第四章 ~『偶然の出会いの演出』~
アイアンスライムの討伐に成功したアリアたちは冒険者組合を訪れていた。受付嬢から討伐報酬の金貨を受け取り、ランキングの更新を期待して待つ。
「おめでとう、あなたが一位よ」
「カイト様、やりましたね♪」
「アリアさんのおかげです」
当初は諦めていたバージルを上回ることができたのだ。二人は互いの健闘を称え、喜び合う。
「我々は優位な状況です。なにせ最終日まで一週間の猶予を残した状態で、ランクCの魔物を討伐できたのですから」
「カイト様が協力してくれたおかげですよ。でも、この猶予期間を利用して、勝利を盤石なものとしたいですね」
ランキングが更新されたことはバージルもいずれ知ることになる。追い上げてくる前に、ポイントで突き放しておきたい。
「アリアさんは心配性ですね。我々の勝利は揺るぎません。なにせ第七皇子ではアイアンスライムを倒せませんから」
「確かに相性は最悪ですからね」
バージルは鏡で対象となる相手を視認し、念じることで状態異常にすることができる。しかし超スピードで動くアイアンスライムを鏡で捉えることは難しい。
かといってアイアンスライム以外のランクCの魔物を討伐することも難しい。グリフォンのように戦闘力の高い魔物は状態異常に陥ったとしても下手な魔物よりも強いため、バージルの部下たちではトドメを刺すことができないからだ。
「ふふ、私は少し心配性なのかもしれませんね。この成果を素直に喜ぶとしましょう」
「なら前祝いでケーキでもどうですか?」
「私、甘い物には五月蠅いですよ」
「奇遇ですね。私もです……実は近くに美味しい洋菓子屋がるあるので、そこで買って帰りましょうか」
「カイト様の舌を満足させるほどのケーキなら、食べるのが楽しみですね♪」
二人は受付嬢に礼を伝え、冒険者組合の傍にある洋菓子店へと向かう。煉瓦造りの瀟洒な店構えだ。中に入ると、甘い匂いが漂い、食欲をそそる。
「いらっしゃいませ」
年は三十の中頃か。痩身の店員女性がカウンター越しに笑顔を向けてくれる。ガラスケースに並ぶ色鮮やかなケーキに目を惹かれながら、どれを食べたいかと逡巡する。
「ここのケーキはどれも絶品ですよ。なにせ第二皇子の経営する洋菓子店ですから」
「話には何度も聞いた人ですね……カイト様は第二王子様とお会いしたことはありますか?」
「何度かありますよ。皇族とは思えないほど謙虚な人格者です」
「へぇ~、一度、お会いしてみたいものですね」
噂で聞く限りだと、容姿や財力を含め完璧な人物のように思える。同じ王国の血を引く者同士、話せば打ち解け合える気がした。
「お客さん、惜しいですね。実はさっきまでこの店にいたんですよ」
「皇子様がですか⁉」
「最近、冒険者組合が近くにあるからと頻繁に来てくれるようになって……なんでも自然な出会いを求めているそうで、王国の文化なんですかね?」
「そのような文化は聞いたことがありませんが……」
第二皇子のアレックスがなぜ洋菓子店に顔を出しているのか、アリアには皆目見当も付かなかった。
それもそのはずで、まさか彼がアリアとの偶然の出会いを演出するため、目撃証言のあった冒険者組合近くで、かつ女性が立ち寄りそうな洋菓子店に顔を出していると分かるはずがないからだ。
「でも、この店の常連さんならいつか会うかもですね」
その日が来るのを期待しながら、アリアはガラスケースに視線を戻す。その中の一つ、一番人気と書かれたチョコレートケーキが目に入った。
「カイト様はこのチョコレートケーキを食べたことはありますか?」
「一度だけですがありますよ。チョコの味が濃厚で、きっとアリアさんも気に入る味です」
「ではこちらと、他にもオススメのケーキがあれば詰めてください」
魔物討伐の報酬で金には困っていない。幸いにも屋敷には人がたくさんいる。皆に喜んでもらうため、アリアはいくつかのホールケーキを購入するのだった。
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