第2話 メガロドン

 体の中にとてつもない魔力のうねりを感じる。


「うおおおおおお!!」


 俺はその魔力を外へと発散させた。

 光の円が現れ、そこからサメが這い出て来きた。


 サメは俺に巻き付いているウミヘビたちに器用に噛み付くと、そのまま引きちぎっていく。


 俺は立ち上がって伸びをした。

 あぁ、ウミヘビに巻き付かれるのはもう懲り懲りだ。


「上手く使いこなせるようになったんだね、シャーク・サモナーくん!」


 人魚が楽しそうに言う。


「君は何をしたんだ?」

「さあねー」


 俺の質問をはぐらかす人魚。

 俺がさらに質問しようとした時、突然祭壇が激しく震え出した。


「な、なんだぁ?」


 祭壇が真っ二つに割れ、そこから数多の黒いウミヘビが湧き出てくる。


 小さい島がウミヘビに埋め尽くされそうになる。

 俺は召喚したサメの背に乗って海に脱出する。


「逃がさないぃー!!」


 割れた祭壇の間から、今度は巨大な緑色の肌をした手が突き出された。

 その巨大な手は祭壇を押し広げ、今度は巨大な女の頭部が現れた。肌は緑色、そして頭の上には髪の毛ではなくウミヘビが生えている。


 巨女は俺に視線を向けると、舌舐めずりした。

 いや、怖いんだが。


 頭部の次は女体の上半身が、そして下半身には足ではなく巨大な四体のウミヘビが生えていた。


「うへー、復讐の女神の本体だねー!」


 人魚は呑気な調子でそう言った。肝が据わっているのか、もしくはただの能天気か。


 海賊船の方でもガヤガヤと騒々しくなっている。あっちは後にしたほうがいいな。


 まずはこのウミヘビ女だ。


「あぁ! 愛しき人! 抱きしめてぇ!!」


 身をくねらせながら復讐の女神は俺の方に近づいてくる。

 下半身のウミヘビたちが威嚇するように俺たちを見下ろしている。


 だが、大丈夫だ。

 俺の体内の魔力は荒波のようにうねりまくっている。この感覚がある限り、負ける気がしない。


「あんたなんか俺のタイプじゃないんだよ!」


 俺は海に手を翳した。


 《極星召喚》シャーク軍団レギオン!!


 周囲の海面が光り、その中から何百というサメが海面に現れた。


「わわっ! 凄っ!」


 人魚が驚きの声を上げる。


 そして、巨大なウミヘビたちが俺たちに襲いかかってきた。


 返り討ちにしている!


「喰らい尽くせ!!」


 俺の命令を聞いた何百というサメたちが、一斉に海面から飛び上がり、復讐の女神に襲いかかる。


 下半身の巨大ウミヘビたちに、彼女の上半身や、顔、頭のウミヘビたちにとサメたちは喰らいつき、その元の形がわからなくなるくらいサメに覆い尽くされている。


 これがシャーク軍団レギオン。


 召喚しといて何だが、とても恐ろしい光景だ。


 やがて復讐の女神の断末魔の叫びが聞こえた。と同時に弾けるような音がしたかと思うと、トラップダンジョンが崩壊していく。


 跡には、青空の下に穏やかな海と砂浜の小島だけが残されている。


 復讐の女神も、シャーク軍団の姿もない。召喚時間が過ぎたのだろう。だけど、俺が背に乗るサメだけはまだ残っていた。


「おぉ、ダンジョンごと吹き飛ばすとは、やるねぇ!」


 人魚が関心したように言う。

 そして彼女は背後を振り返る。


「さてと、今度はあっちをどうにかしないと!」


 彼女の視線の先には海賊船がある。

 今その船から二曹の小舟が降ろされ、海賊たちが小島に向かってきていた。

 復讐の女神が消えてくれて、これ幸いにと人魚捕獲に乗り出したわけだ。


「何が起きたかは知らねぇが、とにかく人魚を捕まえろ! 男の方は殺しちまえ!」


 殺気立った海賊たちが刻一刻と近づいて来ている。


「あらら、あいつらあたしのこと捕まえて酷いことするつもりだよ。そんなの許せる?」


 許せるかって?

 当然、


「そんなことはさせない!」


 俺は再び体内の魔力を練り上げる。今、俺はキテいる。ビック・ウェーブ押し寄せて来ているぜ!


 よーし、今度は特大なのを見せてやる!


 俺は海面に手を翳す。


 《通常召喚》メガロドン!!


 海面の光の中から海賊船よりも大きなサメが姿を現した。

 その召喚の余波で小舟の海賊たちは海に投げ出されてしまう。


「な、なんじゃこりゃー!!」

「ま、魔弾砲で応戦しろ!!」


 海賊船の海賊たちが慌てふためいている。その間にもメガロドンはその大きな背鰭を覗かせながら船に突撃する。


「喰らいつくせメガロドン!!」


 メガロドンは海賊船の側面から飛び上がり、その大きな顎で船を真っ二つに噛み砕いた。


 大きな水柱が上がり、海面が荒れ狂う。


 その間、2つに裂かれた海賊船は沈んでいった。


「わぁ、すごいね君のサメ!」


 人魚がパチパチと手を叩きながら言う。


「ホント助かったよ。ありがとう!」

「礼を言うのは俺の方だよ。君のお陰でまともに召喚術が使えるようになったんだから」


 俺は心からの感謝を述べた。


「んふふ! キスした甲斐があったねー。あ! あたしもう行かないと!」


 人魚はいきなり海に潜り込もうするので、俺は呼び止めた。


「あ、待ってくれ。君の名前は?」

「あたしはアリアだよ。あなたは?」

「俺はフィンだ。ホントにありがとなアリア」

「どういたしまして。じゃあね、フィン! あたしたち、きっとまた会えるよ!」


 彼女はそう言って海の底に泳いで行ってしまった。


「た、助けてくれー!」


 船から脱出した海賊たちが助けを求めてくる。さすがにこのまま放置しておくのは目覚めが悪いので、とりあえず憲兵に突き出すことにした。


「あれ、ここどこだ?」


 ダンジョン内に入った海域とはまた別の場所になっている。

 もっと沖合で周りには島などなかったはずなのに。今は周囲に島が見える。


 これはきっとダンジョンが移動したからだろう。孤島ダンジョンは普通の島とは違って移動したりする。だから入った時と出た時では海域が別の場所になっていることはたまにある。


 今回はそれが味方してくれた。おかげでアリアや海賊船が迷い込んで来てくれたのだから。もし、元の場所だったら今もまだ復讐の女神に囚われたままだったかもしれない。


 きっとアリアとの出会いが、俺の2度目の人生の転機だったんだ。

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