#15 帝国

 海から歩き出すと私は次の狂人がいる帝国にやってきた。

 デスイーターを食べた時に、ここの景色が鮮明に浮かび上がり、脳からこびりついて離れなくなったのだ。厄介極まりない思い出させ方だが、文句は誰に言っても仕方のないものだろう。

 文句はこれを仕組んだ女神に対して言わないと気が済まない。私の最終目標も、私の始まりを作ったのも全部女神のせいであるという収束になるだろう。

 ……私は負けない。孤独に戦っているがしかし、私はここにしっかりと存在して生きているのだ。私が存在している限り、あの邪神に魅入られている限り、私は負けは許されず、敗北はあり得ないのだ。


「それにしても、この脳に焼き付いている映像の国はどの国よりも栄えているな。むしろ壊されていないのが不思議なくらいまである。私が旅路で歩んできた国殿よりも不自然なぐらいには」


 そう、どの国よりも栄えて繁盛している。これはこの国を収める存在が、敵であるという裏付けにもなってくる。この世界の国は基本後退していて、ほぼ復旧が不可能な状態にまでなっているのだ。逆に、その存在を倒せばどうなる?その先に待っているのは破壊か、それとも……。

 考えても仕方のないことなのかもしれないが、脳にこびりついて離れないのは傾国した国々であるのもまた列記とした事実として枚挙される。

 ……嫌な想像だよ、全く。


 自分の豊かな想像力を恨みつつ一歩一歩前進していくしかない。簡単に足を止めることは【迫る手】のことを思うに止めることはできないところまで来ているのだ。諦めてはならない決意を秘めて、私はそこへ向かっていく事になる。

 どうやら近くで、馬車に乗る(現代で言うバス停に近しいもの)場所を発見することができた。


「おい、お前さん。この馬車に乗って行くかね?」


 そう気さくに話しかけてきたのは、近くいたおっちゃんだった。

 おっちゃんの話では、この馬車の乗り組み場所は先刻出て行った馬車で最後だったと言う事なのだ。


「ホッホッホ、なるほどのう。定刻までいきたかったのだな」


「うん、でも今でって言ったのなら自分の足で歩いて行く事にします。ありがとうおじさん。でも……おっちゃんは来もしない馬車を待って、どうしたのさ」


「なに、別にどうしたもこうしたもないんじゃがのぅ。わしの終着点はここだったと言うだけじゃよ」


「そっか……おっちゃんも気をつけてね。ここら辺、なんか出るかもしれないから」


「おぉおぉ、忠告痛みるわい」


 そう会話を終えると、また私は歩き出す。今夜は野宿決定だなと思いながらも、旅を進める。今私はサイコロの目が一だった時の小さい悲しみに包まれていた。おっちゃんが無事であるように心の中で祈っておき、森に足を踏み入れていく。




 夜の森は冷え込みがちで、深々と芯まで冷え切ってしまいそうなぐらいに寒かった。砂漠の冷え込みはこれ以上というのだから末恐ろしいものである。砂漠の旅はまだ経験したことはないが、もしかしたら砂漠地帯も突っ切る事になる日も来るのではないかと思っている。私は魔力存在だから冷や水などは確保できるが、そればかりができる人間というのは限られてくるだろう。……ほんとに無事か、あのおっちゃんは。

 他人の心配などしても無駄だと思うものもいるかもしれないが、こう心配せずにはいられない星の元生まれて来ているらしいのだ、私は。今夜の夕食の獣を刈り取り、床に着く事にする。今夜の月は真っ赤で、血の色をしていた。



 朝目が覚めると、いきなり魔物の群れに囲まれてしまった。野営地が不味かったのだろうか、かなりの群れで襲ってきている。マントヒヒの群れだ。こいつらは獰猛で野蛮と風の耳で知っていた為、対処はある程度簡単ではある。


(貫け、神鳴りの神槍!!)


 唱えることもせず、急に手元に靁のように荒れ狂う槍が現れるのだから、マントヒヒたちも大慌てでどうすることもできない。そのまま頭部を一刺しして、群れを壊滅させる。その感触がどうにも微妙で、可笑しさを感じたが、構わず続ける。

 マントヒヒは司令塔がいて、その個体を潰せは統制は乱れる……はずだった。しかし、どうにも凶暴でこちらの姿を認識しては威嚇して襲ってくる。聞いていた情報に誤差があり、少し面食らう私。別に対処不可のな訳ではない。各個撃破し、遅滞戦闘に努める。ここで後退は認可できない。このまま押し通る!

 最後の一匹を撃破して、私は異変に気づく。こいつらは魔力の力で動いている木偶人形だった。 明らかに人為的なもので警戒を強める。これは私単体を狙ってきての攻撃に違いない、と言う事実は確かなものだった。

 帝国周辺ということもあって、少しばかりは警戒していたが、その警戒を強める事になるのが敵の策だなんて笑える話でしかない。食らっている本人はあまり笑えないけれども……。



 向かう間、一定の間隔を狙って襲ってくる木偶人形たち。ものの数にもならないが、たくさん襲ってくると面倒で面倒で仕方のない存在だ。それらを撃破するイモ飽きてきた頃に、それは姿を表す。

 整備された町並み、活気付く市場、物流と呼べるライフライン的ものまで、この世界の国を馬鹿にしているかのようにそこに存在していたその国は、まさに皇帝が住むにはうってつけの場所だった。木を隠すには森の中?そんな難しいものではない。肯定を隠すには民衆の中。どれが狂人かなど判別がつくはずもない。普段から邪神の欠片のオーラがダダ漏れであっていいはずもないため、手がかりはゼロに近い状況からのスタート。


 だが、考えても見てほしい。皇帝が住むべき場所はどこだろうと考えると、それは城しかないという結論に行き着くだろう。誰だってそう、私だってそう。安直な考えのもと、実行される取れるべき手段というものは、無駄に馬鹿でかい城探し……探すまでもないと言える。貧富の差が分けられ貧富の富の側面、権力を象徴するであろう城は、この帝国には全く見当たらないのだ。町並みは石調で作られていて、いい塩梅にコントラストもバッチリ決まっている。

 私が長々となにを言っているのかというと、探すべき場所がわからないから困っている、という一行で済むものを、淡々と連ねているのだ。

 一度考えても見てほしい。こんな「帝国です!城で待ってますよ!」と言わんばかりの外装をしているというのに、そのメインたる城が見当たらないから嘆きたくもなるというものだ。自分の現実逃避に付き合わせてしまってすまないと思っているが、心の整理が必要であるというのもまた揺るぎなく事実なのである

 しかし……どうしようかな、これぇ……。


 狂人探しの真っ只中、ヒントがなくて詰みそうな私を、誰か救ってはくれないものか……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る