第四章 ~『アイアンスライムと罠』~
アイアンスライムは一度戦った相手を二度襲うことはない。そのためアリアはカイトと合流し、彼に協力をお願いすることにした。
「ということで、カイト様の協力が必要なんです。この計画に協力してくれませんか?」
「構いませんが、私でよろしいのですか?」
「もちろん、カイト様がいいんです」
アイアンスライムを正面から討伐すること難しい。そこでアリアは討伐するための策を講じることにした。
「名付けて、罠に嵌めて討伐作戦です!」
「そのままですね」
「シンプルな方が分かりやすくて好みですから」
アリアの策にはカイトの役割が重要だ。そのことを理解したのか、彼は神妙な面持ちへと変わる。
「この策は私がアイアンスライムに優勢にならなければ成立しませんね……ですが、私の力が通じるのでしょうか……」
「カイト様なら勝てますよ」
「断言するんですね」
「皆との修行から帰ってきた後、カイト様が庭で剣の稽古していたことを知っていますから……努力は必ず報われます。あなたなら成し遂げられると私が保証します」
「アリアさん……精一杯、頑張ってみます」
「その意気です。それに倒す必要はありません。私が隠れている方向に逃がしてさえくれれば十分ですから」
アリアの策は用意した罠にアイアンスライムを嵌めるというもの。その罠に誘導するのが、カイトに課せられた役目だった。
アリアは相棒の召喚獣たちを呼び出し、離れた位置にある茂みの陰で待機する。カイトは単独で見晴らしの良い丘陵地へと向かう。
「ではシルフ様は罠の準備を、ギン様はいつでも飛び掛かれるように待機していてください」
主人からの命令を受けた召喚獣たちが行動を開始する中、アリアもタイミングを逃さぬように、遠くからカイトを見守る。
(必ずカイト様なら成し遂げてくれるはずです)
そう期待し、観察を続けると、野草が不自然な揺れ方をする。カイトもまたその揺れに気づいたのか、腰から刀を抜いて、切先を向ける。
「出てこい、私が相手だ」
カイトの挑発が効いたのか、それとも彼を舐めているのか、アイアンスライムは野草から飛び出してくる。
「わざわざ姿を現してくれるのはありがたいな」
カイトは構えた刀を、アイアンスライムに振り下ろした。
ギンの時のように躱されると予想したが、意外にもアイアンスライムは斬撃を受け入れた。
だが渾身の一撃はアイアンスライムの硬さに弾かれてしまう。彼の刀に貫かれることはないと知っていたからこそ、アイアンスライムは避けるまでもないと判断したのだ。
「私の剣がここまで通用しないなんて……」
あわよくばと期待していただけに、カイトのショックは大きかった。その気の抜けた瞬間を狙うようにアイアンスライムが体当たりを加える。放心状態で受けた一撃は、その威力が小さくとも、彼の膝を折るくらいの衝撃はあった。
(このままではカイト様が……)
心を折られ、敗北するかもしれない。だがその心配は杞憂だった。彼の瞳はまだ闘志に燃えていたからだ。
「私も男だ。舐められたままでいられるものか」
カイトは刀を杖代わりにして立ち上がると、息を吸ってから上段に構える。そして肉体に纏っていた魔力の鎧を解除し、そのすべてを刀に集中させる。
(あれならカイト様の一撃も通じるはずです……ですが……)
鎧の役目を果たしていた魔力を攻撃に転じたため、もし一撃を躱され、体当たりを受ければ死んでもおかしくない。
まさに決死の覚悟で彼は一撃を放とうとしていた。
(この覚悟にアイアンスライムはどう応えるのでしょうか)
もしカイトの一撃が命中することがあれば、アイアンスライムは命を落とす。しかしそれは万に一つの確率だ。高速で回避可能なのだから、まず命中することはない。
だがアイアンスライムは逃走を選択する。悪戯で人を襲うような魔物だ。命を賭けるほどの覚悟を持てるはずもなかった。
(さすがです、カイト様)
期待通り、アイアンスライムはアリアたちが隠れている茂みへと向かってくる。勝負は一瞬、すべての決着を付けるため、罠を起動させる。
「シルフ様、いまです!」
声に反応し、準備していたシルフがアイアンスライムの足元に大きな落とし穴を生み出す。
穴そのものは事前に掘っていたものだ。蓋の部分だけを土の魔術で外したことで、アイアンスライムは穴の底へと落下していく。
「いまです、ギン様!」
その落とし穴にギンも飛び込む。落とし穴は狭い。逃げ場さえ奪えば、超スピードも活かすことができなくなる。
「ギン様、無事ですか?」
アリアが落とし穴を覗き込むと、仕事をやり遂げたのか、魔石を咥えるギンの姿があった。討伐に成功したのである。
ギンは落とし穴を駆けあがり、主人の元へと戻ってくる。務めを果たした相棒を称えるように、頭を撫でてやると、ギンは嬉しそうに尻尾を振った。
「やりましたね、アリアさん」
「カイト様の頑張りのおかげです」
ギンから受け取った魔石を、二人はジッと眺める。黒鉄色の魔石は人を魅力するような輝きを放っていた。
「この魔石さえあれば、シン皇子の勝利は確実ですね」
「ふふ、ですね♪」
シンのために喜ぶカイトをアリアは微笑ましく見守る。目的を成し遂げた二人は、この結果を早くランキングに反映させたいと、冒険者組合へと急ぐのだった。
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