第五章 ~『ランクBの魔石を求めて』~
翌朝、アリアは市場を訪れていた。ガラス張りの天井に覆われた区画では魅力的な商店が並んでいる。
食欲を誘う香りや食材に吸い寄せられそうになるが、何とか誘惑に負けずに目的の店へと向かう。
人気の少ないエリア、その中でも一際不気味な雰囲気を放つ店へと辿り着いた。店先には種類豊富な魔石が並べられており、店主のバージルが手を挙げて出迎えてくれる。
「君が市場を訪れるなんて久しぶりだね」
「買いたいものがあって……でもバージル様が今日も店番をしているとは思いませんでした」
「お客に魔石を買ってもらうのが僕の趣味でもあるからね」
アリアが視線をバージルの手元に下ろすと、光が反射するほどに磨かれた魔石が目に入った。丁寧な仕事振りから、この仕事を本当に気に入っているのだと伝わってきた。
「それでどんな魔石が欲しいんだい?」
「できればランクB以上の魔石が欲しくて……この店で扱っていますか?」
「残念ながらすぐに用意はできない。なにせランクBは貴重品だからね」
そもそもランクBの魔物を討伐できる冒険者が希少なのだ。必然的に魔石の希少価値も上がる。
「ただ入手は不可能ではないよ。持っている人に心当たりがあるからね」
「本当ですか⁉」
「僕の兄たちだ。彼らなら確実に持っているはずだ」
バージルは茫洋とした視線で遠くを見据えながらそう答える。表情から感情はうかがえないが、何か思うところがあることだけは伝わった。
「バージル様のお兄様たちは、ランクBの魔物を倒せるのですね」
「あいつらは僕やシンとは違うからね。桁違いの実力者ばかりだ。それこそ同盟を結んでも敵わないほどにね」
シンとバージルが同盟を結んだのは上位皇子の勢力に少しでも近づくためだ。だが同盟を結んでも、現状の勢力ではランクBの魔物を討伐できない。一方、他の皇子たちはランクBを楽々と討伐する。
力量差を改めて実感し、アリアは固唾を飲む。シンを皇帝になるまでの道のりはまだ遠いのだと理解した。
「兄たちに魔石を譲って欲しいと頼むつもりだが、さすがに無料ではくれないだろう。ランクBの魔石は中級魔道具に加工できる貴重品だしね」
「資金には余裕がありますから。お金のことは気にしないでください」
マリアは収納袋から金貨を取り出し、カウンターの上に山を築く。輝く黄金にバージルは目を見開いた。
「裕福なんだね」
「魔物をたくさん狩ってきましたから」
魔物を倒すと、討伐報酬だけでなく、魔石の売却益も得られる。そのほとんどに、アリアは手を付けてこなかった。
今までの努力の結晶こそがこの金貨の山であるが、ランクBの魔石にはそれだけの価値があると、アリアは判断していた。
「バージル様の手数料も言い値で構いませんよ」
「いらん。僕と君は友人だからな」
「ふふ、では恩に着ますね」
バージルに友人だと認められたことが嬉しくて、口角が上がる。彼も釣られるように笑みを浮かべた。
「用意ができ次第、魔石を屋敷に持っていく。早ければ明日には、遅くとも一週間以内には結果を伝える」
「心待ちにしていますね♪」
ランクBの魔石が手に入れば、アリアの戦力は大幅にパワーアップする。彼から魔石が届けられるのを期待しながら、彼女は心を躍らせるのだった。
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