#16 亡我

 救ってくれない以上、自分で何とかするしかないのが一人旅ってなわけで、私は捜索を進めていく。何か見落としているものがあるはずである。街の中に何か鍵となるものはないか探し始める。

 簡単には見つかってくれないそれは、途方もない無間地獄に似ている気がして億劫になる。私はなにを探し始めればいいのかもわからない、不親切設計なゲームをしている気分だ。亡我の時、無心の時と言い換えてもいいだろうそれは、私に新しいヒントをくれた。

 あのおっちゃんのことを、ふと思い出す。

 あの時に声をかけてくれた優し御仁だが、無事にあそこから抜け出せたのだろうか。結構な数の魔物が出てきて大変な地帯だったのだが、もう帰路についている頃だろうか。

 そんな心配をしていると、街が突如として消滅し、目の前に禍々しい城が出現する。……どうやらキーはあのおっちゃんを思い出すことだったのか。だとするとあいつは……。


「貴様ぁ!!よくこの城にだとりついたな!もう察しているかもしれないが、あの老人が「うるせぇよ」


 魔物、か狂人の失敗作であろう魔物人間かのやつが喋り終わる前に、頭を消しとばす。雑音は消去され、静寂がまた訪れる。入っていいぞと言わんばかりに大きな扉がひどい音を立てて開き、その場の空気を重々しくさせる。

 まさかとは思ったが、あの帝国は全部が幻影だったのではと錯覚させるぐらいにあっさりと消えて、身震いをする。


 一方踏み越えるとそこには門は初めから存在しなかったかのように、一瞬にして姿を消す。とうとうきた。狂人との対峙。そこにはあの時に声をかけてくれたおっちゃんがいた。


「こんな形で再会なんてしたくなかったよ、おっちゃん」


「ホッホッホッ!わシャァお前さんが来るのを待っておったよ」


 そこにはあの時に声をかけたぼろきれを着たじーさんがいるわけでもなく、素晴らしき金糸を用いた、細工の凝った服を身に纏っている。


「わしの名前はデスカイザー。死の皇帝じゃ。喜ぶがいいぞ?わしを目の前にしてこうやってまともに話をできることが貴重であるのだからな!」


 こんなことばかり、騙し騙され、私は今まで何回騙されてきたんだ。この世界で生き抜くたびに人の底意地の悪さ、意地汚さが露呈する。こんな奴がこの世に存在していいわけがあるか?ないんだろうな……。わかった、わかったよ。邪神、今回は素直にこいつを喰らってやる。私として、魔力マリ・イグジットとして喰らい尽くしてやるよ。

 邪神のかけらを手に入れて、俺をこんな世界2点せさせたあのクソ女神に天誅を。天誅は神が与えるものだが、俺が神となるのだ。神と成りて、邪を滅さんと欲す!


《形態変化:邪悪神》


 黒いローブをみにまとい、絶望を振りまく権化と化した。その場にいるものが正気の状態であるのならば、今すぐにこの場から立ち去ることをお勧めする。この場にいるのは2人の狂気、荒れ狂うくらいに人の絶望を食い漁るものと、死を体現せし皇帝なのだから。

 怒り狂った私は、その身から邪気を放ち、威嚇をする。


「ホホホ!いい、いい!実に良いぞ!わしは今まで邪神の候補をなん度も見たことがあるが、ここまであの女神に対する憎悪が深いやつも久しぶりに見た!」


 あの女神のことについて何か知っているのか……?


「しっているじょうほうをぜんぶよこせぇええぇええええええっぇぇぇっぇぇっぇっぇっぇぇぇっぇぇえええええっぇっぇえぇぇえ!!!」


「ホホホホ!まだ感情の抑制は効かんようじゃの!どれ、老骨に鞭打って、ひっさしぶりに本気を出すと使用かのぅ」


 そういうと、筋骨隆々の姿になり、一気に襲いかかってくる。

 なすすべもなく地面に叩きつけられ、血の塊を口から吐き出してしまう。冷静さを書いて忘れてしまうところだったが、こいつは狂人。しかも何年も生きている上に戦闘経験の差が違いすぎる。自分は魔人とは戦ったことがすくない。それを埋めるためにも、こいつに勝って喰らって、戦闘経験たるものを手に入れなければ、まずいだろう。

 この先、こんなのがうじゃうじゃいる。ここで足を止めてはいけない。足を止めたら世界が壊れて、全部あの女神の思う通りになってしまう。させない。絶対にさせない。


 デスカイザーとの死闘が繰り広げられる。それは自分の甘さを完全に捨て切る死闘でもあるのだ。

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