第四章 ~『どちらの魔物と戦うか?』~
アリアが皆を率いて戦うと決意してから一週間が経過した。少しでもランクCの魔物との闘いを有利にするため、彼女は魔物狩りに明け暮れていた。おかげで最大魔力量は増加し、ランキングも二位に上昇した。
(シン様が元気なら順位も変わらなかったでしょうが……)
一週間が経過したことで、シンの体調は当初より回復したが、まだ魔物狩りに参加できるほどではない。魔物討伐競争から棄権したに等しい状況であるため、アリアが二位にランクアップできたのだ。
(やっぱり私が頑張らないと)
アリアは意気込んで、屋敷の居間に顔を出す。そこには家臣たちが集まり、机の上に資料を並べていた。
「アリアさん、我々の調査結果を報告させてください」
カイトたちはランクCの魔物について調査してくれていた。一週間でこれだけの情報を収集できたのは、彼が部下をまとめ上げ、適切な指示を出してくれたおかげだ。
(私が魔物狩りに集中できたのもカイト様のおかげですね。本当に彼がいてくれて助かりました♪)
影の立役者とはまさに彼のことだ。感謝しながら、報告書に目を通していく。
「ランクCの魔物を二体も発見してくれたのですね」
「アリアさんと違い、我々ではオークを倒すのが限界ですから。情報収集くらい役に立たないと立つ瀬がありませんよ」
「そんなことは……」
アリアはカイトたちに感謝していたが、彼らは無力さを歯痒いと感じていたのか奥歯を噛み締めている。
(今は慰めの言葉よりも実績ですね)
彼らに自信を取り戻してあげるには、ランクCの魔物討伐に貢献できたと実感させてあげることが重要だ。
二体の内、どちらの魔物ならより倒せる確率が高いか。書類を読み終えたアリアは、ふぅと息を吐く。
「どちらの魔物も厄介な敵ですね」
「はい。一体はグリフォン。鷲の頭と翼を生やし、獅子の胴体を持つ怪物です。金貨を集める収集癖があり、丘の上を陣取っているので、そこから移動することもありません」
「居場所が分かっているのは大きい利点ですね」
戦う相手を決めても、その魔物を発見できなければ、何も始まらない。定位置から動かないでいてくれるのは、計画を立てる上でも都合が良い。
「ですがグリフォンはランクCでも上位の魔物です。しかも使用する魔術も不明です。リスキーな相手になります」
「ならもう一体のアイアンスライムはどうですか?」
「鉄が液状化した魔物で、頑丈で有名です。そのため防御を貫けるだけの突破力が求められます」
「それなら問題ないですね。こちらにはギン様がいますから」
ギンの爪と牙なら鉄の肉体をも貫ける。心配は無用だ。
「確かにシルバータイガーなら倒せるでしょうね。ただし攻撃が当たればという前提付きですが……」
「もしかして素早い魔物なのですか?」
「加速の魔術を使うそうで、そのスピードは目で追うのがやっとだそうです」
「それは厄介ですね」
「ですが攻撃手段は体当たりしかないため、その威力は私たちでも耐えられるほどです。悪戯好きなのか、人を襲っては逃げる習性があるため、こちらも発見は容易ですね」
どちらと戦うかは一長一短だ。アリアは顎に手を当てて思案し、相性も加味した上での結論をだす。
「アイアンスライムと戦いましょう」
「理由をお聞きしても?」
「一番はギン様との相性ですね。グリフォンに空を飛ばれては、ギン様の牙が届きませんから。それに……どんな魔術を使うか分からない相手と戦うのは怖いですからね」
魔術を使う者同士の闘いで最も恐ろしいのは未知である。相手の事前情報がないと、勝敗の予測も正確に見積もることができない。魔術が判明しているだけ、アイアンスライムは戦いやすい相手だと言えた。
「では、さっそく私は出かけますね」
「どこへです?」
「アイアンスライムを倒しにです」
「い、今からですか⁉」
計画では最終日にランクCの魔物を討伐する予定だった。猶予を少しでも多くとることで、アリアの戦力強化に割く時間を増やすことが狙いだった。
「もし相手がグリフォンなら最終日にしたでしょうね。ですが相手はアイアンスライムですから」
「なるほど。負けてもノーリスクだからですね」
「そういうことです」
アイアンスライムの体当たりで致命傷を負うことはない。つまりリスクを負うことなく、ランクCとの魔物との戦闘経験を積めるのだ。
このチャンスを活かさない手はない。納得したのか、カイトは頭を下げる。
「アリアさん、シン皇子のためにも頑張ってください」
「ふふ、もちろんですよ」
カイトに続くように家臣たちも軽く頭を下げる。強敵と戦ってくれるアリアに感謝する彼らは、その小さな背中を見送るのだった。
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