア!」


 ドロドロと朽ちてゆく体の中から魂を吸引して、この戦闘は終わりを告げる。楽しげな音楽はそこにはもう流れておらず、その場に静寂が訪れる。

 寂しいぐらいのそんな静けさだ。

 自分では到底我慢ならないほどの静寂に当たりは包まれる。

 私は徐に地面を掘り出して、骨のダンサーだったものたちをそこへ埋めていく。

 私の世界は土葬はやっていなかったが、それでもそういう文化があるのを知っていたため、今回は土葬で労いたいと思っていたのだ。火を使うと虫たちが寄ってきて、この人たちの神聖な終わりを良く迎えることができないと思ったからだ。



 土の中に入れると、その上から土をかけて埋めて、墓石に見立てた石を掘りそこへ突き刺す。少しでもあなたたちの心が癒されて天国に向かえますように。あの女神の元へ行かず、他の神の元へ行きますように……。この世界の神はあの女神だ。

 私はそのことをわかっていながらも、それ以外の神の元へ行って新しい生を受けることが大事だと思う。



 こんなわけのわからない金髪ブロンド碧眼ロリにさせられるなんて、思いもよらない事態に、到底なり得ないだろう。

 あの喧しいデスジョーカーを倒し、次に待ち受けるものは一体なんなのだろうか。

 次のイメージ図が頭の中に沸かず少し戸惑うが、直感がまっすぐと告げているため、そちらの方に進んでいく。たまには左の道もいいかもな、なんて思い直したりして左に曲がる。

 これが旅なのだと思い知らされる度に、少し面白さを感じてしまう私は愚かしいものなのだろうか。

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