#9 絶望
悪いことが起きれば、さらに悪いことが起きていくのが世の常というもので、その例には漏れず、周りの街々はさらに破壊を繰り返されていた。
「キリがねぇ、このクソトカゲども!」
トカゲ型の魔物はわんさか出てきて、街をおもむろに襲う。魔力防壁で防がれていようとも関係なしと言わんばかりに。流石に魔力の塊、権化である私も複数個を何度も何度も出すのは大変だ。ある種の絶望を今味わっている。中々突破できなくて焦ったのか、一匹のトカゲがこちらに向かってやってくる。呼称:トカゲ程度、十匹ですら問題はない。
「グギャァアアアアアアアア!!」
断末魔をあげて、その場に倒れるトカゲ。それを見てもなおこちらに向かってくる奴ら。しつこい、執念深い、執着心の強い奴らだ。私はそれらを須く打ち砕く。脚技を放ち身体から首がバイバイするヤツもいれば、脳天に一発拳を向かい放ち消し飛ぶ奴もいればいろんな奴がいた。いつしか歓声が恐怖に変わり、阿鼻叫喚であることは間違いなかった。私はお前たちのためにやってるわけじゃないんだ。救うためにやっている。ここいらを救うためにやっている。命が助かればそれは儲け物だが、助からない命すらもある世界で、どんなことを言おうと無意味は無意味だろう。
救われるものも、救われないものも、救えたものも、救えなかったものもいる。救えなかったものは絶望するんじゃなくて、羨望するんだ。救えたものに対して。
私は最後の一体のトカゲの首をへし折った。簡単だった。何も考えることなくへし折った。それは民衆の勇気も同時にへし折った。絶望を与えたのは私だった。街を振り返ることはなく、後にした。
この世界では今いろんなことが起こっているとなると、どうにも荒々しい気分になった。【迫る手】のデススペルもそうだが、強力な奴らがいるとなると、こちらだって対抗手段を考えなくてはいけない。今必要なのは救う力ではなく戦う力なのだ。私は人を救う。そのためには戦う力を身につけないといけないなんて、なんて皮肉なんだろう。
私は目指した。遠く遠くを目指した。行く先々で街をぶっ壊したりしていたやつを逆にぶっ壊した。私はそれで良いとも思っていた。救えないやつはダメだ。ダメなんだ。救えるようにするためには、強くならなきゃいけないんだ。
「いつまで、そうしているつもりだ。がむしゃらに向かっていって、お前のココロは満たされているのか?」
誰だ、お前は。なんなんだよ。ほっといてくれ。
「お前はそんなものかと言っているんだ。そこで停滞していたらお前はいつ救い出せるようになるんだ?」
お前は…………「俺」なのか。今更何しにきた。私はお前なんかに慰められるほど壊れちゃいない。
「いいや、お前は停滞して絶望している。この世界に。この、自分に絶望している。壊れているのさ、とっくにね」
何がいいたいんだよ、結局お前は。私の心をどうするんだ。
「破壊だよ、壊すんだ。俺を壊せ」
私は…………壊すことしかできないのか。壊して壊して壊し尽くして、その先に何があるっていうんだ。私は私は………….いいんだ……壊してもいいのか?いいのか……いいのか?
「ァァァァアアァァァァアアあぁァァァァアアァァァァアアああぁァァァァアアぁァァァァアアぁあぁぁあぁぁぁぁァァァァアアァァァァアアあ!!!!!!!!!!!!!!」
その時、僕は覚醒をした。後悔をしながら、絶望をしながら覚醒した。街を一望できる崖の上で覚醒を果たした。僕は無自覚に覚醒をしたのではなく、絶望の上で覚醒をしたのだ。これは、これは重要だ。自分の中では壊れそうなぐらいに渦巻いていた火が消えたような感覚がした。泣きたくても泣けない。バグった脳みそが無理やりバグを取り除いて無理になったような感覚だ。そんな感覚体験していないのでわからないと思うが。声も出せない。僕はそこで立ち止まることしかできなかった。
どれくらい経ったか僕にはわからない。切迫している時は時間の感覚など忘れてしまう。各云う私もそうだ。とうに時間の感覚など存在しない。それは10秒だったか10分だったか1時間だったか1日だったのかもしれない。長い長い時間をかけて覚めたとも思うし、ごく短い時間をかけて目覚めたと思う。
不思議な感覚が突き抜けていき、僕は目を覚ます。ここは崖の下。崖はなんと崩落していたのだ。上を見上げると崩れたであろう崖の先を支えていた岩場が見える。今にも落ちてきそうだ。落ちてきたところで、なんら問題はないが、自然災害で何人かなくなるのも意に反するところである。だのに、身体は動きにくそうにしている。鬱陶しい身体だ、そのままジャンプして壊すことにしよう。
飛んで岩を殴りつけると、岩はまるで生命活動を止めた枯木を殴りつけたかのように塵一つ残さず消し飛んだ。凄さがわからず呆然としてしまう。威力はいつもの倍跳ね上がっていることが確認できた。自分がただ破壊していた頃と比べても、比にならないほどに。まずは【迫る手】を見つけ出すところから始めましょうか。今の僕の使命は巨悪を許容することなく破壊することなのだから。
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