第二章 新生

#11 旅路

 目が覚めると、そこには特徴も何もないところが広がっていた。私はどこにいってしまったんだ。どこについたんだ。眠っている間に何があったんだなどなど、いろいろな思いが錯綜する中で、動けずにいた。

 こんなところで躓いていられるか!私は光さす方に向かうぞ。暗い暗い場所で、頼れるのはその一筋の光のみ。酷くドロドロとしたところを進んでいく。汚い臭い、最悪だ。しかし、なぜかそんなことも仕方のない様に思えてくる。これは罰なんだろうか。受け入れなければいけないものなのかと葛藤してしまう。


「グギャァアァアァァアアアアアアアア!!」


 マンドリルの群れが襲いかかってくる。すぐに魔力で迎撃しようと試みたが、魔力を使える様子もない。近くのドロドロとしたもの(推定:汚泥)をマンドリルたちの目に投げ当て視覚を奪う毒をもって毒を制す(物理)少し意味合いは違うが、物理ならば問題なかろう。こうしてまた一匹また一匹と撃ち倒していく。

 どこかの人が止まない雨はないと言っていた。しかし、私の心は常に雨が降り続けて蝕んでいるのを感じる。マンドリルを横目に見ながら、私はそのドロドロを後にした。




 進んでいくと、今度は密林にたどり着く。このドロドロを洗い流せれるところはないかと湖を探していると、ちょうどいいところに水溜りを発見する。それは水溜りというにはあまりにもデカく、人一人なら覆ってしまえるぐらいのデカさだ。




 ついたドロドロを落とす擦って落とす。しかし、そのドロドロは落ちることなく体に付着し続けている。落ちることのない汚れ。これこそが罪悪感で満たされた心の隙間にある汚れなのか。絶望はしていない。絶望などできようはずもなかった。それ含めて全部私だからだ。私の中の私は叫んでるんだ。何をすればいいのかなんてわかってる。この大いなる旅路に感謝をして、ただただ前を歩くのみなのだから。




 私は新たに体をビチャビチャにしながら前を目指す。一筋の光を目指す。何が待っているか、何が起きるのかなんてものは当然わからないが、前を目指すしか道はなかった。私の中ではこんなことなんで続けるんだという声が響いてきているが、尺たる問題ではなかった。足取りは重いが軽い様でもあった。思う様には動くので、全くの無問題ではなかったが、それでも向かった。


 大いなる旅路だった。自分にとって、異世界にきて初めて冒険している様な気がしてきた。こんなところで初めての旅をしたところで、なんの面白みもないというやつはごまんといるだろうが、私にとっては紛れもなく旅だったのだ。


「グリュゥゥゥワァァァアアアアアアアア!!」


 どうやらゴリラ型の化け物がこちらをバイ菌と認識して襲いかかってくる腹づもりらしい。視線を離さずじっとこちらを見てきている。こちらが素早く動くと、ゴリラも負けじど動き始める。

 ゴリラのえぐ目のパンチが腹を強打し叩きつける。ボールみたいに何回か叩きつけられると、ムクっと起き上がり、ゴリラに向かって走る。私の拳がゴリラの腹に突き刺さる。それも予定通りだったのか、ゴリラの顔はニヤリと下卑た笑みを浮かべ、カウンターを放ってくる。今度はおはじきみたいに当たって弾けて当たって弾けての繰り返しだ。そのまま体制を直すと、拳をまた突き立てる。飛ばされる……突き立てる……飛ばされるを何度か繰り返していくうちに、この単調な作業が嫌になったのか、ゴリラは行動に出た。自分の手をハンマーの様にしてこちらを攻撃してくる。ボロボロになりながらもなんとか避けていくが、消耗していて限界だったのか、足がもつれたその隙を見逃すことは決してなかった。そのまま突き刺さり、吹き飛ばされていく。薄れゆく意識の中で、柄にもなく「楽しい」と感じてしまっていた。戦闘という行為は楽しいものだったのだと感じた。




 それがわかっただけ充分だ…………「違う」

 それが本望だったんだ…………「違う」

 それが限界だったんだ…………「違う!!」




 「魂よ燃えよ!奮えや振るえ!慈愛の炎よ心に点火せよ!」

 …………あぁもう、うるせぇな。静かに寝かせてくれってんだ。今楽しい戦いの終わり。酒に酔いしれているんだからさぁ。そんな、そんなセリフ吐かれちゃ……………………私もやるっきゃないっしょ!


 爆発的なまでに高まった魔力が包み込み、爛々と輝く太陽の様だった。私は太陽を見に纏い、ゴリラと対峙する。


「楽しい戦いをありがとうよ。おかげで目が覚めた。魔力の使い方も」


「グ、グググルゥゥルブゥゥゥゥアァァァアアァアアアアア!!!!!!!」


 怯んだ様にも見えた。あの強そうなゴリラがだ。一気に押し通る!!


「燃えよ焔よ!太陽の炉に赫々を焚べて、いざその力解き放たん!−−《太陽万象》−−」


 圧倒的なまでの高火力の拳がゴリラを襲い、存在を残すことなく消滅し始める。消えたくないのか本能なのか、ゴリラは暴れて悶え始めるが、意味はなく。太陽という偉大なものの前では身動きすら取れずにただただ死を待つだけ。虚しいまでに悲しい声を上げるゴリラだったが、最後は声を上げることはなく、空を見て逝った。

 旅路にはついたばかりだ。人生の旅路はまだスタート地点にすら建てていない。そんな私でも歩くことはできるんだろうか。いや、歩き続けるしか道はないのか……なんだか観念して私は一筋の光を目指して歩き始めるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る