第三章 ~『オルカとの闘い』~


 魚を満喫したアリアたちは、洞窟の先へと進んでいく。入口から遠のくほど明るくなるのは、魔力の残滓が光源になっているからだ。つまりより強い魔物がいる証拠でもある。


(シン様が強敵だと太鼓判を押すほどですからね)


 実力者の彼が警告するほどだ。油断できない相手がいることは間違いない。


『マスター、魔物が近づいてきます』


 先行しているシルフから警告が届く。向かってきたのはゴブリンだ。


(あのゴブリン、なにかに怯えているようですね)


 その見立てが正解だったと証明するように、傍を流れる地下水から影が昇ってくる。


 水面に顔を出した影の正体は鯱の魔物だった。放つ魔力量から強敵だと推察できる。


(あれはランクDのオルカですね)


 ゴブリンは後ろを振り返り、オルカの挙動を確認する。逃げていたのは、オルカに怯えていたからだと知る。


(どうして魔物同士で争いを……)


 オルカは高圧力の水鉄砲を発射し、ゴブリンの足を撃ち抜く。血を流すゴブリンに追い打ちをかけるように、腕や肩も水の弾丸で貫いていく。


 もうこれ以上、いたぶる箇所がなくなるほどにボロボロにすると、オルカは嬉しそうに鳴き声をあげる。続いて、トドメの一撃として、ゴブリンの頭を水鉄砲で撃ち抜いた。ゴブリンは魔素となって消え去ってしまい、魔石だけが川岸に転がった。


(まるで虐めですね。あ、でも鯱を原型としているなら、ありえるのかもしれませんね)


 鯱は知能が高い。そのため他の生物を虐めることがある。魔物に進化していく過程で、その残虐性を残したのだろう。


 食べるためでもなく、虐めの快楽のためだけにゴブリンを襲うオルカが、とても醜悪な生物のように感じられた。


「加減はいりませんね……ギン様、やっちゃってください!」


 アリアの命令を契機に、ギンはオルカに向かって駆けだす。その突進を止めるため、オルカは水の砲撃を放った。


 正確無比なコントロールだが、だからこそ読みやすい。ギンは躱すために横に飛ぶ。すると水の砲弾は追尾するように、急カーブを描いて、ギンに命中した。


「ギン様!」


 心配したアリアは声を掛けてから、遠隔で回復魔術の治療を行う。アリアのサポートを受けたギンは、負ったダメージが癒えたからか、闘志を燃やすように牙を剥いた。


(さすがはランクDの魔物ですね)


 水を自由自在に操っているのは、魔術を使っているからだ。ランクE以下とは違い、油断できない難敵である。


(オルカが使っているのは、きっと水魔術でしょうね。もし手に入れば、シルフ様はさらなるパワーアップを果たせます)


 炎を自由自在に操る魔術をサラマンダーから手に入れたシルフは、第一線で戦える大切な戦力となった。そこに水の力も加われば、対応力は格段に上昇するはずだ。


(ただこの状況で、この相手を倒すのは簡単ではありませんね)


 水の魔術は魔力から水を生成して操ることができる。ただオルカは周囲に地下水があるため、水を生成するための魔力を節約し、操る力に集中していた。


(でも勝つための策はあります)


 他者を虐めるオルカは知能もプライドも高い。そこに付け入る隙がある。


 アリアは先ほどオルカによって倒されたゴブリンの魔石を拾うと、オルカの頭上を狙って投擲する。


(いまです!)


 アリアの遠隔の回復魔術によって魔石はゴブリンへと変化した。棍棒を振り上げたゴブリンは、そのままオルカへと一撃を加えるために落下する。


 最弱のゴブリンの一撃は、オルカの魔力の鎧を貫くことはできない。しかし肉体的な負傷を負わずとも、格下からの攻撃をプライドの高いオルカが許せるはずもなかった。


 空中で躱せないゴブリンに、オルカは改めて水の弾丸を放つ。その強力な一撃はゴブリンを吹き飛ばし、魔素となって消滅させた。


(この一瞬の隙が命とりです)


 水の弾丸は連射できるわけではない。一撃を放つたびに溜めの時間が必要だ。


 その隙を突くように、ギンが間合いを詰めて、オルカに飛び掛かる。ギンの牙がオルカの肉を裂いて突き刺さった。


 オルカは血と魔素を吹き出しながら、悲鳴をあげて沈んでいく。ギンもまた牙を抜こうとしないため、溜まった地下水の底へと沈んでいく。


「ギン様!」


 アリアが心配そうな声をかけると、魔石を咥えたギンが泳いでくる。水際まで戻ってくると、ブルブルと身体を震わせ、付着した水を振り払った。


「さすがはギン様ですね♪」


 駆け寄って、ギンを褒めてやる。シルフも気を効かせて、炎の魔術で、身体を冷やしているギンを温めてあげていた。


「いつもギン様の頑張りには助けられますね」


 オルカの魔石を手に入れたことで、水を自由自在に操れるようになった。


 お土産の鮎もシンたちに喜んでもらえるはずだと期待し、アリアは駆け足で来た道を戻るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る