第三章 ~『バージルの屋敷』~


 バージルの屋敷へと案内されたアリアは、その厳威ある外観に圧倒される。


 屋敷内へと案内されてからも感嘆の連続で、王国の文化も取り入れつつ、和のテイストを維持した和洋折衷建築に目を惹かれてしまう。赤絨毯が敷かれた洋風の廊下と、窓の外に広がる和風の庭園が上手く調和していた。


「この先に第七皇子様がいらっしゃいます」


 男が扉を開けると、その先は食堂になっていた。白いテーブルクロスが敷かれた長机に料理が並べられ、バージルが腰掛けている。


「まさか君がアリアンなのか……」


 案内されたアリアに驚き、バージルは目を見開く。


「今朝に会って以来ですね」

「あの時は君がアリアンだとは知らなかったけどね」


 アリアは促されるままに椅子に腰掛ける。目移りするほど豪華な料理が並べられているが手を伸ばそうとは思わない。小さなことでも貸しを作りたくないからだ。


「まずはおめでとう。ランキング三位だね」

「バージル様はランキング一位ではありませんか」

「僕はずっと一位さ。このまま誰にも負けるつもりもない。でも派閥同志の争いは個の闘いではないからね。君がシンと手を組むと非常に厄介な事態になる」

「それが呼び出した用件ですか?」

「ああ。改めて伝えよう。我らの仲間になって欲しい」

「申し訳ございませんが、私の答えは変わりません」

「知っている。だから交渉の材料を用意した」


 バージルが合図すると、使用人によって料理が提げられ、代わりに金貨の山が積まれていく。その額はアリアが見たことのないほどの大金だった。


「金貨一万枚だ。君にはこれだけの価値があると判断した」

「…………」


 元々、安月給で扱き使われてきたアリアだ。具体的な金額と共に価値があると褒められて悪い気はしない。


 しかし金よりも大切なものがある。アリアはゆっくりと首を横に振った。


「ありがたい申し出ですが、お断りします」

「なぜだ⁉ これほどの大金だぞ」

「それでも、シン様は大切な人ですから」

「………」


 アリアの意思は固いと悟ったのか、バージルは黙り込んで目を閉じる。そして覚悟を決めたようにゆっくりと瞼を開く。


「君がシンに味方をすると僕らは負ける。でも僕は負けるわけにはいかない。だから……手段を選ぶのはもう止めるよ」

「私を無理矢理従わせますか?」


 相手がその気ならアリアも躊躇しない。ギンやシルフを召喚すれば、逃げることは造作もないし、バージルを倒すこともできる。


「まさか。僕は君の事を気に入っている。傷つけたりするものか」

「そうですか……」

「でも君はきっと後悔する。あの時、僕に従っておけばよかったと悔やむはずさ」


 バージルが手を鳴らして、使用人に帰宅の合図を告げる。彼の言葉に不安を残しつつも、アリアは屋敷を後にする。この選択がどのような結末を生むのか、この時の彼女はまだ知らなかった。


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