第四章 ~『アイアンスライムとの衝突』~
アイアンスライムを討伐すると決めたアリアは、壁の外にある丘陵地にいた。見晴らしがよく、風で草のカーペットが揺れている。まだ魔物の姿はない。
(カイト様の報告だと、この周辺に出現するはずなのですが……)
アイアンスライムは悪戯好きで人を襲う習性がある一方で、逃げるのに適した障害物のない平地を選ぶ狡猾さも持ち合わせている。
さらに臆病な性格のせいで、標的が単独、もしくは少人数でなければ、襲ってくることもない。
このようなアイアンスライムの特徴を把握した上で、アリアは丘陵地に佇み、誘い出そうとしていた。
(どうやら姿を現してくれたようですね……)
緑を掻き分けて向かってくる黒鉄色の魔物が目に入る。気づかない振りをしながら、距離が縮まるのを待つ。
(もう少し、あと少し……今です!)
十分な距離まで近づいたことを確認したアリアは、用意していた魔石からギンを召喚する。主の意図を察しているのか、ギンは召喚されてすぐにアイアンスライムに飛び掛かった。
(タイミングはバッチリですし、これで倒せるはずです!)
ギンの爪がアイアンスライムに振り下ろされる。しかし標的は姿を消し、攻撃は空振りに終わる。
(いったいどこへ……)
消えたと思われたアイアンスライムが、ギンに体当たりを食らわせる。不意の一撃にギンは驚くが負傷はない。カイトの調査通り、攻撃力は低いのだ。
(ダメージがないなら攻めあるのみです!)
反撃を気にしなくていいのなら、大胆な攻撃ができる。ギンは爪で切り裂こうと前足を振るうが、斬られたのは野草だけ。風で緑が舞い、攻撃が外れたことを知る。
(このままでは決着が付きませんね)
ギンの攻撃は命中しないが、アイアンスライムの攻撃でダメージを受けることもない。このままだと拮抗状態に陥る。
そのことをアイアンスライムも認識したのか、諦めたように逃げ去っていく。
「ギン様、追いかけてください!」
ギンが丘陵地を駆け、アイアンスライムを追う。スピードは僅かにギンの方が速いと思われたが、しかし突然、アイアンスライムは魔術によって加速した。姿が見えなくなるほど離れてしまい、ギンは呆然としたまま、諦めてアリアの元へと帰ってくる。
「お帰りなさい、ギン様」
アリアの出迎えに対して、ギンの表情は暗い。主人の命令を成し遂げられなかったことに落ち込んでいるのだ。
「元気を出してください、収穫はありましたから」
ギンの頭を優しげに撫でながら、得られた情報を整理する。
「ギン様の足でも追いつけないスピードは、ただの魔術では説明が付きません。きっと使用用途を限定することで効力を上げているのでしょうね」
この理屈が正しければ、攻撃時に加速の魔術を使用していないことにも説明が付く。あの弱い体当たりは、逃走のスピードを得るために魔術を制限した結果だったのだ。
「次に戦えば、私たちは勝てます」
策を持って挑めば、驚異的なスピードを封じることもできる。アリアは浮かんだ策を実行するため、カイトとの合流に動くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます