第一章 転生

#1 末路

 俺の名前は真理まこと とわり。どこにでもいるような普通の大学生ぼっち。あ、ぼっちって重要な一つのワンアクションやからな?一人って本当は楽しいんだかんな?悲しくなんてねぇよちくしょう……っ!

 その割に、俺はお人好しだってよく言われる。ぼっちのくせに、困っていたギャル女の宿題を手伝ってやったりもしたし、サークル活動が滞っているところにただ誰にも感謝されることもなく走り出して救ってみせた。自分にならなんでもできるなんてそんな大そうな自信はないが、それでも自分が見た範囲だったら、頑張って救う。

 それが唯一俺にできることの証明につながると信じてやったんだ。


 そんな証明つまらないことを考えながら、適当にのんびりと道を歩いていると、女が雪の道で滑り出したコンクリートミキサー車の下敷きになりかけているじゃねぇかよ!いますぐ助けにいかないと……!

 ……っ!なんで周りは見てるだけなんだよ!周りの奴は自分の保身を考えて、救える命であるあの女を助けないんだ?!

 いつもそうだった。死んでいった人間を知ったように言っては「あれは仕方なかった」「どうすることもできなかった」なんてクソみたいな言い訳ができる。

 違う、違うだろうが!今ここで助けられるのはだ!答えてみろよ、俺の魂!

 今ここでもたもたして動かなきゃあの女が死ぬ!懐かしさを覚えるあの女は、どこか悟ったような表情でこちらを見る。にこりと笑って前を見据えている。

 死ぬ覚悟ができてる笑顔だと?なんだそれ…………助けないわけにはいかないだろ!彼女の命を守る、それだけで十分なんだ!この俺の魂の叫びは彼女に届かぬともそれでいい!!


「うぉぉぉぉおおお!!待ちやがれぇぇぇええ!!!」


 手を伸ばし女を突き飛ばして、倒れかけていたコンクリートミキサー車が倒れる範囲外へ突き飛ばす。もうミリというところで、俺の足は雪に取られて動くことはできない。

 そんな顔すんなよ、名前も知らん女よ。俺は大丈夫だ、死んでも後悔のない人生だ。投げ打ってでも飛び出していい人生だ。

 その一瞬は何十秒にも何百秒にも圧縮された。時の中で自分はこれで終わってしまうんだと。そんな時に願った。他力本願ではなく、自分の力でどうにかしてぇなと。


 俺は人生からgame overした。

 お人好しの末路はこれだと言わんばかりの、ゲームやSNSで言うログアウトだった。


 一人つまらなそうに、その様子を見つめるものが一人。騒ぎ立てて、何某かに電話をする女や男たち。その群れは哀れにも、つまらなそうにしている者には気づかなかった。何にも気にすることはなく、自分達は悲劇を目の前にした被害者なのだと。一人の男を見逃した加害者であると言う事実に目を背けて。一生を過ごすのだろう。時には酒の肴にしたり、時には井戸端会議に出てきたりと、用途は様々である人の死は、随分と随分と身近にある。








「ここぁ、どこだ?」


 何にもない、黒い部屋。光すら差すことなく、これが本当の深淵です(ニッコリ)みたいな感じでこちらを見つめているかのような空間。


「あなたは死んだのです。無様にもバスに轢かれたでもトラックに轢かれたとか言う、テンプレート異世界転生モノには全く存在のしない、まさに前代未聞のコンクリートミキサー車に押し潰されて死んだのです」


 この女は一体全体なんだっ!?頭がはちゃめちゃハッピーでイカれてんのか?すごい失礼なことを言うやつだな、俺が何をしていたなんか、俺が一番…………あれ、あるぇ?記憶がない……だと?


「気づかれましたか?気づかなくてもよかったのですが。まぁ気づいたのなら説明して差し上げましょう」


「なぜ上から……。まぁ聞きますけどね。あぁ!もちろん!聞きますとも!」


「よろしい。あなたは女の子を庇って死にました。コンクリートミキサー車が女の子の方に向かって倒れてきていたのですから。豪雪でしたからね、そんなこともあるんでしょうねぇ」


 そう、そうだ。俺は確かに手を伸ばして、女の子の命に手を伸ばして助けた。そして、あっという間に圧縮された時間をかけてここへと辿り着いたと言うわけか。


「えぇ、あなたはコンクリートミキサー車に押し潰されました……それも無様に残虐に!」


「(こいつは一旦無視だな)……助けた女の子はどうなったんだ?」


 それが一番知りたい情報で、そのほかのことは割とどうでもいい。異世界転生なんて望んでるわけじゃないし、自分は成し得れた、救えたのかが気になる。


「無事ですよ…………あなたの前に元気に生きています」


 …………は?いやいや、は?嘘だろ……?この悪趣味女(推定女神)自分が死ぬとこ助けさせて俺が死んだって言うのん?はへぇ、どうにかなっちゃいそうですよ……。


「あなたはぁ、無意味にもこの私を助け、女神からの祝福を受けましたぁ!おめでとうございますぅ!そして、あなたには転生していただきます。犯罪の横行している世界に。善人って、なんか見ていてイライラするんですよね。キラキラしていて、とても気分の悪い。だから転生してもらうことにしました、あなたの小さなハッピーバイバイです!お疲れ様でしたぁ(笑)あ、ハッピーなんてあなたの人生に存在していないんですけどね!!」

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