Episode3
プロローグ
港区の一角、目黒通り沿いに建つ建物の中で、長身の男が立っていた。
一八六センチの身長と筋肉質の体躯は見る者に威圧感を与えるが、目の前の相手は委縮など一切していない。
「ターンアップ」
長身の男—――
『Turn up. Complete.』
電子音性が反応し、巡の体が緑色の装甲に包まれる。
『MRT-System, starting up.』
頭部は一分の隙もなく装甲に覆われ、ゴーグル型光学センサと右側頭部から二本のセンサブレードが伸びている。胴体は元より、両腕両脚も重厚な装甲に覆われ、ただでさえ大きな体が二.五メートルにまで伸長され、まるで人型ロボットのようだ。左右の前腕にはそれぞれ一.五メートルの四砲身ガトリングガン、背部にはこれもまた長大な、折り畳まれた状態でも二メートルある砲身、
更に、法衣のように見える、肩を起点に前面と側面を保護する追加装甲がより機体を大きく見せ、武装と装甲で増加した重量による機動力低下を補うために、背部と背腰部には二対ずつ大型偏向スラスターが装備されている。
その威容を前にして、目の前の相手—――五匹の猿は動じるどころか敵意を剝き出しにして威嚇している。ただの猿ではない。体長一.三メートルの体は額や胴、手足が装甲化され、前足の爪は手術に使うメスのように小さいが鋭利であり、集団で襲われたらひとたまりもないであろう相手だ。
猿が一斉に跳び出す。
巡に向かって放射状に広がって向かってくる。
彼我の距離、十メートル。
こんな距離、すぐに詰められてしまい、巡の体は猿に纏わりつかれてしまうはずだ。
だが、巡に焦りはない。
猿の踏み込みと同時、巡は両腕を水平に上げる。腕のガトリングガンがスライドし、前面に迫り出す。
キィィィン、と甲高いモーター音。
頭部装甲内の
『Rock!』
巡の目に映る、補足したと告げる表示。
ドガガガガガガガガガガガガ―――――――――――――
ドガガガガガガガガガガガガ―――――――――――――
毎分三〇〇〇発で一四.五×一一四ミリ弾を発射するガトリングガンが左右一基ずつ。無数の銃弾が、十発に一発混じっている曳光弾が破壊の軌跡を目視させる。
高速で左右に飛び回る猿の動きを、搭載された演算機が一匹につき五一二通り予測する。装甲部分に当たった場合とその損傷具合を自動検証し、生身の部分に当てることの効果と必殺を狙えるかの判断まで、全て搭載されたAIが下す。
工事現場よりも喧しい発射音は、ほんの三秒ほどで止んだ。
それぞれの猿に数十発ずつ弾丸を撃ち込むと、その体が赤いポリゴンとなって消え去った。
『ケース
室内にアナウンスされる無機質な女性の声を聞き、巡は両腕を下した。
『試験工程終了。評価A+。お疲れ様でした』
感情の籠らない声音に対して何を思うこともなく、巡は装着を解いた。
MRT-6〝サーベラス〟。
Master of Reckoning in Tactics(計算された戦術の支配者)のコンセプトの下、MES白金ビルで改修された第一.五世代TelF。重装甲と高火力を有するこの機体は、江東ビルで試験中の重装甲
アトラスが正面突破、ケイトスが後方支援ならば、サーベラスは機械化歩兵に随伴する制圧射撃を意図して開発された。しかし、数々の試験結果から、すでに敵を釘付けにして行動を制限する制圧射撃ではなく、堂々と敵前に立ち殲滅する力があることを証明しつつあった。
「森田さん」
後方の分厚いドアが開き、そこから巡と同年代の—――二十代半ばの青年が顔を出し、声をかけた。
「お疲れ様です。試験良好みたいですね」
「ああ、松本さん。見てましたか」
「一休みしたら、一緒に現場出ません?こっちも少し実戦形式で試してみたいことがあって」
「いいですよ。一服したら行きましょう」
二人は親し気に言葉を交わしながら、今いる試験場—――MES白金ビルの一階から外に出た。
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