第二幕
第五章 ~『開拓地とサンドイッチ』~
アリアの功績により、シンたちは開拓地を褒美として与えられた。場所は帝都の東側。アリアがいつも魔物狩りのために出かけていた北側とは別のエリアだ。
(皆さん、頑張っているようですね)
シンの家臣たちが鍬を使って大地を耕していた。水平線の向こう側には緑が残っているが、視界のほぼすべてが土色に変わっている。彼らの頑張りが一目で理解できた。
「アリアさん!」
家臣たちを監督していたカイトが、アリアを見つけて駆け寄ってくる。刀を腰に差し、武装した状態だ。
(一応、ここは壁の外ですものね)
視界が開けているため察知はできるが、魔物の脅威がないわけではない。カイトは監督役を務めながら、護衛役も担っているのだ。
「今日はどうしてこちらに?」
「皆さんに差し入れを持ってきたんです」
「おお、それはありがたい。どうぞ、こちらへ」
カイトに案内され、数分ほど歩くと、芝生の上にガーデンテーブルが並べられた場所へと辿り着く。将来的に開拓された土地は畑になるため、働く人たちの休憩所になるのだろう。そこには見知った顔もあった。
「シン皇子、アリアさんが差し入れを持って来てくれましたよ」
「ありがとう、師匠」
シンはテーブルの上に広げていた書類を片付けると、歓迎するように笑みを浮かべる。
「シン様はこちらで仕事を?」
「家臣たちが開拓作業で頑張ってくれているからね。私はその分、書類仕事に集中していたんだ」
シンもまたカイトと同じように武装している。緊急時にいつでも戦えるように、皆の傍で仕事をしていたのだ。
(お二人の頑張りに報いてあげたいですね♪)
アリアはアイテムを無限に収納できる魔法の袋から大皿を取り出すと、ガーデンテーブルの上に並べていく。皿の上にはサンドイッチが山のように積み上げられている。これは家臣たちが食べる分も用意したからである。
「このサンドイッチをすべて師匠が?」
「早起きして頑張りました」
「やっぱり師匠は優しいね」
微笑みながら、シンはポットからカップに紅茶を注いでくれる。ポットは保温の機能を持った魔道具なのか、人肌の温度に温められていた。
「家臣の皆さんも呼びましょうか?」
「さっきお昼を食べたばかりだからね。夕飯として残しておいてあげよう」
「それはタイミングが悪かったですね」
「そうでもないさ。私とカイトは仕事を優先して、昼食を抜いたからね。運が良かったよ」
部下たちの休憩を優先する二人に尊敬の念を覚えながら、アリアも二人と一緒にサンドイッチを手に取る。噛り付くと、口の中にハムとチーズ、そしてレタスのシャキシャキとした感触が広がっていった。
「師匠の作るサンドイッチは絶品だね」
「ふふ、素材にこだわりましたからね」
「このパンも少し酸味があるね」
「ライ麦パンを使いましたから。チーズと良く合うんですよ」
皇国の主食は米だ。パンを食べる機会が少ないため、シンもカイトもライ麦のパンを食べるのは初めてだった。
「ライ麦のパンも美味しいね」
「皇国では麦といえば、大麦ですか?」
「小麦も採れるけどね。でも価格が高いんだ。なにせ小麦のパンは美味しいからね」
ライ麦と違い、小麦のパンは柔らかくて甘味も強い。フルーツを挟んだサンドイッチなどを作るなら小麦は欠かせない材料だ。
「でもこれからは違う。この開拓地は、小麦畑にする予定だからね」
「いいですね。ここの土地との相性も良さそうですから」
ライ麦畑は寒冷な気候や、土壌に栄養が少なくても栽培することができる。ただ小麦はそうはいかない。温暖な気候と栄養豊富な土壌が求められる。与えられた開拓地はそういった条件を満たしていたのだ。
「この開拓地を欲したのも、小麦畑が欲しかったからなんだ。これで私の領民たちは今までより安価に小麦を楽しめるようになる。それに新しい材料を得たことで、名産品も生まれるかもしれない」
シンの領地には他の領地に売れるような名産品がない。だが小麦があればパンやうどんを生産できる。しかも帝都のすぐそばから、輸送のコストをかけずに販売できるのだ。
「やっぱりシン様は人の上に立つ逸材ですね」
「そんなことはないさ」
「ふふ、そんなシン様だからこそ力になりたい……どうか私に開拓の仕事を手伝わせてください?」
腕捲りしながら、アリアは自信を滲ませる。彼女の頭には貢献するためのアイデアが浮かんでいたのだった。
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