#13 屈曲

 先制攻撃、大きな口が飛んできて、そこら辺にある木は屈曲し、海の藻屑の一部みたいになってしまった。あれを食らったらひとたまりもないだろうことは容易に想像できた。


「ははははは!ウチの攻撃を初見で見切れるとは、なかなか見どころンあるじゃねぇか!!楽しくなってきたぜぇ!!」


「お前を楽しませるために私は回避してるわけじゃねぇけどな!」


「違いねぇ!」


 そんな軽口を言いながら、次はどうすればいいか最適解を出す。しかし、あまりにも多種多様な攻撃によって、私の思考能力は削がれつつあったのも事実。そんなこんなしていると、私の左腕が口の攻撃にあたり、屈曲した。そして私はこいつの能力を知り驚愕する。


「ひゃはははははは!そうだぜ、ウチの能力は口だけじゃねぇ!口に含むものが多くなると速度が増すんだぜぇ!!」


 ……得意そうに言いやがって、これじゃあうまく体を動かすことができねぇじゃねぇか。まったく嫌になるぜ、こういう狂人って呼ばれるやつはクソほど強いのかねぇ……!


「たかが左腕、されど左腕だな。やられたところがズキズキと傷むようだ……」


「ウチの口は特別性だからな!当然毒もついているから、後からのダメージも期待できるのよぉ!しかし、お前が初めてだぜ、この攻撃を喰らって悶絶せずに立っていることができたやつは!お前、ほんとに魔力なんだなぁ!なぶり甲斐があるなぁ!!嬉しいなぁ!!!」


「この戦闘狂め……!」


 私はそういうと、右腕で青白い光を解き放ち、心の中で詠唱をする。

(蒼き閃光、影の中に住まう光を我が心に−−《恒星》−−!!)


「ぐぱぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああ!!!!」


 攻撃があたり、奴は確実に負傷した。この攻撃で倒れてくれるといいんだが。10mほどたたき飛ばしてみたものの、どうにも嫌な悪寒がする。頭痛が痛いみたいになっているが、あいつはデススペルと一緒の【迫る手】にいる幹部クラスの1人。そんな奴が一撃喰らわせた程度で死ぬはずがないと見た。


「へへへ!いい攻撃持ってんじゃないのぉ!ひっさしぶりにいい一撃くらっちまったぜぇ!」


 あたりはしたが、まったく食らっている様子がない。結構な魔力をぶつけてみたんだが、これでは足りないとばかりに目をギラギラさせてこちらをのぞいてくる。不死身かよ……!軽く心の中で舌打ちをかまし、飛んでくる拳の雨を避けながら、次の酒戦はどうするのかをまとめる。

 生半可な攻撃は無意味で相手を喜ばせる要因になってしまうため、中途半端なことはできない。この世の終わりみたいな攻撃を繰り出さないと……。


「まっ!ウチには敵わないんだけどなぁ!!」


 考える間もなく強打の一撃に、不意を突かれてさらにもう一発喰らう。


「へへ!!ボロ雑巾のように吹っ飛んでいったぜぇ!まだ生きてるよなぁ……?」


「……けほっ、けほっ。しょうがねぇな、左手がへし折れて曲がった状態じゃ何もできやしない。戻すか」


 負け惜しみかのように言うと、屈曲した左腕が元通りになっていき、元の状態に戻ることになる。さぞ目の前で怒ったことが理不尽だったのだろう。デスイーターは呆然としてしまって、動くことができなくなっていた。最初から戻さなかった理由は、相手の隙をつかなければ勝てないという点にある。あいつは私と違って狂人じゃない、魔力の存在だ。そんなやつを倒すためには、相手側の気を散らさなければならないだろう。そうであるならば答えはもう出ているも当然なわけで、動揺を誘えばいい。そうするだけでほら簡単。あっという間に驚愕して一秒止まる敵が目の前にいますねぇ……!


「その隙が命取りだ−−《刻炎》−−」

(心の数を刻め、刻んで焰の薪とせよ)


 両手から放たれたその炎は、どの炎よりも熱く、どの炎よりも眩しい。炎熱で焦げ死んだ細胞はうねり始め、まだかまだかと飛ぼうとしている様子が見られる。激しい怒りのような炎は身を焦がして、魔力存在である俺の手までも火でもって燃やそうとしてくるのがわかるぐらいに反抗的だ。溶かして溶かして、マグマ見たくどっろドッロドロになった体は蝕み続け、さらに燃やせと訴えかけてきている。これこそが刻炎。刻む炎である。


「お前の魂、魔力いただくぞ」


 そう言うと私は、デスイーターの魔力および魂を食べた。そうすると、心臓が熱くなり、呻き声をあげてその場に崩れちる。熱い、体が熱い。今にも燃えそうだ。炎の熱ではない熱さが身を焦がしていく。




 これは昔の記憶。


「ねぇ〜、なんでウチはこの施設に連れてこられたん?」


「それはな、お前をここで預からなくちゃいけなくなったんだ。お前は悪い子だから、よく食って食べてお金がかかるからだ」


「そうなんか〜、ウチってそれだけで捨てられるような人間なのかぁ〜」


 ……な、んだ、これ、は。昔の映像が頭に直接流れ込む。屈曲した関係がそこには映し出されていた。誰か研究員のような奴と会話をしているデスイーター。こんな人類の敵のような奴が、昔は人間だっただと?


「お前はクソでなんの価値もないから我が【迫る手】によって改造することにしたのだ!!どうだすごいであろう?」


「へぇ、それでどうなるんだぁ?」


「興味があるか!!ふぁっはっはっは!!いいだろう、そんな試験体X X Xには特別に教えてやるぅ!!!お前は街に繰り出して破壊の限りを尽くし、殺される為だけの存在になるのだぁ!!そうして映し出されたものを導き【迫る手】のボスの鍵としての役割を持つのだ!!どうだねぇ?素晴らしきことこの上ないだろう?」


 …………ふざけるな、ふざけるなよ!こんなことをして平気だって言うのかこいつらは!!

 憤慨してもしょうがないと言うぐらいに流れ出る映像。ここには世の中の理不尽が詰まっていた。詰まってるように思えた。最悪を最悪で足して最悪をかけたものがそこには映る。どんなものも腐敗しているとは思うが、ここほどは腐敗していないだろう。このDr.の居場所を突き止めて八つ裂きにしてやりたいほどだった。


「へぇ、そうなんだぁ。教えてくれてありがとう、Dr.デスレイ〜」


「くははははははははははははは!!」


 Dr.……デスレイ…………覚えたぞ、お前の名前。絶対に見つけ出して殺してやる。絶対にだ。

 決意を新たにすると、そこで映像は止まる。すると画面が切り替わり、心の隙間が存在した空間にやってきた。

 ……この先にいるのだろう。この先に喰らったデスイーターが居る。もう見たら、会ったら後戻りはできない。私の足は自然に進み出していた。ごく当たり前かのように。まるで元気のいい小学生が校内のグラウンドを走り回るくらいに。

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