第10話 アリアとの再会


 船はポート・コルに到着した。


 このポート・コルはアサイラム王国の中でも大規模な港街の1つだ。

 中継島としての役割を果たしており、ここから多くの定期船や連絡船、冒険者ギルドの船や、外国からの船が入ってくる。

 人や物の行き来が圧倒的だった。


 船から降りた俺は、操縦士に雇い金とは別にいくつかの魔石を渡した。


「えっ、こんなに頂けるんですかい!?」


 操縦士は信じられないとばかりに魔石をマジマジと眺めている。


「うん。結構採取できたからね」

「マジですかい。ホントお客さんたちは攻略時間は速いし、太っ腹だしで最高でさぁ! またご贔屓にお願いします!」


 満面の笑みを浮かべた操縦士に見送られて、俺たちは街の方に向かった。


「フィン様はお優しいんですね」

「いや、まぁ」


 俺は別に優しさから魔石を提供したわけではない。

 フリーの海洋冒険者にとって、船とその操縦士はかけがえのない存在だった。なんせ船がないと孤島ダンジョンに挑戦もできないのだから。

 彼らに気に入ってもらうに越したことはない。


 ◆


 俺たちがこのポート・コルに留まる理由は2つある。

 1つは単純に資金稼ぎの為。ここはクエスト屋の依頼も豊富だから、金稼ぎに丁度いい。


 そしてもう1つの理由。それは俺に危害を加えたがっている謎の人物、或いは組織の情報を集める為だった。

 このポート・コルは人の出入りが激しいから様々な情報が行き交っている。どんな情報だってそれなりに手に入れることができるとルルカは自信満々に言った。


 クエスト屋で魔石を換金した後、ガンネローズ姉妹とは別行動を取ることになった。


「あたしらは今から馴染みの情報屋に会ってくるよ」

「フィン様にも一緒に来ていただきたいのですが、あの女ひとは顔見知りでない者と会うのを極端に嫌がりますので……」


 レミーが残念そうに言う。


「フィン、あんまり一人で動き回るなよ。お前を狙っているヤツがこの街にいないとも限らないからな。ま、あたしらが戻ったら、上手い飯でも食いに行こうぜ」


 そして俺たちは別れた。


 ルルカにはあぁ言われたけれど、俺は少しだけ街を散歩することにした。

 港がある北側とは反対の砂浜が広がる南側に足を伸ばす。


 穏やかに波が打ち寄せている砂浜に幾人か腰掛けてのんびりしている。既に太陽は西に傾きかけている時刻である。

 港の騒々しさとはまるで真逆の環境だった。


 海を見ながら南に砂浜を歩いていると、ふと前方から微かに歌声が聞こえてきた。

 とても美しい歌声だ。前方の岩礁地帯の方から聞こえる。俺はそちらの方に吸い寄せられるようにして近づいて行った。


 一瞬、これは罠ではないかと考えたが、すぐにソレを否定する。歌声にはまったく悪意を感じない。そう直感していた。


 岩礁地帯に足を踏み入れる。

 さらに歌声がハッキリと聞こえだした。


 そして、とりわけ大きな岩礁を超えた先、海水に半ば浸った岩の上にその歌声の主がいた。


「あっ!」


 俺は思わず驚きの声を上げる。

 燃えるような赤髪に、夕日に輝く鱗。


「アリア!」


 人魚アリアがそこにいたのだ。

 彼女はゆっくりと俺の方を振り返り、ニッコリと微笑む。


「ね、言ったでしょ? また会えるって!」


 まるで俺との再会を予期していたような言い方だ。


「アリア、もう海賊たちには追われていないのか?」

「うん、あの時はたまたまドジッただけだもん。けどそのお陰で君と会えたわけだけどね」

「……」


 アリアには聞きたいことがあった。


「なぁ、君はシャーク・サモナーのことを何か知っているのか?」


 そもそも俺が覚醒したきっかけはアリアだったのだ。彼女はこの謎のサモナーについて何か知っているような気がする。


「ある程度は知ってるよ。フィンはサメズ・シャクリトのことは知っている?」

「サメズ・シャクリト? いや、知らない」


 聞いたことがない名前だ。


「鮫人族のことは?」

「いや、聞いたこともないよ」

「ダゴンのことは?」

「いや、知らないな」


 アリアはコクリと頷いた。


「遥か大昔、この世界に邪神たちがやって来たらしいんだ」


 アリアはどこか遠くを見るような目で語りだした。


「その邪神たちは圧倒的力でこの世界の海と陸を支配していった。ダゴンはその一柱なんだよ」


 邪神ダゴン。

 随分とスケールの大きな話だな。


「ダゴンの支配により、陸上に住む者も海底に住む者もみんな苦しんだ。その状況を良しとしない海神様は、彼らを救うために救世主を遣わせた。それがサメズ・シャクリト。そして彼に従っていたのが鮫人族だったの。彼らの活躍によってダゴンは封印され、世界は救われた」


 アリアはジッと俺を見つめる。


「そのサメズ・シャクリトが使っていたのがシャーク・サモナーの召喚術だよ」


 なんてことだ。俺のこの力がかつての救世主が使っていたモノと同じだって?

 にわかには信じがたい話だ。


「フィンは、というか陸上の人たちはみんなこの話を知らないんだよね?」

「あぁ、初めて聞いたよ」

「だろうね。陸上の人たちは忘れてしまった、というか忘れさせられたんだ。邪神の信奉者、ダゴン深海教団によってね」


 アリアは俺を指差す。


「彼らダゴン深海教団が、君を狙っている者たちの正体だよ。彼らは恐れているの、サメズ・シャクリトの力を受け継いだ者をね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る