第三章 ~『ロックジャイアント』~


 バージルから役に立つ情報を手に入れたアリアは、さっそく魔物の森へと足を運んでいた。


 外壁から遠い位置には他の冒険者の姿もなければ、過去にいた形跡もない。これはバージルの家臣たちがいないだけが理由ではない。


 実力に不安のある冒険者たちは、万が一の時に救援が来る望みに懸けて、外壁の傍から離れないからだ。


 つまりは誰もいない狩り放題の状態である。


(特にランクDの魔物が手付かずなのは有難いですね)


 バージルの店にはサラマンダー以外にもランクDの魔石が商品として並べられていた。彼らに討伐された分、絶対数は減ってしまうため、発見するのも討伐も困難になる。ライバルがいない恩恵は大きい。


「さて、いきますよ、ギン様、シルフ様」


 頼りになる相棒たちを召喚し、索敵をお願いする。数分後、シルフからの念話が届いた。


『マスター、ランクDの魔物を発見しました』


 相棒たちと合流し、アリアは魔物のいる地点へと向かう。そこには巨大な岩石で肉体が覆われた怪物――ロックジャイアントの姿があった。


(これは強敵ですね)


 見上げるほどの巨躯に、硬い肉体。頭に弱点があり、そこさえ破壊できれば倒せるが、四肢は破壊されてもすぐに土の魔術で修復可能な厄介な相手だ。


(でも負けるわけにはいきませんね)


 ギンに頭部を攻撃するように指示を出す。すると、ギンはロックジャイアントの身体を駆けあがり、頭に牙が届く位置にまで辿り着いた。


(ギン様ならやれるはずです!)


 その期待に応えるように、ギンの牙がロックジャイアントの頭に突き刺さる。だがヒビが入るだけで貫通するまでに至らない。


(ギン様の攻撃力でも倒せないなんて……)


 防御に特化した魔物だからなのも理由だろうが、それだけではない。ロックジャイアントは今まで倒してきたランクDの魔物よりも上位種なのだ。


(同じランク帯でもその中で強弱がありますからね。油断しました)


 ロックジャイアントはギンを掴むと、そのまま地面に叩きつける。落下の衝撃を受け流すようにギンは地面を転がる。無傷とまではいかないが、大きなダメージは負っていない。


「ギン様、一旦退いて作戦を――」


 アリアが言い終えるよりも前に、ロックジャイアントは土の魔術で巨大な腕を地面から生成する。


 生えてきた腕はまるで意思でもあるかのように、拳を握ってギンへと振り下ろした。地面を砕く音と共に砂埃が巻き上がる。


「ギン様!」


 心配で声をかけるが、ギンの姿はない。どこにいったのかと視線を巡らせると、ロックジャイアントの頭上で改めて牙を突き立てるギンの姿が見えた。


(ギン様はまだ諦めていません。私が逃げては駄目ですね)


 頭を巡らせ、硬い装甲を打ち破る手を考える。そして脳裏に閃きが奔った。


「シルフ様、炎と水で頭部を攻撃してください」


 アリアの指示に従い、シルフは魔力を消費して、炎と水の弾丸を宙に浮かべる。その照準をロックジャイアントの頭部に向けると、ギンに当たらないように注意して発射する。


 放たれた炎が岩で覆われた頭部を焼き、次弾の水が冷却する。急激な温度差で、頑強な頭部にもヒビが入った。


(これなら割れそうですね)


 石が硬いのは結晶構造をしているためだ。熱を加えて膨張させ、冷やすことで収縮させると、ゆがみが生じて脆くなる。アリアはその仕組みを利用したのだ。


「ギン様、壊れやすくなった部分を狙ってください」


 シルフの頑張りに報いるように、脆くなった頭部に牙を突く刺す。先ほどと違い、その一撃はロックジャイアントの頭に深く突き刺さった。


「グオオオオオッ」


 ロックジャイアントが雄叫びをあげながら膝から崩れ落ちる。巨躯が倒れると、そのまま魔素になって霧散した。


「やりましたね、ギン様、シルフ様!」


 頑張りに報いるように、相棒たちをギュッと抱きしめる。大きな成果を得られたことに、仲間たちに感謝した。


「この魔石があれば土の魔術を習得できますね」


 アリアは嬉しそうに魔石を拾い上げる。土は応用の効く力だ。便利な能力の習得に口元に小さな笑みを浮かべていると、遠くから地響きが聞こえてきた。


(いったい何の音でしょうか?)


 音は次第に大きくなり、その正体が明らかとなる。ロックジャイアントの群れが近づいてきたのだ。最後の雄叫びが仲間を呼ぶためのものだったのだと、今になって気づく。


(でもある意味で幸運ですね)


 ロックジャイアントの攻略法は分かっている。今なら狩り放題だ。


「ギン様、シルフ様、行きますよ」


 アリアはロックジャイアントへと立ち向かう。頼りになる仲間たちのおかげで、一抹の不安さえ感じることはなかった。


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