#7 波紋

 伽藍堂になった町を抜け、森に入っていく。

そこは鬱蒼と木が生い茂っており、人を隠そうと画策しているのではないかと勘繰ってしまうぐらいだ。木を隠すなら森の中、と有名な諺があるが、何か隠れれるものでもあるのならば、簡単に隠れることができてしまうぐらいにはこの森は広いだろう。

 自身の中で強烈な渇きを感じ、水を探そうとする。地面に耳を当て、水が流れる音の方向を目指す。

 何事にも変えられない、衣・食・住というものは大切なものなのだ。人間であるならば、この三つがそれっていて尚且つ、インフラが整備されていないと生きられないなんて人間もいるだろう。この世界ですら、それは当たり前の事実として確認されている。

 歩くこと数時間で、ようやく水のある辺りまで辿り着くことができた。神秘的な泉、周りの木々が太陽からさす光をキャッチし木漏れ日となってこの泉を照らしている。揺れる水面から出てくる波紋はまさに自然の神秘でできた絶景とも言えるだろう。









「うぉぉぉおおん!ふんっ!」








 水浴びしていたボディービルダーが出てきた。







〔意識が浮上しました(笑)〕







 ??????…………はぁぁぁああああああ?私さ、こんな感じで自我取り戻すとか思ってないよ?国王と戦ってから、確かに自意識を前に持っていくことができなくなったけど、こんな目覚めってないだろ。目の前にボディービルダーがいて、なんで目が覚めるんだよ、この世界やっぱりつくづくクソな展開を用意するな!

 なんでウィンディーネみたいなやつが出てこないんだよ、おかしいだろ!まぁ、出てこられたところで、自分には何もナニもないんですけどね?初見さん。


「邪魔だあほ」


 某妖怪漫画のヤクザ者式キックをかまして、ボディービルダーを吹っ飛ばす。あんな奴が浸かっていた水、啜る気分にもなれんな……。まじでどうするか。ここは泉だしなぁ。

 …………あ、魔力でできた水ってどうだろうか?俺は魔力そのものだから、魔力でできた水飲んでも大丈夫そうじゃね?なんか泉とか探す理由とかなかったろ。何してんすかねぇ?


「〈彗水星〉!」


 球体型の水の技を出し、それに顔をつける。……おいしいじゃないか。意外にも魔力でできた水でもいけるもんだな!誰かが悪食って言っているような気がするが、気のせいだろう。誰も私のことを見ている奴なんていないからなぁ!なぁ?


「ふぅぅぅぅん!!ふぅん!(おいてめぇ!殺す気か!!)」


 さっき吹っ飛ばしたボディービルダーが帰ってきた。帰ってくんな。

 手に持っていた〈彗水星〉を用いて、再び彼方へと吹っ飛ばす。これが正解であり、真理である(決めつけ)

 まじでよ、あんなん狂気だろ。自分が沈んでいるところに突然やってきやがって、私じゃなくても驚くわ。

 ……!何かいやがる……。誰だ、一体誰なんだ……?


「くぅん、キャインキャイン」


 犬だな、見まごうことなく犬だ。あまりにも普通すぎる。普通すぎてこの世界なら罠なんじゃないかと疑ってしまうところだな?さっきのボディビルダーとの関連性もないし、一体どうしたもんかね、こりゃ。

 これはハートフルラブコメディでもなきゃ、ライトコメディでもないから、この犬を引き取るのは難しい(その理屈はおかしい)。ここにきて急に犬が来ても、どう対応するのか迷うな。ま、なんとかなるやろ(楽観的思考)。

 

「キャンキャン!」


……?あぁ、こっちについてこいみたいに、首を出てきた草っ原の方へ向けている。この犬はどうやら人間のコミュニケーションの仕方を理解しているらしい。解像度の高いジェスチャーは並のインキャにはとてもできないものであると判断できる。各云う前世の私もアッパー系インキャだったため、そのような行為に及べるべくもなく、コミュニケーションといえば首を縦に振るか横に振るかの些細な違いであった。勿論必要に迫られれば、会話など意図も容易い行為と言っていい。しかし!!アッパー系インキャの辛いところはなんでも最初の言葉に噛み付いてしまうところにある。口を開けば悪態ばかり、そんなのでコミュニケーションできるわけないだろ、いい加減にしろ!

 ……まぁ、なんだというわけだから、この犬に少しの嫉妬を覚えている可愛い女(の見た目をした中身男)1歳未満児(そもそも人間ではない定期)がいるというわけなんだが…………あれぇ……もしかして、私の属性……多すぎィっ?!

 収入が低いよりも驚愕な事実に気づいてしまった読者諸君はSANチェックのお時間です。私みたいなアッパー系インキャにはなるなよな。

 アホみたいなことを頭の中で考えがながら、目は犬を追ってしっかりと後ろをついて行っている。ストーカーじゃないぞ、行為に甘えてついていっているだけなのだ。並行思考ができるのは素晴らしいことだが、自分のブラックな過去を振り返ってしまうという弱みもあるんだな。決して万能ではないということか。所詮私は私だからな。私の範疇を越えないのは致し方ないことか。


「くぅん、アンアン!」


 もう直ぐ着きそうなのか、犬は立ち止まって私の方を見つめてくる。「これから起きている状況を目にするのはだいぶ酷かもしれないが、それでも見るかい?」と問われているような目をしていたので……。


「別に、みたくないものに蓋をして後から見て後悔するよか、今見ておいた方が精神状況的にも、この世界の現状においてもいいだろうさ」


 とアンサーをする私。いやだ、前世よりよほどイケメンだわ!(なお、自分の今の染色体はXXに近い構造をしている模様)そんなこんなで、歩いて行くと、眼前に広がる景色にはどことなくあの街に重なって見えた。

 世界には波紋が広がっていた。大きな波紋が。世界をでかい湖の水面と表現し、災いを雨だとしよう。でかい水面に弾ける雨はどうなるだろう。水面に波紋を起こし、その美しかった波もたたない湖に襲いかかる。これが女神の試練だとしたら、あいつは悪趣味のクソッタレで、早く滅ぼすべき害悪に他ならないだろう。本当にふざけていると思った。国王に壊された街もこんな感じだった。激しく穴ボコが出来ていて、月面のクレーターのようになっている。この異世界上では稀によく見る、襲撃の爪痕は着実に個々の住民を蝕んでいると感じた。許さない、許さない許さない許さない許さない。私は私を道案内してくれた犬にお礼がわりに頭を撫でてやり、骨付きボディビルダーをあげる。途中で狩っておいてよかった。あのボディビルダーはあの森に生息している魔物だったらしく、ポピュラーなようだった。たくさんのボディビルダーの森。なんという災厄だろうか。筋肉は否定はしない。素晴らしいことだと思うし、肉体美を追求するその精神力には感銘を受ける。しかしだな、魔物となって襲ってくるとなると話は別だ。普通に魔物として出てこなくていいだろう?やはりこの世界はおかしい。

 俺はこの国を見て、もはや一刻も無駄に出来ないと感じた。この波紋は着実に世界を蝕みつつあると、そう感じた。

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