第三章 ~『三人の実力者』~
ロックジャイアントの大群との死闘を終えたアリア。無事、すべての敵を倒した彼女は、討伐報酬を受け取るために冒険者組合へと向かっていた。夕日で照らされた石畳を歩きながら、成果に満足して笑みを零す。
(大量の魔石が手に入りましたね♪)
すべてランクDの魔石だ。報酬は期待できる。
さらにロックジャイアントの魔石があれば、シルフに土魔術を習得させられる点も大きい。戦力の強化だけでなく、叶えたい夢への可能性が開かれたことを意味していたからだ。
(いつか家庭菜園をやりたいと望んでいましたが、現実味を帯びてきましたね……土魔術が使えると効率が変わってきますから……)
食にこだわるアリアだ。野菜や果物も理想を追い求めたい。そのための家庭菜園だ。
(魔苺に並ぶ味を再現したいものですね)
アリアは市場で食べた苺の味を忘れられずにいた。もし自分で作れるようになれば、毎日だって食べられる。あの味を再現するために必要な魔術を得たことが、彼女にとって最大の収穫だった。
(ふふ、苺を育てられるようになったら、シン様にもご馳走してあげたいですね)
ショートケーキやタルトなど苺を使ってデザートはたくさんある。毎日の食卓はより充実したものになるはずだ。
(考え事をしていると、到着するのも早いですね)
いつの間にか冒険者組合へ辿り着いていた。扉を開けると、客の姿がちらほらと伺える。カウンターへ向かうと、いつもの受付嬢が出迎えてくれる。
「いらっしゃい。今日も魔物を討伐してきたのね」
「今回は大量なので、きっと驚くと思いますよ」
「今までも十分に驚いてきたし、耐性はできているわ。さぁ、魔石を見せて頂戴」
「では……」
アリアは収納袋から取り出した魔石の山をカウンターの上に積む。その量にさすがの受付嬢も腰を抜かしそうになっていた。
「こ、これを、全部を倒したの?」
「はい。少なかったでしょうか?」
「十分すぎるくらい多いわよ」
受付嬢はカウンターに積まれた魔石の一つ一つをルーペで入念に確認していく。そのたびに驚きで目が見開いていく。
「まさかこの魔石、すべてロックジャイアント?」
「そうですよ」
「ランクDの魔物の中でも上位種をよくこんなにも大量に倒せたわね」
「ふふ、相性が良かっただけです」
シルフの炎と水の魔術があったからこそ勝てた相手だ。もしこの力がなければ、もっと苦戦を強いられていただろう。
鑑定が終わったのか、受付嬢はルーペを机の上に置く。
「素晴らしい成果だわ。まずポイントね。これで、あなたのランキングは三位に上昇よ」
「とうとうここまで来ましたね」
アリアより上の人間はもう二人だけだ。ランキング二位はシン、一位はバージルである。
「あなたも含めてトップ3は怪物ばかりね」
「怪物ですか?」
「四位以下とはポイントに雲泥の差があるもの。まぁ、それも当然ね。なにせあなたたち、三人だけがランクDの魔物を倒せるんだから」
ランクに応じて得られるポイントは大きく差がある。だからこそアリアは魔物討伐の競争に途中参加したにも関わらず、三位に躍り出ることができたのだ。
「四位はカイト様なんですね」
「第八皇子の派閥よね。ランクEを地道に倒すことで功績を上げてきた努力家ね」
「第五位は謎の武術家Xさんですか……」
「いったいどこの誰なんでしょうね」
所属の記載がない上に、本名でもないため特定は難しいだろう。謎は深まるばかりだ。
「魔石もすべて買い取りでいいかしら?」
「一つだけ持って帰ります。残りはすべて売却で」
「なら報酬の金貨はこれね」
革袋に大量の金貨が詰まっている。受付嬢のことを信頼しているため、収納袋にそのまま仕舞う。枚数のチェックは後からでもいい。
「では、お世話になりました」
受付嬢に礼を伝えて去ろうとする。その時だ。一人の男が近づいてくる。
「あんたがアリアンだな」
高圧的な態度の男をアリアは知っていた。バージルの家臣で、かつてオークを討伐したからと列に割り込んでいた男だ。
「第七皇子様があんたにご用命だ。付いてきてもらおうか」
有無を言わさぬ命令口調で告げられる。拒否するべきか悩むが、カウンターに積まれた魔石のせいで言い逃れもできない。
「いいですよ。ただし私の時間を無駄にしないでくださいね」
「もちろんだ」
アリアが大人しく従うと決めたのには理由がある。
(シン様にとって有益な情報が得られるかもしれませんからね)
わざわざ呼び出すほどの用件に期待しながら、アリアは男の背中を追いかけるのだった。
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