#4 本質

「……なんやて?あんさんがあっしの家族を殺したっちゅーんかいな…………っ!?そないなこと、そないなことってあんまりや……っ!!」


 あんまりなことが重なった。唐突の告白すぎたそれは、確実にエドの心を蝕むだろうと予想された。俺は考えることができずにいるエドを責めることなどできない。自分も同じ状況になったら対処できるかどうかなどわからないからだ。

自分自身に嘘をつくような真似はできない。

 エドはそうなんだろう。自分の心を騙してまで、今の状況を打破しようと動くなんてこと、意志の固いやつにも難しい話だ。

 物事の本質とはかけ離れたその人物の本質は絡み合ってめちゃくちゃになる。狂いそうなほど、狂気の赤で染まっていく。

 なんてもんに巻き込まれちまったんだおれぁ。


「エド……。わりぃが俺様は手加減なんてすることは出来ねぇぞ。この町を吹き飛ばされてんだからなぁ!!」


「マリはんのいうことも理解できる……。理解はできんねんけど、納得はできひんのや……!」


 自分の心に嘘はつけないとエドは言う。お前はそんなやつだよ。いいやつなんだ。こんなクソッタレな世界にいてもいい奴はいる。しかし、いい奴すぎるんだ。だから今躊躇ってしまっている。躊躇して倒すことを恐れている。ならばこそ、ここは俺に任せてもらおうじゃないか。


「エド、ここは俺様にどんとまかせてみてくれ。悪いようにはしない」


「……マリはん。分かった。マリはんのいうこと信じてみるわ。ただ、もし違うかもなって思ったら、あっしは全力で止めさせてもらうで」


 このクソッタレな世界の中でも、健気に生きてる奴がいる。真面目に生きている奴がいる。俺はそれが知れただけで大いに収穫があったんじゃないかと思う。普通に恋して恋愛していればの話だったが。人間というのはどこまでも変わらんものだ。悲しいかな自分だって変わることができない部分など沢山ある。しかし、だからといってもがくのをやめろというのも違う。もがいて足掻いてその先にあるものが真実であり、本質であろうと俺は信じてる!だから!俺は!


「俺はお前を止めなきゃならねぇぇぇぇぇえええ!」


「来なさい![雷光の悪魔]ライアが相手になってあげる!」


 お互いの足が交差して、激しい衝撃がその場に疾る。俺の属性は今は土!アースって知ってるか。雷を土に流す方法のことを言うんだ。


「なぜ雷が効いていないか、不思議だろ?」


 言い当てられて、動揺が隠せない雷光に、俺はさらにもう一撃を加える。


「雷は土に流れることができない。土は雷を流すことは決してない。これがアースだ」


 次の瞬間に俺の右足は焼け落ちることになる。焼け落ちる、だ。高電圧が熱を持ち火を吹き上がらせたのだ。想像していなかったわけではない。しかし、こうも簡単に焼き落とされるとなると、擬態の体は割と使い勝手が悪いと言うかなんと言うか。


「あなたの右足は消し飛んだ。もう戦える手段は残っていない。さっきの靁、どうやって取ったのかわからなかったけど、火力を上げたら問題はないみたい」


 こちらのことを読んだつもりになってやがる。俺は、俺様は魔力だぞ?形のないものだ。形のないものに形を作らせたにすぎない。


「おいおいおい。俺様の攻撃はまだ終わっちゃいないぜ?寝ぼけんなよ、雷光」


 またも動揺が顔に出て手に取るようにわかる状態になる。崩れ落ちたはずの右足で再び攻撃をされたからだ。いつ俺が痛みを叫び散らかしたと思っていた?痛みなんぞを叫ぶことすらなく、普通に会話していたことをおかしいと思うべきだったんだ。まんまと引っかかってしまったようだな。


「嘘やろ!?あんさんの右足は確かに消し飛んでいたはずや!!」


「説明する必要もないが、説明してやろう。俺は魔力させられた魔力そのものだ。お前は魔力そのものを相手していると言うことになる。何にでもなれる魔力は俺の能力の管轄内。何をするにしても自由を奪うぐらい造作もない。ならしないのはなぜか?単純なことだ。使う必要などないからだ」


 そのときに、何かが弾ける音がした。

 靁の槍がこちらをロックオンして今にも飛んできそうになっているではないか。面白い、戦いというのはそうでないと面白くない!!

俺の両手がかめ◯め波を打ち出せるようなポージングになると、靁の槍を両の手で抑え込んだ。火の属性を纏わせ土の属性でも補助を行う。しかし、靁の槍の勢いは死ぬことなく、こちらを貫かんとばかりに押し込まれる。


(くそっ!!このままじゃマリはんが押されてまう!あっしもなんとかしなきゃいかへんねん!!)


「おい!余計なことすんなよ、エド!!」


 今俺の顔は猛烈に三日月模様になっているだろう。楽しい、楽しい、楽しい!戦いとは胸躍り血湧くものだ。お人好しなんて言われていたが、俺は自分を抑え込むためにお人好しになった。人を救う過程で、何かを楽しまなければ、それこそやっていけなくなって潰れてしまうだろう。これこそ俺の生きる道。これこそ俺の歩む道!力が漲ってくるのを感じる。


「最初に見せる俺様の必殺技だ!!とくと御覧じろ!…………〈抱抱火靁〉!」


 靁の槍を抱き抱える体制になると火と靁が合わさった属性でもってそれを抱え込む。あたり一体に光が差し込み晴れる。周りの雲の一切を消しとばして。


「俺様を倒したけりゃ世界を破壊してみろ。世界を破壊したら存在できないかも知れないからな」


 本質というものは変わらない。自分がたとえどんな立場に行こうとも、それは変わらない。

炎帝、雷光はロリボディの俺様を見てただひたすらに驚愕するのみだ。


「雷光、お前の悩み取っ払ってやる。【国王の手】はそんなにいいところなのか?お前の恋心を煽って唆しただけなんじゃないのか?俺様は決めたぜ。まずこの世界での第一目標は、【国王の手】を潰す……!!そんだけさ」


 再三言うが、人の本質は変わることはない。雷光がエドのことが好きであるという本質と、エドが雷光のことを気になっているという本質は。

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