#17 砂紋

ルビを入力…ルビを入力…》 戦いが繰り広げられる。

 眼前に迫ってくる拳を避けつつ足でカウンターを放つ私だったが、そのカウンター下足技をさらにカウンターされ、足を掴まれ放り投げられ壁にぶつかる。壁がゴンっと大きい音を立てて壊れ弾け飛ぶと、周りに砂が舞い散る。私がそこに倒れ込み少し砂紋が出来た。

 今は関係ないことに思考を割く余裕なんかない。

 一歩でも多く踏み込み、魔力での攻撃を当てることに成功する。獲った!と思ったが、心のモヤモヤは取れずにいた。それもそのはず、首をもう一回転グルンと振り向き、カイザーはこちらに攻撃を仕掛けてくるのだ。

 魔力での攻防、単純な肉弾戦においても圧倒的に不利な状況に叩き込まれている。こんなに強いとは思ってもみなかった。戦闘センスも段違いだと気付かされるしで、絶望感がます。


「力が欲しいか」


 力、今確かに求めているもの。

 力、それは欲せば欲すほど溺れて行くもの。

 私はカイザーではない声に真剣に耳を傾けてしまっていた。この時私は躊躇った。しかし、力がないと今のままでは勝てないというのも察していた。

 私は邪悪な存在に目をつけられていた。

 ……………………………そうだ、これも邪神様のお導きだ。


 風変わりしたさまに、驚かされるデスカイザー。しかし歴戦の猛者に死角はほぼほぼなかった。ワタシが純粋魔力であるのならばね?ワタシは自分の新しい体を存分に使い、デスカイザーを崩していく。こうなればブロック崩しをやる平日のニートのように簡単に!このカイザーを崩すことがあできるのだ!

 急に力がましたワタシにカイザーは気づいて、ニヤリと笑みを浮かべる。


「邪神に魂でも売ったのかぁ?しかし、今お前さんは“心底楽しい”って顔しておるのぅ。力でも欲したのかのぅ?…………図星じゃろうて。しかし、全く面白くもない戦いにハリが出てきたというものじゃ!さあ、とことん死合おうぞ!」


 私との戦いがつまらないだと……?ワタシはワタシで私がワタシだからあれなんで思考がまとまらないなんでこんなことになったんだ誰か助けてあああああああああああああああ。[ウチがいる、だからマリ、自分であることを示して!]


 その瞬間ありえないほどの威力でカイザーは吹っ飛び、顔面から血を撒き散らして砂に紋を作りながら倒れる。

 強力な力を前に、なすすべもなくなる私ではない。ありがとうイーター。アナとのおかげで助けられた。返事はないけれど、心にはイーターがいてくれることに安心感を感じ、もう誘惑に負けることはないと断言できる。

 今自分は、巨悪を打ち滅ぼす邪神の権化だ。力に飲まれてなどいない、邪神の権化だ。


「さぁこい。生きてんだろう?カイザー」


「マリ、マリィぃぃぃぃイィぃぃぃぃいいいイィっぃぃぃぃぃいい良いイィぃ!!!」


 気色にもにた声でこちらに突っ込んでくるカイザーは永遠の敵を見つけたかのように突っ込んでくる。

 カイザーの鋭い攻撃はぶっ飛ばされたとしても健在で、一発一発が重い。鉛でできた鉄球を体で受け止めているのと同じぐらいの衝撃が受け止めるたびに襲ってきて、なにがなんでも殺そうとする意思が強い。自分では勝てないんではないか、という思いが強くなってきてしまうほどに強力だ。

 強さの権化、としてしまうのは簡単だが、そう言わしめるほどのものではある。難攻不落の要塞と言い換えてもいいのかもしれない。


「お前は、最高にいい!!わしは何年こう言った胸が躍る戦いを求めていたんじゃ!!ははははは!!実に良いぞ!!」


 活性化した邪神の欠片が目視で確認できるほどのパワーを生み出し、これでもかというぐらいに私の体に浴びせてきている。こんな戦いはしたくないしごめんだが、今倒さないと、今止めないとまずいだろう。私の直感が働きそうつげる。


「今ここで倒さないと、今ここで止めないと、お前は危険な存在になる!今以上にな!大技を放つ、見てなよ、そこで。自分を倒す存在のものの技を!“明星の華、溢れ出る恐怖と絶望、如何として貴様を呼び起こさん。死の腕、絶の腕、滅の腕、隠の腕、四つ集まりて、邪悪を滅ぼさんと欲す”《絶滅隠者デス・子守唄ララバイ》」


 絶望と混沌が訪れて、その魔人は現れる。何人も見たら恐怖しうる存在。その呼ばれた技は、相手を滅さんがためにだけ存在し、喰らい尽くす。恐怖に怯えたものには平等に死を。屈さんとするものには苦痛の死を。滅ぼし尽くし、魂を食い破り、体は粉々になっていく。カイザーは悟ったように、自分の死期をこことした。諦めるほかないのだ。屈するほかないのだ。邪神の力と併せ持って放たれるその技は、突破も許さない。絶対の死をカイザーに与えた。

 技を使ったショックで、その場に倒れ込む。非常に大きな苦痛が私の体で受け止められ、尋常じゃないほどの闇と恐怖がその身を包む。相手が受けたダメージと同じダメージを喰らう代償のある技。考えついても普通はしない。しかし、これほどの技を打たないと考えた私は賭けに出た。これもくらわないようであれば、私は自害するほかなかったからだ。


 心身に苦痛をきたしなおも吐き気と戦う。恐怖が滲んできた。絶望が舞い降りてきた。そんなものは関係ない。恐怖で体が冷たくなろうとも、私はその場から動きはしなかった。

 最悪の一手と呼ばれるものが存在する。悪手というやつだ。将棋で撃ってはいけない場面に出会して、そこでその駒を動かしてしまう。今の状況とそれは酷似しているように感じる。私はこのままで終われはしない。なぜなら、そうすることが許されていないからだ。誰に?邪神に。


 悪臭が立ち込めて、あの場所に転移する。2回目ともなると、恐怖は感じさえすれど、冷たく凍りつくような威圧感を受けることはそうない。油断してしまうと心ごと持っていかれそうなそこは、私を手招いていた。

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