第五章 ~『丘からの砲撃』~


 ギンに先導される形で森の中を進む。辿り着いた先にはゴブリンの砦が待っていた。砦の外周は柵で覆われ、物見やぐらの上には監視役のゴブリンアーチャが立っている。茂みの影から様子を伺っていたアリアは、神妙な顔付きに変わる。


(ゴブリンアーチャですか……)


 弓を装備したゴブリンで長距離攻撃が得意な魔物だ。ランクEと評価されているため、オークと同等の力しかない。アリアなら苦戦することもない相手だが、警戒を怠ることはない。


(見張りにゴブリンアーチャを据えているなら、砦の中にはランクD以上のゴブリンがいそうですね)


 集団を仕切るボスとなるゴブリンがいるはずなのだ。その相手が分からない状態で、砦を襲撃するのは不用心である。


(ですが見過ごすこともできませんからね)


 ゴブリンは知能が高く、人や家畜を襲う。放置しては、森を開墾しに来た作業員が危険だからだ。


(安全第一に駆除するとしましょう)


 ただ課題もある。砦から逃がしてしまうと、森に紛れられてしまう。一網打尽にした上での駆除が求められた。


(何か良きアイデアでもあればよいのですが……そのためにも、まずは敵情視察といきましょうか)


 アリアは森の中へ引き返すと、丘の上まで移動する。砦を見下ろせる絶好のスポットに思わず笑みが浮かぶ。


(砦までの距離が遠すぎで常人なら細かな様子まで見えません。ですが、私には遠視の魔術がありますからね)


 魔術を発動すると、ズームアップされたように、視界が拡大される。砦内部の細かな動きが把握できるおかげで、強敵の発見も容易だった。


(ゴブリンウィザードがいますね)


 ランクDの魔物で、サラマンダーと同じ炎の魔術を操る。厄介な敵だが興味はない。


(既に習得済みの炎魔術を手に入れても意味はありませんからね。倒してしまいましょう。他には……)


 次に目に入ったのはゴブリンライダーだ。猪に跨り、砦の中を巡回している。ランクEのため魔術は使えないが、機動力の高さから油断できない相手だ。


(あとゴブリンチャンピオンもいますね。魔術も使える強敵ですね)


 オークよりもさらに巨躯で、筋肉質な肉体をしている。ランクCの魔物で、『耐久』の魔術を使う気の抜けない相手である。


(ランクCがいるなら全力で戦わなければいけませんね)


 アリアたちの戦力ならランクCとも戦える。だが油断すれば足元を掬われる。それほどの難敵だ。加えてアリアはゴブリンチャンピオンの耐久魔術にも興味があった。


(耐久の魔術は回復魔術との相性も最高ですからね。この機会に手に入れておきたい力です)


 耐久はパッシブスキルで自動発動しており、致命傷となる一撃を受けた時、ギリギリで生き残る確率を上げてくれる力だ。


 アリアは自分の傷も癒せるため、命さえ維持できれば傷を負っても回復できる。運命さえ感じるほど相性の良い力との遭遇に闘志を燃やす。


(ですが、これほどの軍勢を一度に相手にするのはさすがに私でも……)


 シンに助力を頼む手もある。だが忙しい彼の手をできる限り煩わせたくはない。そんな思いを抱きながら、空を見上げる。夕日の明るさに目を細めながら、一つのアイデアが浮かぶ。


(妙案が浮かびましたね♪)


 アリアが選択した手段は待ちだ。何もせずに、ただひたすら夕日が沈んでいくのを見守る。


 周囲が暗くなっていくに連れて、ゴブリンたちも砦内の住居に戻り始める。ゴブリンは昼行性だ。夜の彼らは大人しく眠るのだ。


(この暗さなら奇襲も成功間違いなしですね)


 アリアは手の平に魔力を集中させる。丘の下の砦を見下ろしながら、殲滅の砲撃を放った。


 魔力が炎の矢に変換され、雨のように降り注ぐ。静まり返ったゴブリンの砦を炎が焼き尽くしていく。


(ゴブリンチャンピオンの住処は重点的に狙わないとですね)


 どの住処で寝ているかは確認済みだ。無数に降り注いだ炎の矢に焼かれ、建物が倒壊を始める。


(そろそろ倒し切れなかったゴブリンが慌ててくる頃でしょうか……)


 建物の外にゴブリンが飛び出してくる。無差別な爆撃だったため、無事な個体がいることは想定内だ。


「ドラ様、任せました」

「キュイ♪」


 アリアが広範囲を攻撃している間に、ドラが細かな敵を狩っていく。口から炎を放ち、狙い打つようにゴブリンを丸焦げにしていく。


「さて、ほとんど倒せましたかね」


 砦内部は炎で燃え上がっている。白煙が上がり視界が塞がれているため、すべて倒し切れたと確信できないが、魔術の威力を考えると数えるほどしか残っていないだろう。


「最後の仕上げといきましょう。ギン様、ドラ様。行きましょうか」


 アリアは相棒たちを連れて、ゴブリンの砦へと向かう。残党狩りと魔石の回収、二つの目的を果たすため、丘を下るのだった。

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