第五章 ~『新しい仲間』~


 屋敷を飛び出したアリアは東側の森を訪れていた。シンはおらず、今度は一人で森に足を踏み入れることになったが恐怖はない。


 それよりもむしろ、共有の魔術を使ってみたくてウズウズしていた。そんな彼女の期待に応えるように、茂みが不自然に揺れる。


(さっそく現れましたね)


 茂みから飛び出してきたのは、棍棒を手にしたゴブリンだ。召喚獣の力を借りれば、赤子の手を捻るより簡単に倒せる相手である。


 だがアリアはギンたちを召喚しない。共有の魔術の効果で、シルフから譲り受けた水魔術を発動させる。


 空中に浮かんだ水球を弾丸のようにゴブリンへと発射する。スピードの乗った一撃はゴブリンを吹き飛ばした。


 衝撃で周囲の樹木までへし折れており、その破壊力が伺える。シルフが使っていた水魔術と遜色ない威力に彼女は満足する。


(これで私も戦えることが証明されましたね。あとはターゲットのシャムニアを発見するだけです)


 アリアが強くなったのは、シャムニアを倒して転移魔術を手に入れ、自由に温泉に浸かれる生活を手に入れるためだ。そのためなら努力を惜しむつもりもない。


(でも手掛かりがありませんからね……そうだ、フェアリードラゴンに会いに行くとしましょう)


 シャムニアはフェアリードラゴンの天敵だ。会えば情報が手に入るかもしれない。


(それにまた葡萄をご馳走してもらえるかもしれませんからね)


 そんな思惑を秘めながら、記憶を頼りに果樹園へと向かう。だが向かった先には凄惨な状況が広がっていた。


「これは……」


 葡萄畑はボロボロに荒らされている。果実も食い荒らされ、無残な形で地面に転がっていた。


(いったい何が起きたのでしょうか……いえ、それよりもフェアリードラゴンがいません!)


 悪寒を感じながらもフェアリードラゴンを探す。呼びかけても反応はなく、最悪の想定が頭を過る。


「この魔石は……まさか!」


 予感は的中していた。地面にクレータのような穴が空き、戦った痕跡が残された場所に、魔石となったフェアリードラゴンが転がっていたのだ。


 傍には猫の毛も落ちている。畑を荒らした犯人が、猫型の魔物のシャムニアであると確信に至る。


(シャムニアがフェアリードラゴンをいたぶるだけに留めたのは、この果樹園の場所を突き止めるためだったのかもしれませんね……)


 アリアは気づかなかったが、遠くから監視されていたのだろう。救えなかった無力感に奥歯を噛み締める。


(このままやられっぱなしは悔しいですよね)


 アリアは魔石を拾い上げると、収納袋からシルフの魔石を取り出して、互いを近づける。


(いつもなら魔術だけを抽出して融合させていますが、フェアリードラゴンは心の優しい魔物でしたからね)


 できるなら人格と肉体も残してあげたい。その想いを叶えるように、回復魔術による光の輝きが放たれ、二つの魔石が混ざり合った。


 青と白が調和した魔石は、宝石のような輝きを放っている。見惚れるほどに美しく、アリアも初めて見る石色をしていた。


(頼りになる仲間が生まれてくれそうですね)


 回復魔術で魔石から魔物を召喚する。シルフとフェアリードラゴン、二種の人格、肉体、魔術が混ざり合い、新種の魔物が誕生する。


 生まれたのは手のひらサイズの小型のドラゴンで、青と白の龍鱗に覆われていた。ピクシーの特徴である強い魔力を放ちながらも、フェアリードラゴンの屈強さを引き継いでいた。


「これは……エンシェントドラゴンの子供ですね……」


 親ならランクAに相当する怪物へと変貌を遂げた。強力な仲間が味方になってくれたことが嬉しくて、つい抱きしめてしまう。これから共に戦っていくパートナーに愛情を伝えるように、優しく頭を撫でると、嬉しそうに鳴き声をあげる。


「キュイ」

「可愛いですね~」


 エンシェントドラゴンの愛らしさに我慢できずに、アリアの口元に笑みが浮かぶ。すると、続くように彼女の頭の中に声が届いた。


『マスター、新しい肉体でもよろしくお願いします』


 エンシェントドラゴンはシルフの念話の力を引き継ぐだけでなく、人格もしっかりと残っていた。融合は成功したのだと嬉しくなる。


「新しい名前は何にしましょうかね……エンシェントドラゴンですから、ドラ様で如何でしょうか?」

『良き名前です。気に入りました』

「ふふ、ではドラ様。これからも頼りにしてますね♪」


 アリアは新しい仲間を歓迎し、ドラもまたそれを受け入れるのだった。

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