#2 苦悩
性格が破綻してやがる。
これが噂に聞く駄女神とかいうやつか。なるほどなるほど、間近で見ても有り難みがなかったのはそのせいか……。
「あぁ、いいぜ。どこにでも転生させてみやがれ。俺の手の届く範囲で救ってやるからよ」
「……つくづく神をイラつかせるのがうまいですねぇ……!」
「はっ!イラついてくれて結構けっこうコケコッコー!俺は俺の道を進むだけなんだよっ」
押し問答。売り言葉に買い言葉、まさに悪逆の象徴とも呼べるべき女神を見据えて俺は罵る。この世界を恨もうなんて思わない。恨んでしまったら、負ける。この女神に負ける。精神までは支配はされないと、心に留める。
「ではお行きなさいな。道なき道に。果てのない絶望と果てのない終着点に」
一瞬、光が漏れ出て、真っ黒な空間から火花が弾ける。パチッパチッと音を立てて過ぎ去る様はどの景色よりも綺麗で、どの映画よりも見応えがあった。次の瞬間俺の意識は閉ざされた。
「感覚がねぇ!なんだこれ」
次に起きた時には俺は真っ裸……ではなく、真っ新な状態で草原にいると知覚している。知覚している……。そう、俺の体はまさしく最高のプロポーション!……なんてオチもない。
俺の体は消滅し、転生したら魔力させられました。
なんぞそれ?とか思う人もいるかもしれない。俺は実態のない気体のようなものになったというわけだ。意味がわからんだろう?理不尽すぎるだろう?こんなことがあっていいわけがねぇ!理不尽オブ理不尽。最低の幕開けだ。
「魔力になったはいいが、どうすんだこれ?」
しゃべれているのが不思議でならない。自分でもどんな原理で喋っているのかすらわからないから、余計にタチが悪い。
遠くからなんぞ音がする……。「クソが!」「やっちめぇな!!」「助けて〜!!!!」
……俺の出番きたな!!いや、どうやって助けんの?俺、魔力だよ?……魔力にはな、魔力なりの解決方法があるってもんよ(この世界歴数時間)。大体自分を動かすという感覚は掴めた。女神は俺を魔力に転生させたことを恨むんだなっ!俺は魔力になって最強になるぞ?
この世界の魔力方式は大体力を増強させたり、形を取ったり、月火水木金土日の七色の要素を併せ持ったりと様々だ。俺はどの色にもなれるし、形取ることができる。刮目して見よ!!この俺のパーフェクトで完璧なボディを!!(頭痛が痛いと一緒のミスだろこれ)
うむうむ。あったはずのものが股間になく、ないはずのものが胸板に張り付いていやがる。
ロリーン……ロリーン…………ロリーン。うん、どこからどう見ても幼女ですね。金髪ブロンドの碧眼ロリで、服は自動生成されたものが用意された……。
俺、TS転生者だったのん……?あの女神絶対今神界で大爆笑していやがるだろ!!世間は許してくれゃせんよ!!
この金髪ブロンド碧眼ロリボディで行くしかねぇ!
「おらぁん!!この俺様…………俺様ぁ、俺様?が登場だゴルァァァァァアア!」
「突然出てきて何言ってやがんだ、この馬鹿タレが!!こいつらの金品と女は全部俺たちのもんだ!そういうお前は、なかなかいい面してやがんじゃねぇか。体はイマイチだが、金にはなりそうだぜぇ」
んだとコラ。誰の体が貧相で価値のないものだとコラ。テメェマジでいい加減にしろよ?しばき倒すよ?
そんなことよりも、俺名前決めてなかった。何にしようかな。魔力だから、俺魔力だから………………思いつかんなぁ。
こういうの考えるのは少し面倒だし苦手だ……。マジでどうしよ。適当な名前もつけたくないしなぁ。今後救済活動していく上で覚えやすい名前の方がいいよなぁ
「何にも口上はなしかぁ?おい、てめぇら!こいつの顔は傷つけんじゃぁねぇぞ!!売りもんだからなぁ!ただ優しくはするなよ?!わかってるな!」
なんだよ人が考えてる時にうるせぇな!しばらく黙ってろよ!
俺の腕が振り抜かれると、もうそこには奴らの姿はひとつもなかった。助けられた女も何が起きているのかわからなかったろう。急激に冷やした熱は爆発的な力を生み出す。俺の腕の性質は日と月を合わせ、温度差の爆発で持って敵を倒した。目の前の打ち取る敵に情け容赦など必要ない。前世では気の弱いように見えたろうが、まだまだ甘い。目の前の巨悪から救い出すにはそれ以上の力がないといけない。全部が全部いいことなどとは言えないだろうが、俺の手で救えるやつはまとめて救ってやらぁ。
ポカーンとしている助けた女。そうだ、俺の名前はシンプルがいい。
「俺様の名前はマリってんだ。救済活動家ってことにしといてくれ。それじゃ」
助けた女の目の前から失せると、体は音を立てずに崩れて元の気体に戻る。
いかんせんそっちの方が疲れることがないのだ。自然体は当然魔力だからな。マリ状態はいわばヒーローで言うヒーローのユニフォームを着ているようなもんだ。
……これが始まりだ。俺の魔力の第一歩だ。苦悩だらけのこの世界に、終止符を打つものだとここに高らかに宣言してやろう。クソ女神よ、世界を救ってやらぁ…………!
果てしない苦悩が体を蝕み、襲い掛かるとも知らずに。
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