#14 性質

 進み続けるとそこに彼女はいた。

 下をむき続け、何をするにしても楽しくない状態になっているみたいだ。悲しみは楽しみで埋めることはできるが、それでも心のどこかに隙間は存在している。治ったと思ったらまた再発してしまったなんてことがありかねないから怖い。性質は変わっていないのだ。いくら完治したと言われても、心根は変わっていないのだ。


「ウチは……失敗したのかぁ?何をどこで間違えたのだぁ?なんでこんなところにいるんだぁ?わからない、わからない」


 そう、本質とは変わらない。この悲しげな少女は、さっき戦っている時もずっと悲しみに満ちあふれていた。どこか笑う姿もなんだか虚しく、まるで誰かの口調を真似して明るく振る舞っているかのようだった。


「あなたは、失敗はしていない。けど成功も同時にしていない。買ってはいないけど負けてもいないんだ。そんな慰めにもならないような言葉だけど、あなたはとても強かった。誇っていい、この魔力存在の腕を折り曲げたんだから」


「ははは、そうか、ウチは負けても勝ってもいなかったのかぁ。ロリッ子にそんなことを言われちゃ引き下がるしかないなぁ」


 ロリッ子は余計な一言だっつの。

 光が差し込める。

 暖かい光が、少女を包み込む。邪悪な魔の手から逃れ出て、私の中に力がみなぎる。『喰らい続ける者』としての側面を持つことになったらしい。どこまで食べ続けても、減ることはない多力と精神力が身につき、お腹が減ることは無くなった。




 世界は真っ黒に感光した。

 突然のことで、私も何が起こったのかわからなくなって、我が目を疑う。自分は何をしていたのかわからなくなるぐらい光一点もない暗闇の中に閉じ込められ、前後左右の感覚を失う。ここはどこなのか、心の隙間の中から抜け出せたのか、それすらもわからないままに、放り出された空間。

 勝ち確のシーンからほぼほぼ積みみたいな状況になせられるのも珍しい、と私は感じながらも、そんなことはいいと思考を取りやめて、何かないかを考え始める。


(暗闇の中で音が反響するかもわからないんだ。もしかしたらこの黒い物体は音を吸収するものかもしれないし、トラップの可能性もある。これらの事柄をまとめて解決するためには、光を吸収させないぐらい、もっと大きな光を当てればいいってことだ……《恒星》!)


 あたりに光が充満し、漸く黒の中の全貌が明らかになる。

 そこは血塗られた胎の中。赤子の鳴き声が聞こえ始め恐怖と絶望で心の中を支配されそうになる。理解し難い神はそこにいた。魔力存在位なっていたとて、そこに感情の差異はなく、当然恐怖という感情も機能している。目の前にいるのは明らかに異質だ。異質な邪神のオーラのそれだった。


「貴様は邪神に魅入られた。貴様は世界から見て異質な存在になったのだ。だから私がきた」


“それ”が喋っている間は自分は声を出すことすらできない。喉に大きな石でも詰まったみたいに、発声を許すことはない。

 蛇睨みなんて生やさしいモノじゃない、恐怖による寒気が身を撫でている。


「貴様が喰ったのは邪神の欠片。神たるものの欠片を喰ったのだから、そうなっても無理もない。しかし、神たる欠片を取り込んで死ななかったのには見どころがある。あの女は適合できずにそのまま魂が欠片に奪われてしまっていたからな、残念なことだ」


 邪神は続けて云う。


「貴様には神の欠片を集めてもらうとしよう。女のような不適合者の中に邪神の欠片は眠っている。お前は食うたびに力を得られる。良いだろう?それに……貴様はあの女神をよほど憎んでいるらしいしなぁ?その復讐心を糧に生き残れたのだろうよ。努努忘れるな、お前には邪神がついているということに……」


 邪神はそう呟くと、どこかへ消え去った。

 圧迫感が解けて、私は解放される。自分には理解できない世界がそこにはあった。感情の破裂、本物の臓器の破裂、どちらもごちゃ混ぜになり私の中で消える。恐ろしいほどに冷たく、命の行動を感じさせることはない。何に踏み込んでしまったのか理解したくない私の脳みそは、理解させられているものとして鼓動を感じる。まだ生きている、まだ死んでいない。私は欠片を集めなければならないという脅迫概念で心を支配させられる。本当の旅路はこれからであるということを知らされた私は、とてつもない満足感、とてつもない収束感で満たされていた。


(はははははあはははははははははははははあはああははははははああははははははははははあははあはあああははあははあははあっっっははっはははあっはっははははあっははっはっはっっはっはあはあああはっはっははははははははははははははははははあはははははははははははははあはああははははははああははははははははははあははあはあああははあははあははあっっっははっはははあっはっははははあっははっはっはっっはっはあはあああはっはっはあはははははははははははははあはああははははははああははははははははははあははあはあああははあははあははあっっっははっはははあっはっははははあっははっはっはっっはっはあはあああはっはっははははははははははははははははははははははははははははあははははははあはははははははははははははあはああははははははああははははははははははあははあはあああははあははあははあっっっははっはははあっはっははははあっははっはっはっっはっはあはあああはっはっはははははははははははははははははははははははあはああははははははああははははははははははあははあはあああははあははあははあっっっははっはははあっはっははははあっははっはっはっっはっはあはあああはっはっはははははははははははははははははははあはははははははははははははあはああははははははああははははははははははあははあはあああははあははあははあっっっははっはははあっはっははははあっははっはっはっっはっはあはあああはっはっはははははははははははははははは)




 気づいたら、私は海辺にいて新生した気分でそこに横たわっていた。全能感とでも呼ばれるものが私の中で渦巻いている。うまく言葉が出せなくなっていることに気がつき、それでも、なんとか心から出た言葉を紡ぐ。


「■■な■よみ■なきもの■■■ためになろう」


 まったく言葉が出ないわけではない。私は負けていない、負けていないんだ。おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお勝ったぞ!!買ったんだ私は!!あああああああいや負けてない、負けてないんだよ!!



 心の底ではお前はあのDr.に勝っていたんだ!!負けてなんかいないんだ!!そして私は呑まれない!心に呑まれることはしない!!私はあああぁぁぁぁあぁあぁぁあああああっぁああああああ!!


「私は『マリ・エグジット』だ!!何者にも縛られない、私は私であることの証明だ!!私は、生きる、絶対にだ……絶対にだ!!」


 支配から解き放たれた私はそこで雄叫びを上げていた!生命の息吹がそこにはあった。生きている、まだ生きていける。私はここにいる、生きているんだ!そう思うとなぜたかとても力が湧いた。

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