「お前、船降りろ」と置き去りにされた召喚士、覚醒して【Z級シャーク・サモナー】となる 〜邪魔するヤツは最強サメ軍団で喰い付くしてやる
一本坂苺麿
第1話 シャーク・サモナー
「人には人生最大の転機が3回訪れる」
そんな言葉をどっかで聞いた覚えがある。
正直俺はこの言葉が嫌いだ。だって、たったの3回だけだなんて少なすぎるだろ。もし気づかずやり過ごしてしまったらどうするよ? 後から気づいても悔やみきれないね。
だけど俺は確信した。今この瞬間、俺の人生最大の転機が訪れようとしていることを。
アサイラム王国召喚士養成所。
ここで俺は基礎的な魔術、召喚術の知識を学び、今日初めて召喚を行う。この【召喚の儀】で呼び出せる召喚獣が決まるのだ。変更はできない。その種類によってSからC級に分類されるのだ。
S級サモナーとC級サモナーじゃ、その後の待遇は雲泥の差だ。
この最初の召喚でS級は無理でも、A級の召喚獣を呼び出さないと……
そんな風なことを考えていると、前方の召喚の間に金色の光が走った。
そして召喚の間を埋め尽くすほどの大きさのドラゴンが姿を現した。周囲がざわめく。
「S級! ドラゴン・サモナー!!」
大召喚士様が叫ぶ。
たった今ドラゴン・サモナーとなった羨ましき青年が対面からやって来る。彼の瞳は金色になっていた。召喚の儀を終えた者は瞳の色が召喚獣に応じて変化するのだ。
あぁ、金色! カッコいい!!
「フィン・アルバトロス!!」
そうこうしている内に俺の名前が呼ばれた。
緊張しながら召喚の間に足を踏み入れる。対面に大召喚士たちが長机に偉そうに踏ん反り返っている。どうせ俺になんかC級しか出せないと思っているに違いない。
「では、はじめなさい」
真ん中に座る大召喚士が指示を出した。俺は一度深呼吸し、これまで習った手順どおりに召喚術を使った。青い光が発せられ、その光の後から現れたのは……
ピチピチピチピチ……
俺の足元で飛び跳ねるそれは……
「魚!?」
俺は床で飛び跳ねている魚を呆気に取られて眺める。周囲の人たちもドラゴン・サモナーの時とは違い、シンと静まり返っている。やがて、真ん中の大召喚士が呟いた。
「……Z級じゃ」
その言葉によって周囲に動揺が波紋のように広がる。みな俺のことを奇異なモノを見るような視線を向けてくる。
Z級。
それはSからC級に属さない規格外を意味する。
◆
1年後。
俺はとある海洋冒険者ギルドに所属していた。海洋冒険者は船に乗って海に点在する孤島ダンジョンを攻略したり、深海からやって来る魔物の討伐を主な仕事にしている。
ギルドの所有の船の1つであるこのアフリバーク=ボルテア号に俺は召喚士として雇われたのだが……
「おい、フィン! デッキを磨いとけ!!」
先輩冒険者から怒鳴られながら、俺は黙々と船のデッキを磨いていた。
この半年、俺はこのような雑用をこなしてきた。それもこれも召喚士としては落ちこぼれだったからだ。
「まったくなぁ。Z級と聞いていたのに、召喚できるのが役にも立たない魚! しかも食うこともできねぇ!」
などと、他の冒険者たちには馬鹿にされてばかりだ。
クソ、言い返したいけど、事実だから何も言えねぇ。
いっそシップ・クリーナーにでも転職しようか、などと考えながらデッキを磨いていると、船長がやってきた。
「よぉ、お前らに新しい仲間を紹介する! A級航海士のウィルだ」
船長の横に長身のスラッとした体型の男が立っている。嫌味な程爽やかな笑みを浮かべている。
「初めましてウィルです。みなさんのお役に立てるよう頑張らせてもらいます」
すると他の冒険者たちから歓迎の声があがる。
「今までちゃんとした航海士がいなかったからな」
そう、ボルテア号は1年前に初出航したばかりで、何の実績もなかった。だから予算も限られており、ロクな航海士が雇えなかった。雇えても1回の航海でバックレてしまう。だから航海士がいない間は俺がその代わりをしてきた。航海士は近海の様子から孤島ダンジョンの危険度を予測したりする役目がある。正式な資格は持っていないが、独学で勉強してきた。それなりに貢献してきたと思う。まぁ、召喚士として活躍できていない負い目をどうにかしたかったからな。
「半年前に比べて俺たちは急激に実績を積めるようになってきた。ちゃんとした航海士も雇えるわけだ。お前ら、この調子で早速孤島ダンジョンに向かうぞ!!」
船長の言葉を合図に慌ただしく準備がなされ、ボルテア号は出港した。
それから3時間後、船は目的の孤島ダンジョンの海域に近づいた。なんでも、ウィルが見つけ出した穴場のダンジョンらしい。
船長たちは大喜びで船をダンジョンと海の境界領域に進めた。
ふと潮の香りに混じって腐敗臭が鼻を突く。前方の孤島ダンジョンからだ。俺は船から身を乗り出し、海を観察した。波の間に黒い海蛇が見えた。これらは危険なダンジョンが迫っている予兆だ。このままじゃまずい。俺はウィルに向き直った。
「ウィルさん、黒い海蛇と腐敗臭です。これは危険なダンジョンが迫っている予兆です!」
俺は切羽詰まって提言したが、ウィルは鼻で笑う。が、その目には苛立ちがアリアリと浮かんでいる。
「君、僕を誰だと思っているんだ? A級航海士だぞ? あのダンジョンはそう危険じゃない」
他の冒険者たちもウィルに同調する。
「海藻でも見間違えたんだろ!」
俺の忠告など聞く耳を持たれず船は孤島ダンジョンの海域内に入った。
ダンジョン内は外から見える島の形とは見た目も大きさも異なる。今、俺らが入ったダンジョン内には、三日月型の砂浜だけが広がっている島だった。
その小島の中央には石造りの祭壇が見えた。その祭壇には枯れ木のようなモノが置かれている。
「おい、何だよこのダンジョン」
船長が望遠鏡を取り出して祭壇の方を見る。とたんにその顔が青ざめる。
「あ、ありゃミイラじゃねぇか!」
船長の言葉に他の冒険者たちは動揺しだした。あの枯れ枝に見えたモノは人のミイラだったのだ。
その時、突然空が赤く染め上げられた。
「あぁ、憎しや! あぁ、憎しや!」
ダンジョン内に女性の声が響き渡る。
「トラップダンジョン、復讐の女神の呪いだ!!」
誰かが叫んだ。
復讐の女神。
それはこの海に存在する強大な呪いの1つだった。
言い伝えによると大昔、海に住む女神は人間の男と恋に落ちた。しかし、その男の不義によって女神は深く傷つき、呪いを残して海の底に消えたらしい。
その呪いがトラップダンジョンとしてずっと残り続けているのだ。
「おいウィルどういうことだ! このままじゃ俺らは死ぬまでこのダンジョンから出られないんだぞ!」
船長はウィルを怒鳴りつけるが、当の航海士は平然としている。
「この呪いから開放される条件はわかりきっています。女神に生贄を差し出せば良いのですよ」
そう言ってウィルは僕の方を見る。
「え……?」
ウィルだけじゃなく船長や他の冒険者たちも俺のことをジッと見てくる。
「フィンくん、君は孤児院育ちだそうだね。ということは君の帰りを待つ家族はいないわけだ、他のみんなと違って」
ウィルはゾッとする程冷たい目で俺のことを見てくる。
確かに俺は孤児院育ちだ。でも、なんで今日会ったばかりのウィルが知っているんだ?
「なぁ、フィンよ」
船長が俺の肩を掴む。普段とは違っていやにネコ撫で声だ。
「お前は召喚士として何の役にも立たなかったな。ただの価値の無い雑用係だった。けど、やっとみんなの役に立てるぞ!」
船長は歪な笑みを浮かべる。
「お前、船降りろ」
それは俺に生贄になれという宣告だった。
他の冒険者たちがにじり寄って来る。
そしていとも簡単に俺を担ぎ上げ、海の放り投げた。
「おい、女神さんよ、ソイツをくれてやる。だから俺たちを開放しやがれ!!」
船長が祭壇に向かって叫ぶ。
「待ってくれ。助けてくれ!」
俺は船に向かって助けを求めた。航海士ウィルが見下ろしている。その口元には笑みが浮かんでいた。
いつの間にか俺の体に黒いウミヘビたちが巻き付いてきた。それらは物凄い力で俺の体を祭壇がある小島に引っ張って行く。その間にもボルテア号は遠ざかり、やがてダンジョンの境目を超えて姿が見えなくなった。
俺はそれは絶望しながら眺めるしかなかった。砂浜まで俺の体は引き上げられた。
「あぁ、今度は逃さない。永遠に私のモノよ……」
目の前に祭壇が見える。するといきなりミイラが起き上がり俺の方を見る。
「ありがとう……」
ミイラはそう言って粉々に崩れ去った。背筋が寒くなる。彼はあの状態でも生きたままだったのだ。いずれ俺もああなってしまう。
俺はなおも巻き付いているウミヘビを引き離そうともがいた。
と、その時、ダンジョンの境界面が揺らめいた。
そして一隻の船がダンジョン内へと入ってきた。掲げられている黒い旗には髑髏のマークが描かれている。海賊船だ。
その海賊船からいきなり赤髪の女の子が下の海に向かって飛び込んだ。
その女の子の足がみるみる内に魚の尾に変化していくのが見えた。
あれは人魚だ!
自分が囚われの身でありながら、思わず見入ってしまう。
人魚の女の子は俺の存在に気づいたらしい。手を振りながらコチラに泳いでくる。その速さは人間に出せるモノではない。
「おーい、大丈夫?」
女の子は俺に話しかけてくる。
「ここって復讐の女神の呪いだよね?」
「そうだよ。できれば助けて欲しいんだけど」
随分とのんびりとしている人魚の女の子に俺は助けを求めた。
「ふーん」
女の子はジッと俺の眼を見つめる。
海賊船はその間にもこちらにどんどん近づいてくる。
クソ! とんでもない呪いと荒くれ者集団の海賊に囲まれてしまうなんて……
「ねぇ、あなたもあたしもこのままじゃ囚われの身になるわけだけど、協力しない?」
「ここから出られるのなら何でもするよ」
彼女にこの状況を打開できる手段があるようには思えないけど、俺は縋り付いた。
「そっか、ありがとう」
人魚は俺に顔を近づけ、いきなりキスをしてきた。
瞬間、俺の頭の中に様々な映像が流れ込む。深い海の中、様々な海の生き物たちが周囲を行き交って行く。そしてさらにその奥から近づいて来るモノたちがいた。
とりわけ大きな体と凶悪な顎の持つ者たち。
海で恐れられている生き物。
サメだ。
そうか、これが俺の本来の召喚獣なんだ。
俺はこのとき初めて自分がシャーク・サモナーであることを理解した。
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