第27話 血だまりの中で…
金色の霧のように広がる光は、瞬く間にメサルティムとパーシヴァルを包んだ。
「フィールド固定。リアライズ、スタート」
メサルティムに収められている一〇二四の武装、それらのうちのいくつかが、霧の中から銃身を迫り出し、騎士へと銃口を向ける。
その数は十や二十ではない。
XM2012B 二〇ミリマスケットキャノン〝アタマンティス〟一二丁。
M82系列対物ライフル八丁。
M134EX ジェノサイダーガトリングガン二基。
PGM/M ヘカートⅢ対物ライフル四丁。
OSV-96M ヴァローナ対物ライフル四丁。
M870MTW デミウルゴス多目的破砕散弾砲二丁。
RPG-18、22、28、30、各二基。
XM806A2 ヤルダバオト重機関銃四丁。
…………他二〇丁。
そんな無数の殺戮兵器が、パーシヴァル一点を狙っているのである。
「FASコネクター、接続」
「クハハっ」
パーシヴァルはその光景に危機感――ではなく更なる愉悦を覚え、真横へと駆ける。
が、霧と砲身がその動きを追うように、常にパーシヴァルを中央に固定するために移動していく。
「無駄だ」
大介は冷徹に告げる。
「なにをっ」
パーシヴァルは逃げることを諦め、短槍ミスティルテインを両手に物質化し、メサルティム目掛けて投擲する。
ドウン――ドウン――!
しかし、槍は大介を貫く前にマスケットキャノンの二〇ミリ弾に叩き落された。
「無駄だ、と言ったはずだ」
砲弾を放ったアタマンティスは霧の中に消えていったが、代わりに二丁のNSV重機関銃が出現し、騎士へと銃口を向けた。
一発でも喰らえば体のどこかが消えてなくなる大口径銃弾・小口径砲弾に囲まれた状態で、パーシヴァルは打つ手をなくしていた。
「ふ、フフ…、ハッ……」
その状況下でも、パーシヴァルは笑っていた。
全身を震わせながら、彼女は笑っている。震えは恐怖から発せられるものではなく、歓喜から来るものだった。
「ホント、あなたって、わたしを気持ちよくしてくれるわよね。フッハハハ…」
気でも触れたか、と言おうとして、大介は言葉を飲み込んだ。
(元から狂ってるしな。いや、そう思うのも酷か)
HMD内の照準をパーシヴァルに向け、尚且つ逃げ道がないようにその周囲にも照準する。速く動くならば、その移動力を含めた全域を瞬時に穿てばいい。単純な火力による面制圧であるが、単純であるが故に逃げ道はない。
それをわかっていながら笑うほど、パーシヴァルは壊れてしまっているということなのだろう。
「おかげで、もうイっちゃいそうよぉっ!もう、溢れちゃってるんだからぁっ!」
哄笑を上げながら、右手に炎熱槍、左手に投擲短槍を呼び出し、大介を見据える。
そして、駆け出した。
「アハハハハハハハハハハハハハハハハ―――――――――――――――――――」
「―――ファイア」
同時に、大介は全武装のトリガーを起動させた。
ズダダダダダダダダダダダダダダダダダダ――――――――!!
ドウンドウンドウンドウンドウンドウン―――――――――!!
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガ――――――――!!
ボウンボウンボウンボウンボウン――――――――――――!!
ドゥババババババババババババババババババ―――――――!!
パーシヴァルの笑い声などかき消すほどの銃撃・砲撃音が、空間の音を支配する。聞こえるのは火薬が爆発する音のみ。それ以外は些末な、集音して解析しなければわからないほどのノイズと化していた。
金属の雨の中を、パーシヴァルは大介に向かい進んでいく。迫り来る砲弾を炎熱槍で切り裂き、短槍を投げて迎撃する。
しかし、圧倒的な火力の前に、その反撃はあまりに微力すぎた。
投げようとした槍が左掌ごと撃ち落され、一二.七ミリ弾が左膝から下を消し飛ばし、よろめいたところに掠った二〇ミリ砲弾が右肩の肉を抉り、RPGの爆風が皮一枚で繋がった右腕を胴から切り離した。
「カファハハハハハハハハハハハハハッ―――――――――」
右腕から取り落とした槍を、器用に口に咥えながら、パーシヴァルは片足で跳ねるように走る。
至近距離の爆発で鼓膜は破れ、脇腹は変形した甲冑によって圧迫されている。真横から放たれた銃弾が甲冑を貫通して大きな乳房を破裂させるが、パーシヴァルの勢いは変わらない。唯一残っている右足の甲冑からはびちゃびちゃと血を撒き散らしているし、肩口からは噴水のように血潮が奔っている。
その状態でも、パーシヴァルは大介の目前まで迫り、大きく跳ね上がった。
狂気と愉悦の入り混じった表情で、パーシヴァルは大介を見下ろしていた。
跳び上がった瞬間に右大腿部が弾け飛んだが、それでも騎士は大きく首を振り、その力だけで炎熱槍を投擲しようとする。
「カハハハハハハハハハハハハハッ――――――――――――あ?」
が、首を大介の方に振ろうとした瞬間、弾丸が左肩に命中し、左胸ごと血煙へと変えた。さらに、一拍遅れて到達したもう一発の弾丸が右目に命中し、頭部を粉砕した。
ぼとりと落ちる、五体を散らした甲冑と槍。槍はジュゥと地面を焼くが、すぐに熱が引き、煙も消えた。そして、甲冑は粒子を放ちながら消え去り、全裸の女の遺骸が外気に晒された。
首の上には下顎のみが残り、豊満だった胸は肋骨を露出し、断面は挽肉を詰めているかのようだ。それが、彼女が駆けてきた軌跡――まるでレッドカーペットだ――の終着点で、一際大きな赤い水溜りに浮いている。
大介は、そんな頭も腕も脚もない骸を見下ろす。
残っている太腿からは、血液とは違う、白く濁った液体が伝っていた。
「…………」
大介は背を向け、歩き出す。
見慣れた光景のはずだ。戦場では、体が欠損した死体を何体も見てきたし、そういう死体を自ら生み出していた。
だが、何かが心に突っかかっているようで、大介は後味の悪さを感じていた。
「急ぐか」
後ろ髪を引かれながらも、大介は歩き出す。和也と優樹がどうなったのかも気になる。必要ならば、加勢しなければならない。
「――っ」
と、大介は膝をつき、頭を押さえた。
「ちっ、やっぱり、試作機ってのは厄介だな……」
演算補助システムを使用しているとはいえ、同時に六四基の照準と射撃管制はメサルティムのシステムだけでなく、大介の体にも大きく負担をかけるものだ。
「
ふらつきつつ、大介は自身の体を叱咤しながら、他の戦場を目指して歩き始めた。
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