第五章 ~『シンの助力』~
サンドイッチを食べ終わったアリアたちは、家臣たちの元へと向かう。彼らは鍬を振り下ろし、土壌を掘り起こしていた。
「師匠は手伝うと申し出てくれたけど、何かアイデアがあるのかい?」
シンはアリアの性格を知っている。彼女が貢献するといった以上、ただ鍬を振り下ろすだけで終わるはずがない。画期的なアイデアがあるはずだ。
「ふふ、それは見てからのお楽しみです」
アリアは収納袋から魔石を取り出すと、シルフを召喚する。つぶらな瞳に、蝶のような虹色の羽、可愛らしい少女の顔をした魔物が空に向かって飛んでいった。
「任せましたよ、シルフ様」
鍬を振り下ろすだけが、土を掘り返す手段ではない。アリアの命を受け、シルフは土の魔術を発動させる。
地震でも起きたかと錯覚するほどの揺れが起きた後、魔力によってコントロールされた大地が掘り返されていく。農作業に適した柔らかい大地へと変化していき、水や空気を作物が吸収しやすい土壌へと仕上がっていく。
「さすが師匠だ。土魔術まで使えるとはね」
「シルフ様がいてくれるおかげですよ」
魔力に限界があるため限度はあるが、それでも開拓に大きな貢献ができる。小麦畑の完成時期はグッと早まったはずだ。
(望むなら、もう少し開墾を手伝ってくれる人たちがいれば……)
人手が増えれば進捗も進む。助っ人がいてくれればと願った時、見知った顔が駆け寄ってきた。目の下に浮かんだ隈は忘れもしない。シンの兄である第七皇子のバージルだ。
「バージル様、どうしてここに?」
「人手がいるだろう。手伝いに来たんだ」
バージルとシンは争う仲だったが、褒美として与えられた『千里眼の魔鏡』を譲ったことで、兄弟の絆を取り戻すことができた。
(私は妹のフローラと仲違いしたままですが、シン様には仲良くしてもらいたいですからね)
兄弟が仲良くできるならそれに越したことはない。善意で開拓を手伝うような関係性に修復されたことを素直に嬉しく思う。
「僕の後から家臣たちも助けに来る手筈になっている」
「兄さんの助力、恩に着るよ」
「僕たちは同盟関係だからな。困っているなら助けるとも」
シンとバージルは上位皇子と戦うため手を組んだ。ライバルたちは強敵だ。力の劣る二人だからこそ、協力し合うことは重要だった。
「もちろん、同盟を結んでも、最後に皇帝になるのは僕だけどな」
「兄さんが相手でもそこは譲れない。皇帝になるのは私だ。そして領民を幸せにしてみせる」
視線で火花を散らせながらも、友好的に二人は口角を上げる。健全なライバル関係となれたシンたちのことを、アリアは微笑ましいと感じるのだった。
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