#3 湾曲

 俺は最強になったらハゲた……とかいうワン〇ンマンみたいなことにはなっていないが、強くなったらナニが消えた。何を言っているのかわからねぇと思うが、俺にも何が起きたかさっぱりだった。頭がどうにかなりそうだった。……片鱗を味わった気がするぜ。

 あちらこちらで音がする。崩壊する音がする。城壁は崩れ去り、野原は焼けて、綺麗な景観をしていたであろう名も知らない場所は兵どもが夢の跡。

 何をするにしても魔力が必要なこの世界では、破壊活動は日常的に行われ、スパイスにもならないようだ。

 俺の腕(魔力状態では生えていない)が鳴るぞと腕を鳴らすのもいいが、どうにも心が落ち着かないようだ。自分自身も何をしたらいいのかわからないときているのだから、困ったものだ。湾曲したこの世界では、殺しすら当たり前。殺し殺されが通常化しているとなると、尽くせる手などあまりないように思う。


「あ、あっちで人が襲われてるでぇ!!」


 いかにもな喋り方のいかにもな奴、発見。擬態をして、そのいかにもな奴に話しかける。


「あんちゃん、どうしたよ。何があったんだ」


「やばい奴が来たんや!やばい奴が!ここら一帯を牛耳っている奴ら、【国王の手】の奴らが来たんや!」


 魔王とかじゃなくて、国王が盗賊団的なものと癒着してんのぉ?!おしまいだろ、こんのクソ世界!!こんな世界で生きている奴の日常っていうのはクソッタレなことしか起きないのが日常かよ!この世界の神様なんとかしてくれよ!…………あっ、あのクズ女神だったわ……。

 あいつはやはり碌なことをしねぇな!


「わかった、情報を言ってくれて感謝するよ。あんた道には気をつけるんだぞ」


「ほんまおおきに!あんさんも気をつけて!」


 町一面が急に稲光に支配されて、消滅する。俺は目を疑った。こんなにもあっさりと消えちまうものなのかと。さっきまで存在していたはずの町が一個消えているのだから。

 動揺した次の瞬間、いかにもなやつに向かって靁が飛んでくると、俺は手を伸ばし靁に触れた。手が焼ける感覚があるにはあるが、今の体は擬態の体。ロリボディではあるが、魔力の塊だ。常々俺を魔力にしたことを後悔するといいさ、この駄女神めが!!


「な、なんでや!!なんであっしのこと助けたんや!あんさんの手がどないなっても…………!手が…………血でボロボロになってないやて……?あんさん、一体何者なんや……?」


「俺様の名はマリ。強大な魔力の塊のマリだ」


「マリはんって呼ばさせてもらいますわ!あっしの通り名は炎帝の虎。一応エドいう名前ですねん。獲物は棒を使わせてもろてます!」


 頼もしい仲間が増えた気がした。多分こいつは【国王の手】から抜け出してきた幹部という立ち位置に違いない。他の幹部連中がほっとかないだろうという、いかにもなやつだった。明らかに他の人間と比べて魔力量が桁違いだったから、俺様は看破できた。もし魔力量を抑える技術なんかがあったら、わからなかったであろうことは想像だにできる……がしかし!身のこなし、武器の持ち方でなんとなくこいつが強者だということはわかった。


「ふっ、ふはははは。ふはははははははは!こいつはいいや!俺の駄女神に対する復讐の一つとして、この世界でできた仲間たちと一緒に、この世界に棲まう巨悪に立ち向かってやろうじゃないの!!」


「おぉ?なんのこっちゃわからんが、こりゃあっしものっとくしかありまへんなぁ!マリはん、これからよろしゅうな!」


 湾曲した物語が、少しずつ正位置に戻ってきたような気がした。ドラという男がそれを証明してくれた。そんなことを考えながら、しかしあの靁を放ってきたやつはどんなやつだったのだろうかと気になる。


「雷光の悪魔、ライア見参。大人しく、神妙にお縄に着きなさいよ、このバカ虎。なんで裏切るような真似なんてしたの?」


 えらく小綺麗な女がやってきたじゃぁねぇか。こんな女がさっきの殺意の塊みたいな靁を放ってきたのかと思うとびっくりするぐらいだ。そんなに胆力がなさそうなのに、持ち合わせている魔力は格好に不似合いのものだ。それはエドにも言えることだが。


「ライア……。あっしは仕方なかったんや。家族を人質に取られ、参加するしかなかったこの組織。ほんでいざ入ったとなると人質もろともあっしの故郷が地図ごとなくなっとったよ。後で調べたら、組織に入る前からもう傀儡で死んでいる奴らと話していたとなっちゃ、あっしはこの組織に牙を剥く他ないやろぉがい!」


 破茶滅茶すぎる人生だ。

 酷い人生だ。俺の過去もついていない人生だった。両親は通り魔に殺され、妹と弟はレイプ された。最悪だった。あの時ほど世界を憎み壊しそうになった日はない。俺はお人好しになった。なってしまった。世界を憎まないように、世界をまだ愛せるように。自分自身に鍵をかけた。多分そんな人間がお人好しやってるのがあの駄女神は気に食わなかったんだろうな。そぐわなかったとでも言い換えることができようか。しかし!俺の征む道を阻むものは、何人であろうとも、払い除けるのみ。

 戦いの火蓋は切って下されようとしていた。


「あんたのこと、好きだった。ずっと前から好きだった。あの家族を殺した時から好きだった。あなたの周りが全て邪魔だった。だから消した。消すしかなかったの。……ごめんなさい」


 最悪のストーリーの幕開けじゃねぇか……っ!

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